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中途半端もいいもんだ。  作者: 伽音 
1st season 「梅雨」
3/8

第一章 梅雨前線もいいもんだ。

 春が過ぎ、入学時には満開だった桜の花も散った季節。ふと、窓の外に目をやると薄暗い雲から雨がしとしとと降り注いでいる。

 

 今は六月──梅雨である。 

 

 俺は梅雨が好きだ。雨が降れば嫌いな体育をしなくて済むので、無駄な体力を使わないでいい。雨万歳だ。やっぱり梅雨前線は最高だぜ!

 

 そして、何より梅雨は春と夏の中間に位置する中途半端な時期である事が素晴らしい。

 

 まるで俺の人生のように。


小長井(こながい)、私の話を聞いているのか?」


 数学教師の 滝浪(たきなみ)先生はその豊満な乳房と少しばかりの声を張り上げて俺に問いかけた。その声色が一層怒りを表現し始めたので、俺は恐る恐る窓から目線を戻す。 


「き、聞いてますよ……一応」


「一応とつけるあたり君らしい言い訳だな」


 まるで俺の発言を嘘だと決めつけたような言い方をするな、この巨乳眼鏡教師め!!


「では、小長井。君は何故放課後の貴重な時間を費やしてまで私に説教されているか、分かるか?」


「え、えっと……」


 俺は口ごもった。


 別に起こられている理由が分からないわけではない。むしろ分かりすぎていて困るレベル。

 

 それを認めてしまうとこのあとの展開で不利になる可能性が有るからだ。


 だ、断じて、滝浪先生の目つきにビビっているんじゃねぇから。


 よって、数分間の思考の結果、俺は愛想笑いを浮かべて答えた。


「せ、先生が俺のことを愛しているから……?」


 バキッ!!!!!!


 折れた。激しい音を立てて真っ二つに割れたボールペンは先生の手の中に収められていた。どんな握力してんだ、この先生。


「次は君の首だぞ?」


 怖ぇーよ。発想が教師じゃねえ。ただのヤクザだ。この先生マジな目してやがる。


 暴力、ダメ、絶対。


 クソッ! こうなったら仕方ねえ、あれを出すしかないか。折れたボールペンをゴミ箱に投げ入れている滝浪先生を横目に、俺はさながらプロゲーマーのように超必殺コマンドを入力した。


「済みませんでしたぁぁ!! 親愛なる滝浪先生の素晴らしい授業の最中でありながら、睡魔に負けて眠りに落ち、あまつさえ可憐な美少女の夢を見ていてたことは深く反省しています。まことに申し訳御座いませんでしたぁ!!」 


 喰らえ。最終奥義、DO☆GE☆ZA!


 どうだ俺の必殺技はの威力は? 速さ、形、動作、全てにおいて他者と一線を画した最強のDO☆GE☆ZAだろう? なにせ、毎日のように使用しているからな。


 べ、別に先生が怖くてするんじゃないんだから。自分の過ちを認めて謝罪をするのは人間として当然の行為だからしただけなんだから。か、勘違いしないでよね!


「はぁ、全く君という奴は」


 俺の超必殺技が効いたのか、滝浪先生は豚でも見るような目で溜息をついた。


 やめろよ。俺がドM属性持ってたら絶頂モンだぜ。ちなみに俺はどちらかというとSだ。


「まぁ、いい。それより君には罰を与えなくてはならないな」


 罪には罰を、とシニカルな笑い顔を浮かべる滝浪先生。所でシニカルな笑いとドヤ顔って紙一重だよな。


 はぁ、とりあえず予防線を張っとこう。無駄な体力を使わないようにしないとヤバいな。この先生は平気で「死ぬまで働け!」とか言う可能性がある。


「ば、罰っすか? えーと、俺腰とか痛いような気がするんで体力仕事とかはちょっと……」


「安心しろ。君に頼むのは体力仕事ではない」


 チッ! ハズレかよ。


 俺の中で改心の出来だった言い訳が効かなかったことを悔しがっていると滝浪先生の眼鏡がキラリと光る。


「体力は疲れないぞ。体力はな」


「それ以外の何かは疲れるのかっ!」


 マジかよ。怖ぇーな! 精神的に疲れる罰ってもう拷問に近くね?


