表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/72

再びのお誘い

 未佳は3日間仕事を休んだ。

 特に理由は言わなかった。

 英治は涙の訳も聞いていない。

 考えても答えは出ない。出るはずもない。

 それでも考えずにはいられない。

 離れているからこそ心は近づきたいと思ってしまう。

 英治は未佳に電話した。

 未佳はすぐにはでなかった。

 10コールが過ぎ、もう切ろうと思った時に繋がった。

「すみません、明日の配置ですか。」

 普段の声と変わりない。

 とりあえずホッとした。

「明日の配置はとっておきだよ。」

「また英治さんとデートですか。」

 これは嫌がっているのか。声のトーンで探ってみるも、ハッキリとは分からない。

 むしろ全く分からない。

 間が怖くてたまらない。

「分かりました。宜しくお願いします。」

 英治は心底ホッとした。

 と同時に不安でもあった。

 でもこれだけは言える。

 『会いたい』

 英治は残っている連絡と書類整理を行った。

 面倒な書類も多かったが、何も考えずにいられる為、少しありがたいと思ってしまった。


 そして次の日、外は大雨だった。

 ピンクの傘を持って立っている未佳。

 傘を両手でしっかりと支えている。

 それでも傘が重たそうに見える。

 それくらいに打ち付ける雨は強かった。

 英治の車を見つけた未佳は、手で合図を送ってから、開店前の洋服店の軒先に移動した。

 英治はその洋服店の前に路上駐車した。

 未佳は傘をたたむと、大きく息を吸い込んで、一気に車に乗り込んだ。

 それでもたった数秒のうちに、肩と髪は濡れてしまっていた。

「ものすごい雨ですね。誰のせいでしょうか。」

 未佳は英治を睨むように見ている。

「俺のせいなの、雨を降らせる能力なんてあるわけないだろう。」

 そう言いながらも、日頃の行いを振り返る英治であった。

「修学旅行の時って雨でしたか。」

「ええっと、小中と雨だったかな。高校はスキーだったから雪でも関係なかったけど。」

 未佳は薄ら笑みを浮かべた。

「やっぱり、私はいつだって晴れでしたよ。」

「いやいや、俺のせいじゃないでしょう。同級生の誰かが雨男なんだよきっと。」

「運動会はどうでした。」

「運動会は・・・残念ながら雨の記憶がないな。」

「残念ながら、ですか。運動会がキライだったんですね。」

「え、そっちの残念なの。俺が雨男じゃないって方でしょう。まあ、こう見えて、運動できないから嫌いだったけど。」

 未佳は満面の笑みで答える。

「大丈夫ですよ、ちゃんと運動できないって見えてますから。」

「え、そっち。全然大丈夫じゃないんだけど。」

 英治も笑顔になっていた。

 不安もどこかへ飛んでしまった。

 未佳といると楽しい。

 それだけで十分に思えた。

「それで今日はどこに行きますか。」

「あ、考えてなかった。」

「誘う前に考えなかったんですか。」

「いや、山にでも行こうかなって思ってたんだけど。」

「私はまだ死にたくないです。」

 ワイパーをフル稼働させているが、前方の視界は晴れない。

 英治は運転に集中するかのようにハンドルを握り直した。

「今は考える余裕がないんだってパフォーマンスですか。」

 見透かされている。

 英治は笑うしかなかった。

「もう笑うしかないってパフォーマンスですか。」

「それはパフォーマンスじゃないだろう。」

「ではハンドルの件はパフォーマンスだと認めるのですね。」

 英治は口をつぐんだ。

 そしてボソッとつぶやいた。

「刑事さん、私がやりました。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