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双極のブレイクスルー  作者: 頴娃伺
展開と転回
6/8

クリカラット王国 その後


「ーーこちら特別隠密機動隊。目標ロスト、対応をねがいます」


男達の魔障石での報告は王の間にある通信機に繋がっている。前王ハウシュタインが編成したアルダイムの二人をこちら側に引き込もうという作戦の機動隊は、純度五十パーセントを使える者の計十人で編成が完了していて。

しかし、男達の期待した反応は返って来ず逆に期待の反対の言葉が聞こえる。

『貴様らは誰だ。もしクリカラットの兵なのであれば即日帰ってこい』

「そのこえは、将軍ラト様ですか。しかし何故?」

『私から見れば貴様らの行動が何故、なのだ。拷問されたくないのならすぐに帰って来ることだ』

突き刺すような冷たい対応だ。一部からラトが嫌われているのは昔からの行動の結果で。

王国兵の使い方が残酷だ。しかし、被害の最小限で全ての戦いを終らせる。数十年に一人の天才なのは皆の知っている事だ。

それが、大部分の人からは信用され、一部の人に憎まれる。

事としてはしょうがなくて、でもこの国がここまでの力を持てたのもラトがいたからなのにそれ以上の評価が出来ない。国民や王国兵が複雑な心情を持っているのもまた、ラトの考えている事が分からないからだろう。


通信を行った班員の一人はそれをそのまま伝える。上界では真逆に位置するクリカラットと大朱雀帝国はどう早い乗り物を使おうが、丸々一日を無駄にする。しかし、帰ってこいの命令が出て期待した報酬は貰えないだろう。

帰る為に使った移動費は将軍ラトに押し付けよて、最高級スイートルーム付きの旅客機を使おう。値段は皆で二百万程か。

国家予算としてはやすいほうだな。

「と、いうわけだ。明日には帰ろう、今日はとにかく遊んでだな…」

「すぐに帰らないなら拷問するそうだ」

通信を行った男が「伝え忘れだ」なんて付け加える。

有限実行のラトの発言は絶対で、背筋に冷や汗が流れる。まぁすぐに帰ろう。皆の意見が統一される。




それから、半日と半分…およそ18時間後には特別機動隊の十人はクリカラットの王の間。ラトの前で正座をさせられていた。

状況を知っている王直属の数名がクリカラットで一番早いとされる戦闘機を朱雀帝国付近に待機させていたから少し時間が短縮出来た。ありがたい話しだ。


クリカラットの城の一番上に位置する王の間は半壊していた。

最新式のマシンガンが暴れたかのように銃弾の被弾の後が残っているし、一番は天井が砕けて空が拝めた。

金の称飾も剥がれているわ、ばらばらに散らばっているわで、恐らくここで死闘が行われたんだろうと予想は容易に出来た。

床には変色した血がこびり着いているし、汚い肉も黒くなって放置されている。

そんな中特別機動隊の十人は正座で正面の王座に座っている将軍ラトに向かっている。

「こちらから報告しよう。ハウシュタインは私が捕えてリリュシュアに輸送した。質問はあるか?」

落ち着いた様子でラトの特徴でもあるサングラスのズレを直す。

ないといえば、ありすぎだがそこまで気にはならなかった。元々から近頃の王の態度にはイライラさせられていた。

「ありませんが、なぜ今なのですか?」

「油断をしていた王にチャンスを覚えた。私はリリュシュアの軍部省の人間だからな」

「将軍様は私が小さいころ・・・十年以上前からこの国にいましたが、全て演技だったのでしょうか?」

―正座がそろそろ痛くなった。話をやめて欲しかったが、ラトを慕っていたのだろう二、三人が食らいつく。

「演技ではない。その時はこちらの国の政治を良くしろとの命令だったのだ。それに従ったまで」

ラトにとって命令は絶対なのだろう。ラトがこの国の王国軍に入ってから確かに悪い方に傾いていた国内状況や国外との関係も格段に良くなっているのは事実だ。

今の教科書には将軍ラトの事がたくさん良く書かれているのは、天才を悪くいう奴らをなくすための対応だと聞いている。

ここまでの全能の天才はなかなかいないのではないのだろうか。

今までには、一人で戦争に向かい壊滅させた記録はないし、不可能と言われていた元最強の武装国を三ヶ月の攻略戦で看破することもない。

それをやり遂げるラトを天才と言わずなんというのだろうか。

それはさておき、本題に入ろうとラトが告げる。

「貴様らは、前王ハウシュタインの命令で行動していたんだな?」

その言い様は、冷たく突き放しているような風で。しかし、それが将軍なのだと感じさせる。

「そうです。しかし・・」

特別機動隊の一人が命乞いをするように弱々しく嘆く。

それと、将軍ラトは非常に歴史が好きなので知られる。この世を飛び回り世界中の歴史書に触れたと言っていた。

なので、大朱雀帝国に行くのが夢だといっている。関係ないかもだが、朱雀帝国のアルダイム家との関係を持っているとも噂が立っている。

噂であるので本気にすることもないのだが、特別機動隊の目的はアルダイムの娘と王子を連れてくること。ラトはそれを知っているかも知れない。

「いや、何も言わなくていい。ハウシュタインの側近から全ては聞いている。あいつが何をしていたか、本当の目的を」

――なら、私達は処刑などされるのであろうか。

嫌な考えがよぎってサングラス越しのラトの目を見る。全く感情が読めない。案外濃ゆいレンズを使っていた。

「貴様らは朱雀帝国へ行き同盟の手続きをしてこい。その際、自分らが何をしたかを詳しく説明し今は絶対にそんなことはない。ということを、安全面を押してこい」

そんな大事なことを半分犯罪に手を染めた自分らに託していいのか?誘拐未遂者を野放しにしていいのか?