「で、結局俺は何をやらされるんすか?」


 半ば諦めかけている俺はなるべく恐怖を悟られないように聞いた。


「小長井!!!」 


「ひ、ひゃい!?」 


 滝浪先生は職員室全体に響くほどの声で俺の名前を呼んだ。

 

 いきなり大声だすなよ。ビビって噛んじまっただろうが!


 …………あっ、いやビビって無ぇから。俺オリジナルの返事の仕方なんだよね、アレ。


 そんなことを考えている俺をよそに滝浪先生の大声は続く。



「君を本日付けで特殊委員会に配属する事にした!!!!!!!」



 ───────は?

と、特殊委員会? 何だそれ? 聞いたことねぇな。


 うちの高校──県立佐川高校には数多の委員会が存在する。

 

 何でも生徒の自主性を重んじるだか何だかで、生徒会の認証さえあれば生徒自身が委員会を作ることが可能なのである。


 俺が知っているだけでも、「忘れ物取り締まり委員会」や「クラス打ち上げ計画委員会」などの変わった委員会がある。流石に「リア充撲滅委員会」

の存在を知ったときは驚いた。


 滝浪先生が言った「特殊委員会」というのもその内の一つだろう。


「さあ、まずはこの申請書に出席番号と名前を書きたまえ。そうしたら早速委員会の教室に──」


「ちょ、ちょ、ちょっとストーップ」


 ひとりでどんどん話を進めてしまう滝浪先生に静止をかける。


「ん? どうした小長井。腹でも痛くなったのか?」


「そうじゃなくて、特殊委員会って俺知らないんですけど何すか、それ?」


「フッ…行けば分かる!」


 そう言うと、滝浪先生は立ち上がり俺の方に手を伸ばしてきた。


──ガシッ

 

 腕を掴まれた。


──ゴキュッ


 関節を決められた。


「痛ぇえぇぇえぇぇ!!」


 俺の悲痛の叫びを無視して生徒を廊下に引きずり出す眼鏡教師。あり得ねえ……。教育委員会は何してんだよ!体罰禁止じゃなかったっけ!?


「さあ行くぞ、小長井。私の授業を聞かなかった罰をしにな」

 

 ニカッっと笑う滝浪先生。俺的には既に罰受けてるんすけど……(泣)


 そんなこんなで、廊下に連れ出された俺。その後何とか関節技を解いて貰えた。


 逃げるなよ、的な目で見つめられると背筋か凍る。全く、ドMに産まれときゃ良かったな。そしたら罰なんてご褒美になるだろうに。


 そんな下らないことを考えていたせいか、曲がり角を曲がってくる女子生徒の体がすぐ目の前にあった。


「あ、危ない!!」


「えっ? きゃあ!!」


 ドンッ


 と、ぶつかる前に俺は華麗なステップで相手の体をかわす。


 フッ、俺SUGEEEEEEE!!

見たか今の。格好良くね? 迫り来る衝突の危機をひらりと避ける俺マジイケメン。

 

 なんてバカな事を考えていたのがいけなかったのだろう。


 今は六月──梅雨である。


 つまり、湿度が非常に高く廊下も滑りやすくなっているという事だ。今俺は無理な体勢で相手をかわしている。よって必然的に俺の足は廊下の上を綺麗に滑り、そのまま前へと倒れていく。


 俺の前には女子生徒、しいてはその慎ましい胸がある。


 俺の手はその小さいながらも圧倒的存在感のある胸へと吸い込まれていき───




 その後一週間ばかり変態扱いを受けるとも知らず、そのときの俺はこんな事を考えていた。


 やっぱり梅雨前線は最高だぜ!





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