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中途半端もいいもんだ。  作者: 伽音 
1st season 「梅雨」
4/8

第二章 自己紹介もいいもんだ。

 県立佐川高校には校舎が二つある。それぞれ位置する場所から東校舎と西校舎といわれている。


 西校舎の三階、奥から四つ目の教室。特殊委員会専用の教室に今、俺はいる。


 教室内には俺のほかに、俺をここまで連れてきた滝浪先生ともう一人。先ほどの衝突事故の女子生徒がいる。


「え、えーと……俺はどうすりゃ良いんすかね?」


 何がなんだか分からん俺はとりあえず、探りを入れるように質問した。


「変態に話す事なんて何一つないわ」


 と、女子生徒。


 厳しいなぁー。そりゃ俺も悪かったとは思うよ。でもしょうがない、アレは完全に事故だったわけだし。


 決して、どさくさに紛れて胸を揉んだとかそんな事はない。決して。


「まさか君が見知らぬ女子生徒の胸部をわしづかみにして、揉みしだくような変態だとは思わなかったな」


「だから、違うって言ってるじゃないですか。生徒を信じて下さいよ」


「何を言う? 私は私の生徒である深暗沢(みくらさわ)の事を信じているぞ!」


「いや、俺のことは信じてくれない? それとも、俺は生徒だと思われていないのか……?」


 などと滝浪先生と不毛な言葉の応酬をしていると、ふと、気付いた。


「えっと、深暗沢って言うんですか、そこの女子生徒?」


 と、俺が今更な質問をすると滝浪先生の代わりに件の女子生徒が答えた。


「違うわ」


「へっ? でも滝浪先生は……」


「仮に私の名前が深暗沢でも、貴方にそう呼ばれる筋合いはないわ」


 道ばたに捨ててある犬のフンを見るような目で俺を睨む深暗沢(仮)。


 ほう、俺をそこまで変態扱いするのか。いい度胸だ。流石の俺もここまでされて怒らないわけがない。


 まあ実際に何かする訳じゃない。そんな勇気は中途半端な俺にはない。


 従って俺は教室の隅でいじけることにした。


 別に、初対面の女子に徹底的に嫌われたのに落ち込んでる訳ではなくてね。


 そんな俺たちをみた滝浪先生は安心したような顔をした。


「ふむ。仲が良さそうで何よりだ」


「どこがだ、巨乳ババア!?」

「どこがですか、滝浪先生?」


 俺と深暗沢(仮)のシンクロつっこみが炸裂! 


「そう言うところだが、……待て。今何と言った小長井?」


 しかし、滝浪先生には効果がない……どころか、反撃のピンチ!


 滝浪先生は俺の年齢に関する発言に対して、怒りのオーラを顕わにする。


 やべぇ! 早く対策をとらないと世界平和、もとい俺の人生が終わってしまう!


「な、ななな、何の事でしょう? 俺は何も言ってませんよ。そんな事より説明がほしいですね。特殊委員会とかはどうなったんすか?」


「おっと、そうだったな。私としたことが忘れていた」


 よっしゃ、何とか避け───


「貴様の発言については後で詳しく話を聞こう」


 ─られないですよね。はい。

 

「まさか、この変態を委員会に入れるつもりですか、先生」


 長く伸びた前髪をかきあげながら心底いやそうな顔で問う深暗沢(仮)。って言うか、いつまで(仮)ってつけなきゃならんのだ。


 その質問を受け、滝浪先生は例のドヤ顔もどきの笑顔をした。


「その、まさかだ」

 

「いや、俺はまだ入るとは──」


「何か言ったか?」


 ギロッ


「は、はは、入るとは思っているのですが、どど、どのような委員会なのか分からないものにゃので…」


 噛んだ。


 もうお前は死んでいる、と言われるより怖い。マジ怖い。滝浪先生の目つき北斗的に考えてマジケンシロウ以上。


 北斗真拳継承者・滝浪は再び口を開く。


「説明したいのだか、肝心の委員長が来ておらんのだ。深暗沢、何か知らないか?」


「私が知ってると思ってるんですか」


 断言する深暗沢。ん? 委員長と言う人と仲悪いのかな? 若干、深暗沢の表情が曇る。


 同じ委員会なのに知らないのが当たり前のような事を言ってるのも、嫌いだからだろうか……。

 



 ──その時だった。




 ドバァーン!!!!!!!


