それから
暗殺部隊の女の子はそういった。学生時代にはずっと一緒に行動していた友達、ハヅキだ。
「全部聞いて記録してたよ。ハウシュタイン王とラトのやり取りも」
――頼んでもない事をいつもやってくれるな。
「別に、必要ない。今は朱雀帝国の情報のが欲しいな」
「そんな言い方する人にはあげなーい」
うでをくんで可愛く頬を膨らませる。こういう行動は自分にしかしないので、何人から恋人かと間違えられた事か。
「時間が限られているんだ。すぐにでも教えて欲しいんだけどな……」
「私、一緒についていくの。ラト様から言われてる」
溜め息をついてハヅキは続ける。
「いろいろ知らないでしょ。朱雀の国の歴史の資料は読ませてもらいました~~」
あっかんべーをするようにいうと、扉の方へあるきだす。
呆気に取られてそれを眺めている、そんなジロルに
「あんたも行かないとでしょうが、行くよっ」
少しキレぎみにハヅキが言ってジロルはそれについていく。
動き良さそうなぴっちりと体に張り付いているハヅキの装束は部隊全体が統一されているらしい。黒で染められていて胸の辺りは少し鎖かたびらのようになっている。
後ろ姿は揃えられたショートの髪が一歩いっぽ歩くごとに、はねていて幼さを引き立てるのは黙っておいて、それをずっと見ている。
「目線が気持ち悪いのは気のせいなのか?」
時折後ろを向くが瞬間的に目を逸らす。「無意味な学生時代だったと思うなよ」とハヅキにばれずに何分眺めていられるかのゲームを数人でやっていたときは無敗だった。
廊下を歩く。何事も無かったかのように歩いている。明日にはこの世に居ないかもしれないのに。
と、突然
「こんな時だからいうけどね、私……」
頬を赤らめているのが分かる。実際は背中を向けているが。自分もそんな気持ちだ、と言いたい。しかし
「……やっぱりいいゃ。君も一緒の思いを持っているんだよね。知ってるよ」
――それは俺も一緒だよ。
声にならない声がジロルの心に突き刺さる。
「俺は…………」
いつの間にか立ち止まって、ハヅキはこちらを向いている。白い肌が紅潮していて、瞳に涙が溜まっている。
そのまま見つめ合っていて…………
「おい、何をしているんだ。20分程遅れているんだぞ」
「「おおぅ!?」」
突然話し掛けられて良いムードが台なしになり声の先には特別機動隊の九名がこちらを指をかじりながら「死ね」と言うような目で睨んでいる。
「なんであいつばっかり」「リア充め」「三回死ね」
――あぁ、羨ましがる声が聞こえる。
そんなのを聞くと勝った気になるのは俺だけだろう。
「どうせあれに全員乗るんだ。続きはそこでやってくれ」
「続きって何ですかっ!?」
一旦は突っ込んでおいて、
「行くぞ。予定の時刻に間に合わない。ハヅキ殿、いろいろと指導を頼みますよ」
班長が一礼して機体に乗り込む。高さが二十メートル程の格納庫に三機の戦闘機HH-81があり内一機にエンジンがかかる。
「乗り心地はクソ悪いが、ちんけな宿よりか安眠出来るくらいだ。期待するなよ」
ジロルがハヅキに言うと黙って頷く。何だか隊長以外の八人を死んだ目で睨んでいるような……きのせいだ。
「少しメンテナンスをしないといけない。十五分休憩だ」
コックピットからマイクで機体の外にいるジロル達に隊長が言う。少し気を抜いて深呼吸をする。
朱雀帝国に死にに行くのが少しだけ延びた。
○
「なんでこんなにぎゅうぎゅうなんですか」
ジロルは叫ぶ。しかし防弾ガラスで仕切られているコックピットには聞こえない。
耳障りな風切り音がして隣の人の声も頑張らないと聞こえない位だ。ガラスがなくても聞こえないかもしれない。
今はHH-81の中出発してもうすぐ十七時間がすぎるころに安全装置が稼動して空気の入った袋が膨らんできた。
それに押される形で後方に後退して、残りの九人も一緒の動きをして今に至る。
隣にハヅキがいるので膨らみかけの小さな…が腕に当たる。
