表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/72

クレームですか。(前編)

「お前んとこ会社はどうなってんだ。」

 電話越しからでも伝わる威圧感。

「少々お待ちください。ただいま担当と代わりますので。」

 主任はいたって冷静に対応している。

 さすがだなと見ていた英治にこう言った。

「英治、クレームだ。任せたぞ。」

 英治は訳が分からなかった。

「ほら、お客さん待たせると状況が悪くなるばかりだぞ。」

 英治は慌てて受話器をとった。

「大変お待たせしました。申し訳ありません、どういったご用件でしょうか。」

「どうもこうもない、お前んとこの警備員が議員さんを怒らせたんだよ。」

 全く話が見えなかった。

「申し訳ありません。できましたら詳細を教えていただけませんか。」

「なんだと・・・」

 どうやら火に油を注いだようだ。

 英治は慌てて言い直す。

「申し訳ございません。すぐにそちらへ伺います。」

 受話器を置いた英治に主任が近づいてきた。

「バカだな。そういうときは平謝りして、後から状況を聞くんだよ。まあ、現場は近くだし、とりあえず行って頭を下げてこい。」

 俺が悪いのか、英治は納得がいくわけがなかったが、ここはとりあえず現場に向かうことが先だ。

 その現場に今日配置されていたのは・・・未佳と雅人だ。

 簡単な道路工事だったはずだが。

 考えても状況は分からない。

 未佳か雅人に連絡を取れば良いのだが、状況が分からないうえ、二人から連絡がない以上、こちらから連絡するのは得策ではないかもしれない。


 現場は事務所から車で10分ほどだった。

 緩やかな曲がり道の片側車線を通行止めにしての道路工事だ。

 片側車線の区間も短く、お互いの姿や状況も視認できる比較的簡単な作業のはずだ。

 未佳と雅人は片側通行の誘導を継続して行っている。

 その傍らで5人ほどの人だかりができている。

 英治は少し離れた場所に車を停めると、小走りで人だかりに近づいた。

「大変ご迷惑をおかけしております。申し訳ありません。」

 5人の目線が一度に英治に向かった。

 英治は軽く息を切らせて、さも急いできました観を演出している。

 主任からの入知恵である。

「貴様があいつらの上司か。えらく若いな、この会社はどうなっているんだ。」

 スーツ姿の恰幅のよい初老の男性が、腕組みをして話しかけてきた。

 その声には威圧感が込められている。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。お恥ずかしながら状況が飲み込めておりません。どういった内容でしょうか。」

 スーツの男は踏ん反り返って何も言わない。

 隣にいた痩身で明るいグレーのスーツを着た、物腰の柔らかい年配男性が口を開こうとした。

 しかし作業服を着た中年男性がそれを遮るように話しだした。

 この現場の監督である。

「お宅の警備員のミスで、あわや大事故になるところだったんだよ。」

「それは大変申し訳ありませんでした。」

 英治は深々と頭を下げた。

 状況はこうだ。

 道路の片側車線を通行止めにして、ガス管の埋設工事を行っていた。

 未佳達は片側交互通行の合図誘導を行っていたが、ちょうどこの男性の車を通した時、工事していたパワーショベルが旋回し、そのバケットが車の近くを通過したのだ。

 勿論接触はしていない。

 しかし大事故に繋がる可能性も有る為、パワーショベルの旋回にも注意を払うべきだろう。

 未佳達には少し重荷だったかもしれない。

 でもそれがクレームにまでなるとは。

 それはこの男性が、市議会議員だったことが問題なのであった。

「このわしを誰だと思っとるか。わしの言葉ひとつで、お前ら明日から無職だからな。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