 と、弾けるような音を立て、教室のドアが開かれる。いや、弾けるような音というのは語弊があるな。


 正確にいえば、本当にドアが弾けた。


 俺は産まれて初めて教室のドアが破砕されるのを目撃した。


「え、えぇぇぇぇ!? ド、ドアが壊れたっつうか、吹き飛んだ!? 何これ、地震? 雷? 火事? 滝浪?」


 俺が言ったらどうなるか分かりきっているセリフを半狂乱に叫んだ。


 しかし、滝浪先生は俺のセリフではなく器物損害罪に当たるであろう犯人にツッコミをいれた。


「おい、燃代(もえしろ)。何度言ったら分かるんだ。ドアはもっと静かに開けろ」


 静かにって問題じゃねーだろ!


「あと、もう委員会の時間は始まっているだろうが」

  

 怒る論点そこじゃねーだろ!


 俺は心の中で滝浪先生にツッコミをする。


「いやー、ゴメン、ゴメン、紫乃(しの)ちゃん。部活の方でちょっとあってさ」  


 と、俺の中で破壊神確定の女子がタハハッと笑いながら言い訳をしていた。


 どうやら、この燃代と言う娘が委員長という奴なのだろう。ちなみに紫乃と言うのは滝浪先生の下の名前だ。


 と言うか、俺はこの破壊神もとい燃代を知っている。いや、知っていて当たり前である。毎日彼女の後ろ姿を見ながら授業を受けているのだ。


 つまるところ、燃代は俺のクラスメイトだ。


「およ? 小長井君じゃないか。特殊委員会になにか用なの?」


 俺に気づいた燃代は異様にテンションの高い声で話しかけてきた。


「ええと、燃代はこの委員会に入ってるのか?」


 お前、クラスじゃ可愛らしい奴じゃなかったけ!?


 ドア壊せるほど力強かったの!?


 など様々なツッコミが心中を駆け巡ったが、それらを我慢して無難な問いかけをする。 


「ふふん! その通り。アタシこそこの特殊委員会委員長、燃代千夏(ちなつ)だよ」


 メラメラメラメラッ


 目の中に炎をメラメラさせせ、鼻を鳴らす燃代。熱い。非常に熱い。窓の外では未だに雨が降り続けているというのに、教室の中は熱苦しい。


 授業中に見た可愛らしい背中とのあまりの落差に、燃代千夏のイメージががらがらと音を立てて崩れていく。


 俺こいつのこと結構気に入ってたんだけどな~。お淑やかでか弱い女の子

な感じだったのに……。


 実際は熱血でバカ強い女戦士だったとは。真実は時に残酷だな。


「それで、どうしたの? 小長井君」


 俺が黙ってしまったので心配に思ったのか、顔をのぞき込んでくる燃代。


 くそっ! 可愛い! 


 短めに切り揃えられた赤みがかった茶髪、大きく潤んだ黒眼、大きくふくよかな女の子らしい体つき。どこを見ても俺の理想の女子だよ、見た目だけならな!


「小長井は新しく特殊委員会の一員だ。よろしく頼むぞ、委員長」


「そう言うこと。了解だよっ! 紫乃(しの)ちゃん」


 いつまでも黙ったままの俺の代わりに滝浪先生が答えた。


 うわぁ…。俺もう一員になってるよ、チクショウ逃げらんねぇ。


「ちょっと待って下さい」


 深暗沢の静止に滝浪先生と燃代は話をやめて振り向く。


 そうだ! 言ってやれ深暗沢。俺はこんな委員会には入らないとな!


「私は反対です。こんな変態を特殊委員会に入れるなら、私は早急に警察に連絡を取らなくてはなりません」


「確かに、小長井は変態だからなぁ」


「えっ? 小長井君は変態なの?」


「俺は変態じゃねぇーっ!!」


 前言撤回。何も言うな深暗沢。お願いだから、俺の評判を落とさないで。


「私のむ、胸を触ってき癖に…」


「だ、だからあれは不慮の事故だと」


「小長井君っ!? そーゆーの、セクハラって言うんだよ! セクハラはsexual harassmentって言って犯罪だから──」


 めっと仕草をしながら熱くセクハラの危険性について抗議してくる燃代。


 どいつもこいつも話聞きやがらない奴ばっかだ。先生も笑ってないで説明手伝ってくれよ。

 

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