汗くさい男達の中にいる一輪の花は息苦しそうに顔をしかめる。――なんかその顔もかわいいなぁ。
優しい感情が顔にでていて、意図的にだろうか男からの締め付けが強くなった気がした。
――まぁ、あと二時間もすると死んでるのかな。
ハヅキは死なないと言ったが、ハウシュタイン王はゆるされざる行動を命じた。恐らくハヅキの予想は外れるから。
その時、機体の重心が大きく傾いた。
『不時着する気をつけろ――』
途切れた隊長の声は焦っている。
――大きな衝撃が走って機体が揺れた。
どのくらい寝ていたのか体が凄く重かった。しかし、それは身体的な原因では無いことがすぐに判る。
目を開けると牢獄を絵に描いたようなそんな所であった。ちんけな石作りの壁は、隙間から水が滴っているし、上を見上げれば三メートルほどに窓がみえる。
両手は鎖に繋がれていて、足は枷で動けないようにされている。隣を見れば特別機動隊の仲間四人が一緒の状態である。
額から血が流れていたり、服が破れていたり。
しかし、そこにハヅキの姿が見えないのはどうしたものか。
そしてジロルは状況を考えた。予想されるものは戦闘機が墜ちて朱雀帝国、またはその他の国に捕えられた可能性。
それはゼロでは無いが、妄想に等しいそれを信じるのは危険だろう。
二つ目はクリカラット王国のドッキリ。……考えて馬鹿らしく思う。国の政策から見てそれはない。
自分の頭ではそれ以上の考えが出る訳も無く、最初に考えついたそれを予想として持っておく。
自分以外の四人は気絶しているのかまだ起きる気配は無い。
と、入口と思われる一つの合金製の扉の外から足音がきこえてくる。
「君が通信班の責任者だよね」
幼い声は扉の隙間から聞こえてきた。しかし姿は見えないのは、隠れているのかはたまた唯見えないだけか。
「判るんですか。誰が起きたのか、とか」
「口を慎んだらどうだ?君達が私達の国をどんな状況に追い込んだと思っているんだい。本来なら死んで欲しいけど…私の独断では判断できなくてね」
黙ってジロルは引いた。確かにここは朱雀帝国だろう。
だが、聞いていたより強引な所が見て取れる。焦っているのだろうか?――それよりもハヅキがどこにいるかが知りたい。
「君は何がしたい。なんの目的でここに潜り混んできた」
妥当な質問で、しかし答えない訳もいかなくて
「クリカラットの使者だ。貴方方と話がしたい」
それを予想していた、と云うように笑い声が聞こえる。
「君達の最後の命ごいは見てて面白いからね。既に三人が死んじゃった。だから、君のも聞いてあげるから」
――三人死んだ…だと?それにハヅキは含まれるのか!?
ぱちんと指が鳴り自分の足と手を繋ぐ鎖が外れる。
「私がこの牢の主のカーマインだ。王に謁見が許されるのは私がいいと思った人だけ。思ったら良いんだよ?」
確認するように言うと、扉の鍵を解く音がする。
◆
牢獄の地上三階。こんな所に綺麗な部屋があったなんて。自分がいたところは地下であった事から階段を幾つ上った事だろう。階をおうごとに綺麗になっていくのは自分の目が底辺しか見ていなかったからだろう。
そんな事もつゆしらず、自分の目的の人物はそこにいた。
「生きてたんだね。何人か死んだって聞いてたから」
目尻に涙が溜まっていることは今は触れないで。
ソファーに座っているハヅキは、自分の隣に座るように促した。うれしいのでその通りに座る。
「死んだのは通信班の三人だ。今残っている通信班の人はお前だけだ。後で事情を説明する。今は黙ってここに居れば良い」
班長は健在の様で、はっきりとそういった。自分の心情を読んでいるなんてさすが班長をと言ったところだ。
だが、全十一人中三人が死んだと。跳んだ被害で、しかしラトに連絡を取ることもできなくて。もう死んだと考えても良いくらいだ。
「今、ロギンが尋問されてる。ほら、カツ丼の匂いが……」
と、顔をしかめて紅くなる。――可愛いなーー。
