表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編コメディシリーズ

魔王の城の衛兵さん(読み切り)

作者: 渡瀬 ナギ

「ダメダメ。ここは通しちゃダメってことになってるんだから」


ここは魔王様の部屋へと通じる、たった一つの通路だ。

俺は魔王様からここを任された親衛隊の中の親衛隊。選び抜かれた衛兵だ。

この通路を通ろうとするフトドキな連中を

体を張って妨害し、魔王様をお守りしてきた。


「そんなこと言わずにさぁ。ね? 通してよ。

 お願いだからぁ~」

「何度言わせるんだ。もしここを通りたければ、

 貴様の実力でもって、この俺を倒して見せろ!」


今日も今日とて、俺は自分の任務を忠実にこなしていた。


今日のフトドキ者はヒヨリと名乗る女戦士。

やけに薄い布でできた鎧をまとい、

ポキリと折れてしまいそうな細い剣を腰に下げていた。

到底まともな戦いができるとは思えない、きゃしゃなやつだ。


「ダメだよ~? そんな乱暴なこと言っちゃ、や~だ!

 ヒヨリと仲良くしよ?」

「何なんだお前は。お前と俺は敵同士。決して相いれることはないんだ」


もうかれこれ30分ほど、言葉の押し問答が続いている。


「ヒヨリはね、魔王さんと仲良くしたいだけなんだぁ。

 だからね、衛兵さんもそこをどいてくれるとうれしいんだけど」

「そんなことを信じるバカがどこにいる。

 それ以上近づくと、貴様の身体を真っ二つにしてやるぞ」

「え~、なにそれ野蛮~。

 ちょう危険思想じゃん? そういうのよくないよ」


えー、なんなのこいつ。

マジで帰ってくれないかな。


「わかった。ヒヨリ、今日はあきらめるよ。

 でもね、明日は絶対そこを通してよね。

 ヒヨリと衛兵さんとの、や・く・そ・くだよ☆」

「知るかよ。そんな約束。

 そんなもんゴミと一緒に燃やしてやるよ!」


次の日。


「やっほー☆ ヒヨリ、今日も来たよ」

「ったく、また来たのかお前……

 って、えええええ!? 何なのそれ」


ヒヨリはムキムキの体に、顔だけ前と同じ童顔の状態でやってきた。


「ヒヨリ、徹夜して修行したんだよ。

 ちょー強くなったんだから」

「待て待て待て!

 なんかその、もうちょっと『きゃしゃ』な感じだったじゃん。

 それなりに可愛かったのに……どうしちゃったの」


ムキムキになったヒヨリは、

モジモジとしてから舌をペロリと出した。


「テヘペロ♪ じゃないよ。

 なんかイメージが崩されたというかなんというか……。

 まあいいや。なんか気持ち悪くなったし、遠慮なく戦うか」


俺は闇の力を解放し、凝縮した力で巨大な剣をつくり出した。

ヒヨリが両手をブンブン振って、「ち、違うんだよ~」と焦っている。

俺が剣を振りかぶるたびにヒヨリは涙目になって、

「話を聞いてよ~」と両手を合わせる。


「……なに。なんなのもう、興がそがれるんだけど」


俺は半分脱力して、剣をおろした。

それを見てほっとした様子のヒヨリが、


「あのね、今日は友達を紹介したくて、連れてきただけなんだよ」


と、通路の角に向かって手招きする。

通路のちょうど曲がり角のところから、髪の長い女がこちらを覗き見をしてきた。


「……なに。あれ」

「京子ちゃん」

「ハァ?」


俺が眉をよせると、京子ちゃんと紹介されたその黒髪の女は、

手をひらひら振ってこっちに挨拶してきた。

ヒヨリが期待するような目でこっちを見てくる。


「……いや、別に振り返さねぇよ?」

「京子ちゃん、恥ずかしがり屋だからさ。

 ちょっとくらい、手を振ってあげてよ」


ヒヨリは頼み込むように、俺の目を見つめてくる。


「ちっ……しょうがねぇな。ほら」


通路の角から手を振る京子に、手を振り返す。


「グァァ!?」


すると、京子は突然苦しみはじめ、けいれんを始めた。


「京子ちゃん!?」


ヒヨリが京子に駆け寄って青ざめる。


「そんな……京子ちゃんの超能力、『手を振り返したら死ぬ』が

 跳ね返されてしまうなんて」

「えええぇぇぇ!?」


なにそれ。その冗談みたいな能力。


「……想定外だったわ。ここまで、コイツが強いなんて」


うわ、ヒヨリすごく深刻そうな顔してるじゃん。

しかもさっきまで「衛兵さん♪」とか言ってたのに、「コイツ」呼ばわりかよ。

こえーな! ヒヨリこえー!


「おい、衛兵。今日のところはこれくらいにしておいてやる。

 京子ちゃんのかたきは、絶対取ってやるからな!」


ヒヨリは捨て台詞を残し、京子を担いで去っていった。


「いや……別に、俺のせいじゃなくね?」


通路にひとり取り残される形になった俺は、

なんとなく物悲しい気持ちを持て余しつつ、そっと涙をぬぐう。


こうして魔王様の平穏は、衛兵の活躍により、今日も守られたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