第1章 「黙殺」 第4話 編集者を追え
午後三時。強行犯係の部屋は、いつになく活気があった。
秋月はホワイトボードの前で腕を組み、刀根は椅子を回しながら落ち着きなく足を揺らし、
魚沼はパソコンに向かって淡々とキーボードを叩いている。
「動画の編集者、特定できそうですか?」秋月が尋ねる。
「“できそう”じゃなくて“する”んだよ」刀根が言う。
「刀根さん、言い方だけ強気でも意味ないですよ」
「うるせぇ。気持ちの問題だ」
そこへ、魚沼が静かに手を挙げた。
「編集の癖、三つ見つけました」
「三つ?」秋月が身を乗り出す。
「はい。
一つ目、テロップのフォントが“源ノ角ゴシックの改変版”。
二つ目、音声加工が“特定のプラグイン”。
三つ目、動画の切り方が“秒数で揃っている”。」
「秒数で揃ってる?」刀根が首をかしげる。
「はい。全部、カットが“4.2秒”で切れてます」
「4.2秒……なんでそんな中途半端なんだよ」
「編集者の癖です。無意識にやってる可能性が高い」
「無意識で4.2秒って、どんな人生送ってきたんだよ……」
「刀根さん、人生にケンカ売らないでください」
秋月が笑いながら言う。
「で、その癖を持ってる編集者、心当たりは?」
「一人います」魚沼が即答した。
「早っ!」
「“宮田工業の元従業員”の中に、動画編集を副業にしていた人がいます」
「副業?」秋月が目を丸くする。
「はい。名前は──」
魚沼が言いかけた瞬間、強行犯係のドアが開いた。
「お疲れさまー。進んでる?」
宮本班長が入ってきた。
黒髪を後ろでまとめ、スーツの襟元まで一切の乱れがない。
その目は、すでに状況を把握しているようだった。
「編集者、特定できそうです」秋月が言う。
「“できそう”じゃなくて“する”んだろ?」宮本が微笑む。
「……刀根さんのセリフ取らないでくださいよ」
「取ってないわよ。あなたたちの口癖でしょ?」
刀根が小さく咳払いした。
「で、誰なの?」宮本が魚沼を見る。
「宮田工業・元総務部の“佐久間亮介”。
倒産後はフリーの動画編集者として活動していました」
「佐久間……」宮本が目を細める。
「知ってるんですか?」秋月が尋ねる。
「名前だけね。別件で一度聞いたことがある。
“情報を扱うのが上手い人間”って噂」
「情報を扱うのが上手い……」刀根がつぶやく。
「つまり、暴露チャンネルの裏方としては最適ってことですね」秋月が言う。
「そういうこと」宮本が頷く。
「住所は?」刀根が聞く。
「渋谷区。ワンルーム。フリーランスらしい生活です」魚沼が答える。
「よし、行くか」刀根が立ち上がる。
「待って」宮本が手を上げた。
「佐久間は“逃げるタイプ”よ。
行くなら三人で。
それと──」
宮本は秋月を見た。
「あなた、話すときに相手を油断させるの得意でしょ?」
「え、僕ですか?」
「そう。あなたの“柔らかい笑顔”は武器よ。
佐久間みたいなタイプには効く」
「……褒められてるんですか?」
「事実を言ってるだけ」
刀根が笑いをこらえきれず吹き出した。
「秋月、柔らかい笑顔だってよ!」
「うるさいですよ刀根さん!」
宮本は軽く手を振った。
「じゃあ、行ってらっしゃい。
佐久間亮介──捕まえなさい」
三人は同時に立ち上がった。
「よし、行くぞ。編集者を追え!」
「テンション高いですね、刀根さん」
「こういうのは勢いが大事なんだよ!」
「勢いで事件は解決しません」
「うるせぇ、行くぞ!」
秋月、刀根、魚沼の三人は、
渋谷区に住む“動画編集者・佐久間亮介”の元へ向かった。
宮田洋司の死は、ただの転落ではない。
“編集された声”の裏に潜む真実が、
いよいよ姿を現そうとしていた。