「嫌ならいい。それなら、自由はこれ以降絶対に保証されなくなる」

「分かりました。なぜそんなことをするのかは問いません。どうせ答えないからです。しかし全力でやらせてもらいます」

ラト派の一人が答える。よく考えても、それしか選択肢がないことはわかっている。

でも、そんなことは隠していたほうがいいのではないのだろうか。知られると同盟には不利だろうに。

「嫌ならいいと言っているだろう。そんな顔をするのであれば強制的に牢にでも入れるぞ。今は、ハウシュタインを慕っている者全てを一掃している途中でな」

ラトは笑ってそういう。葉巻でもあれば似合うだろうに、そんな物は一切吸わない。キャラではないそうだ。

足を組み替え、何かを言いたそうに口を開く

「そうだな。明日には結論を聞いて帰って来い。そのくらいは働いてもらわないとハウシュタインの罪は消えないと思え。資金はこちらが出してやろう」

その言葉にやはり十人の顔が引きつる。そうだろ、あの戦闘機を使っても十八時間はかかるのに。無理ゲーだ。

「まぁ、伝えたいのはそれだ。がんばれよ」

と、ラトは席を外す。ゆっくりと特別機動隊の横を通り、王の座の正面にある両手開けのドアを片方だけ開けてそこから出て行く。

十人の正座をしている機動隊はその場に取り残された。


ラトは帰ってこなかったのでそれから五分後に十人は立ち上がる。ビリビリしている足はもう気にするレベルではない。

国際問題を丸投げしてきたのだ。ハウシュタインの命令だからって行った仕事の帰りが国では犯罪者になっていて。


――しかし、そんなことを考えている暇なんてない。これを基にちゃんと考えて行動しないと朱雀帝国の方から同盟を断られるかも知れない。

元々から朱雀帝国に無断で乗り込んで、皇子たちを誘拐しようとしていたんだ。弁解の言葉でも作らないといけないな。

そう思って特別機動隊の一人ジロルが空を見上げる。

壊れた壁はもうすぐ修復作業にとりかかるそうだ。ふと壊れた壁の外に目を向ける。

クリカラットの町並みは綺麗で、しかし高層ビルなんて建造物はなくて一昔前のきっちりとしたレンガ造りの家が立ち並ぶ。

そこにもう一人がジロルの横に並び

「何が見える?最後のクリカラットかも知れないからしっかり目に焼きつけとけよ」

「俺は元ヴォルヴィの村出身だからな。ラト様がいなかったらこんな所に来てないさ。敵国だったからな」

隣に来たその男は一度驚く素振りを見せるがすぐに元に戻って再び話かける。

「そしたらなんで将軍側についてるんだよ、敵だったんだろ?」

「俺らの村は一番に占領されたんだ。そこにラト様が来て戦争が終わるまで居座っていてな。色々と良くしてもらったんだ」

遠い目をしてジロルが語る。そんな二人を「はやくしろよ」って感じで見ていた。

さすがにその目に耐えられるわけはなくジロルは笑う。それに釣られて横にいた男も笑って皆のもとに歩いて合流する。――と、言っても数メートルなのだが。

「早く出発しないといけないのはわかっているよな。急げよ」

一班の班長がいう。全四班編成でジロルがいたところは通信班。他の班を目的地に連れて行く重要な班で、ジルグは学生時代それの大会で優勝した。

「どうせお前しか通信用魔障石をうまく使えるのはいないんだ。急いで準備をしてこい」

――準備とはなんだろうか。皆と一緒に着いたのだから自分一人に準備をしてこいなんて命令はおかしい。魔障石はまだあるし、何をしろと言っているのか。

と、扉を開けて自分を除き九人が扉から出て行く。

一人取り残されたジロルは、また壊れた天井から見える空を見る。あんなことを言われた後なのに何もする気にならないのは恐らく自分を見ている視線のせいで。

周りに誰も居ないことを確認して

「君は誰だい?何が目的で俺を見ているの?俺は今無一文になったばかりなんだ。強盗はやめてくれよ」

クリカラットの城にいくら壊れているとは言え強盗が入る隙すらないのは知っていることだ。

「たった三日で私を忘れちゃ困るわね」

今までラトが座っていた椅子の後ろからそう言いながら女の子が出てきた。ラトはわかっていただろうがまさか一班の班長が分かっていたとは。

自分が分からなかった事はうなずける。

だって、暗殺部隊の一人だから。

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