五年後の
森の中、薄暗く生臭い血の匂いと獣の匂いが混ざり、特別な異臭が漂っていた。
所々に太陽の光りが差し込んでいるが、緑の天井で覆われ地面に日なたを作っているのは蜜柑ほどの大きさである。
今は、光りは男の腕に乱反射して木々を照らしている。
黒光りの腕はただの生身ではない事を無言に告げていた。
ゆっくり煙を噴き、その腕は耳障りな機械音を鳴らしてその光を飲み込んでいく。
それは無骨に曝していた機械を皮膚のような皮で包んでいく音でまるで意志があるかのように手短な布を被る。
どういう原理か知らないが、その光景を眼にすると感嘆を忘れられないだろう。機械が人間のように動いているのだから。
そして、靴のように見えていた足の一部が小さい機械音をならして大きく広がる。広がるといってもブースターのような物に変型した、と言ったほうがあっている。そして地面を強く蹴った。その時『あ……カ…ラ………』と酷くノイズが混じって聞き取れなかったがそんな音が聞こえる。
土ぼこりを巻き上げ男は空に飛び出した。緑の草の天井を突き破り一瞬宙で止まる。それから目に止まらないような早さでそこから消えた。爆薬の煙が立ち込め今まで男がいた所は深くえぐれている。その周りには見たことの無い獣の姿とそれに立ち向かっていたのか、狩人が所々無惨に装備だけが散らかっていた。恐らく、5、6人位だろう。ぐちゃぐちゃになっている肉体は草木を黒く染め上げていた。
○
そんな映像が世界に流れたのは出来事があってから三週間が過ぎていた。
世にも類を見ない特殊な道具を用いたそれは、首脳会議中ある十か国のうちの一か国から公表された物であった。
この世には此処までの技術は無いだろう、というほどの機械である。
手の平サイズの動く写真を撮る機械は、見たことがなかった。
強固な大男が両腕でやっと抱えられる程の魔障石で三分の、動く写真が撮れるのに対して手の平サイズのこれで少なくとも1時間以上は見れている。
さらにこの映像に映っているこの機械紛いの人間のような者も、この会議では問題に上がっていた。更に殺されている獣も問題だった。
この国際連合内で取り決められている決まり、獣の危険度を表す数値最大二十段階で決められている。そのままレベルと呼ばれているが、それでレベル十五。
軍の一部隊が最大戦力を出して引き分ける位、そのレベルが十体。それがこの機械が全部倒しているということ。
首脳会議ではそれに対抗する武器の開発が提案された。
狩人は、非公認の組織団体ギルドの一味なのでどのくらい死んでいたって対して関係は無い。
しかし、この問題に巻き込まれているのだから独自に捜査しているに違いないだろう。それよりも早くこちらが行動を起こさないといけない。
確かめるには方法が無いが、これが何の為に撮影されたかを解読しないといけない。まずはこの撮影者に話を伺おう。何と無く課題が見えた気がする。
クリカラット王国の代表がニヤリと笑う。
それから五年の月日が流れる。
ここは、アーシア大陸最南端。都市ウォルウ゛にある独立組織ギルドのメンバーが酒場で話していた。
がやがやと比べて裕福なのだろう少し豪華な服を着た人間が、騒いでいる。比べて、というのはこの国は貴族制を導入しており農民と貴族は、圧倒的な差があるのが解った。
その第一貴族と今日は手を結ぼうとメンバーのひとりが推薦をされてここに来ている。その男ノイ・ファラウス。
ギルドでは、RankAとされるれっきとしたエリートである。
Rankというのは、ギルド内で依頼を受ける為に必要な位だ。
最上位がSSで、ここのギルドでは最高でSが一人いる。
突っ込んでいけば依頼に関係なくRankがあるのだが、それは置いといて。
それについでの実力者が、このノイである。過去にいろんな事をやらかして今は魔障石を取られているので魔法の一つすら使えないのだが。
SSは簡単に言うと、獣の討伐レベルで20オーバーといった所で、少なくともこの連合軍全てを三人居れば力でねじふせる事も可能で。
しかし、世界には二人しかいない。
その分仕事も多い訳で、その二人が所属ギルドに顔を出すのは万に一もない位。
ノイは笑う。他愛もない貴族の話。唯の愛想笑い。
実際はどうでもいい契約、武器開発に力を注ぐ貴族にパトロンとして協力して欲しいと。最新の武器を戦争で使う。それの破壊力が強ければ宣伝にもなる。貴族側もそうなれば武器の大量発注が来ることだろう。悪い話でもない。
基本的に貴族がそういう商売をするのは禁止されている。しかし、相手が国民ならそれは適応される。
でも、ギルドに所属しているものは国民としての国籍が抹消される。
無国籍な非公認団体。実態は犯罪組織として認知されている。
そんな者との契約に貴族は難無く調印した。
ギルドのトップはいない。唯Rankが関係している。
その場にいる一番高いRankがそこを仕切るリーダーとして活動する。なのでこの都市のギルドはRankSの人間がこの場のリーダーとして活動している。
円卓を囲んだ会議場でノイは報告をする。
パトロンの確保と、この都市の支配権。第五のギルド支配都市の完成。
それはアーシア大陸の半分をギルドが所有している、と言うこと。
ギルドの国を乗っ取る計画はちゃくちゃくと進んでいた。
RankSのリーダーは魔障石を手に取り呪文を唱える。
薄く青い光りで発光すると、リーダーは今報告された事を喋る。録音機なのか、リーダーは通信機と言っていた。
今日が終わる。それは、言葉の誤ではなかった。