ハヅキの本性が見えてきてホッとする。まだ落ち着いている、と云うことだ。
部屋を見渡せばここで生活している人の趣味がまるわかりな部屋である。取れないか、レプリカか銃や大剣等がおいてある。
それは罪人を裁く為の本物とも考えられるのだが。
そんなときに、この牢獄の看守と言った女性がこの部屋に入ってくる。姿は確かに幼女だが、大学を卒業しているそうだ。
歳は見た目十二歳だが、実際は十八である。ランドセルが似合う年頃で、合法ロリには完璧過ぎだ。
「カツ丼が食べたいならあげるわ。私は貴方達三人だけに決めたの。残りは半分死んでるしね、処理するけど……いいよね」
笑顔で言う。
顔は美形で整っている。髪はロングで二本の尾に分けられている。ツインテールと云うもので、色は薄い亜麻色。
瞳の色が藍色の、とても完璧で可愛い幼女だ。
人差し指をあごに付けて
「ねーえー?答えてよ。良いの?ダメなの?後者なら処理は君達に任せるの。でも、君達の手で殺さないとだから、私達に任せる方が良いと思うの」
もうすぐで鼻から赤い液体を吹きそうになったがそこは我慢する。その仕草は幼さをとてもよく引き出している。
「ああ。判った、それしか選択肢が無いのなら楽な方を選ばせて貰う」
班長が云う。小刻みに震えているのは悔しさを堪えているからだろう、と思う。
「君達は二時間位ここに居てね。国王にも話を付けとくからさ」
そして、嵐のように消えていく背中を見つめて班長は拳を机に打ち付けた。
一通り着いたとき班長が話始める。
「あの時機体が狙撃された。下の燃料タンクがやられた。それだけなら良かったのに…更に撃ってきたのだ。特に右翼が重点的に狙われてバランスを保てなくなってしまった。そして墜ちたのが朱雀帝国の第三需要都市ネヴィセル。そこに墜落して機体は全焼する。朱雀帝国側の対応が良く俺らは救出されたが、クリカラットの人間だからここに捕われて今、だ」
簡単に説明を終えると溜め息をついたのはハヅキであった。
「服……着替えたい」
至極普通の意見だ。しかし、お金も燃えたのか。何も出来ないのは目に見えたこと…か。
最悪の状態だ。そして自分らはどうなるのかは知らない。
〇
「と、まぁこんな感じだ。」
源三はさらさらと云うが、それが凄く長いのだ。
永遠に続くかと思ったくらいで。しかし、もう終わったので深呼吸をする。
「あ、カーマインは私達の仲間ですので。と言っても、王子には関係ないですね」
ゴーストの手には大量の書類などが抱えられている。
ミカが「持ちましょうか?」なんて言ったが断って持っているのは、源三さんに気に入られたいのか?
なんて思うが、ミカの胸や尻を見ている源三さんには荷物を持たせた押された胸を見せた方がいいのではないか。惜しい事をしたな、ゴーストよ。
ラウレルは見て嘲笑う。
「一通り確認しましたので作戦かい――」
「まだです。それがどうして不快に思わせるのですか?まだ話していないから」
ルシエがゴーストを止めて源三さんに問う。
「それから謁見を許されて全部白状した。まだカーマインから結果を伝える通信は入ってない」
予想通りと云うふうにルシエが頷いて、ゴーストに「ゴメンね」と謝る。――そのくらい良いのにの。
「やっとですね。これからの方針を決めましょう。ラウレルさん達とは利害の一致で作戦を組みたいと思います」
ゴーストがぱんぱんと、手を叩く。ここにいるのはラウレル、源三、ルシエ、ミカ、そしてゴーストだ。
「もうすぐで残り五人が来ますので円卓の会議室に行きましょう」
ゴーストのまとめる癖だろうか、五月蝿く思いながら流す。
「連絡が入れば教えてあげるよ、ルシエちゃん」
源三がそういうとルシエの顔が見るに青ざめラウレルの背に隠れるように飛び込んでくる。
「ねぇ、あの人殺したい。死なせたいよ。気持ち悪いから」
新鮮なルシエが見れた。源三さんに感謝だな、と思うとゴーストは書類で源三さんの頭をぶん殴っていた。
凄い束の量なのでさぞかじ痛いだろうに。