モブが手にした悪役令嬢
学園に入った時から違和感を感じた。
でも、何、というのも分からずに過ごしていたのだが、ある日突然気付いた。
「これ。乙女ゲームの世界だ」
タイトルは覚えていないが、確か、妹が夢中になっていて、ミニゲームをすれば本来なら課金しないと手に入らないアイテムがランダムでもらえるからとよく手伝いに駆り出されていた。
それにしても……。
「攻略キャラが王子しかいない……?」
たまに攻略キャラを少数にして、その分ストーリーを濃くするのがあるが、これはそうではなかった。
ある意味テンプレという感じで、王子と王弟子息。宰相子息と将軍子息、天才少年。そして、商人子息が居たはずだが……。
「ああ。将軍子息? 殿下直々に戦いを知らない者が非常時に動けると思えないと言われて、辺境伯領に一年間所属するってさ。そこで戦場の空気を感じて来いとか」
「あそこは隣国との小競り合いもあるし、魔獣とかの戦いもあるらしいからな」
「宰相子息? ああ、殿下の命令で、自分の代わりに様々な国を見て取り入れられことを学んでくれと言われたとか……」
「留学中だったけど」
「王弟子息……」
「ああ。彼はね……」
「○○商会。息子いたのか?」
「知らないなぁ」
「そ、そうか。ありがとう……」
どうやら、この学園には王子以外の攻略キャラはいない。
王子の側近が居なくて大丈夫なのかと不安にはなるが、それぞれ別の場所で将来のために力をつけていると言われて納得することにした。
で、本来なら側近たちと共に生徒会を盛り立てていく設定だったが、生徒会長の王子。会計のゲームヒロイン以外はすべて居らず………。
何故か、自分を含む一部貴族が生徒会役員に選ばれた。
「……………ダイヤの原石はどこにあるか分からない。側近達にはそれぞれ別の場所で私を支えて欲しいと頼み。私は一から配下を育て、民の声を聞くことに重きを置きたいと頼んで君たちを選んだ。学生のうちなら出来る無謀な行いだと思っている。だが、君たち次第では将来安泰を約束しよう」
などと言われて、喜ぶ自分以外の貴族令息。
だけど、自分から見ると攻略キャラ外しと、間違えても追加キャラを入れない手段に思える。
(俺含めて、みんなモブ顔なんだよな……)
偶然だろうか……。あと、ゲームの設定では生徒会に選ばれなかった王子の婚約者も選ばれている。
あらゆる意見を聞きたいが、気心を知れた相手がいた方が安心するからとか言っていたが、その割に生徒会副会長の令嬢と全く一緒にいないでヒロインと一緒にいる時間が多い。
というか、攻略キャラのイベント全部自分でやっていないだろうか。攻略キャラのトラウマ関係は流石に無理だが、出会い系のイベントとか好感度が上がるイベントをすべてこなしている時点で、王子は転生者……ゲーム知識あるんだなと判断できる。
まあ、知ってどうするとしか思えないし、貴族で生徒会役員とは言え、身分は伯爵家の三男。気付かないでいるのが平和だろう。
とはいえ、下っ端の生徒会役員に出来ることは些細なお茶やお菓子の用意……ヒロインもしている時があるが、ヒロインがイベント回収している時はいないので必然的にやっている。
他の生徒会役員と打ち合わせ。
生徒会とはいえ貴族の柵で強く出られない場合は副会長の公爵令嬢に相談して協力を仰いでいる。
本日もその一環で、教室をほぼ私室にしている貴族令息を何とかしてほしいという相談に自分では何ともできないので副会長に協力を仰ぎ、件の貴族令息たちを何とかしてもらった。
「助かりました。侯爵家子息で嫡男が相手では、伯爵家三男の意見は通らないので」
「お気になさらずに。その為のわたくしなのですから」
そんな話を交わしながら生徒会室に戻る途中に王子とヒロインの姿を見かけた。
「また、ですわね……」
一瞬だけ強張り、すぐにあれは幻だったのかと錯覚させるように笑みを浮かべる。どこまでも貴族らしく、将来の王族であるというのを体現したような雰囲気。
「モリトアーディ公爵令嬢はすごいですね」
どうしてこの方がゲームで悪役令嬢になったのだろうかと不思議に思ってしまう。だけど、生徒会として接しているうちに気付いた。
ゲームでの彼女は他のゲーム攻略キャラの婚約者のヘイトまで受け止めて、自分一人で抱え込んだんだのと。
生徒会に届く苦情を解決するために動き回っているが、自分たちは身分が低くて聞いてもらえないことが多い。自分以外の生徒会の面々は身分差があるからと見なかったこととして片付けてしまった。
自分はそれを見なかったことに出来なかったので何とかしようと動いてしまった。だけど、自分では何とも出来ないからという理由で副会長で王子の婚約者であるモリトアーディ公爵令嬢に頼ってしまった。
断ってもよかった。現に生徒会長である殿下は断っていた……ヒロインのお願いは聞いていたというのはまあお約束だけど。
だけど、彼女は了承してくれて、こうやって動いてくれた。
「すごい……?」
「はい。――人に嫌われたくないからという理由でこういう人間関係の揉めごとは口を挟まない人が多いのにそれを身分の高いものの義務だと言って率先して行ってくれる。……昔読んだ本にあったんですけど、甘言をしてくれる者を重宝するか諫言してくれる者を重宝するかで上に立つ者の格が分かるって」
何処で読んだ本だったかな。前世の本だったかも……。
「モリトアーディ公爵令嬢は国のために苦言を呈せる存在ですね。でも」
こうやって接していて思える。
ゲームの中には彼女の決意を受け止めれる人はいなかったのだろう。だから、最後は悪役令嬢として処刑された。
歴史上にも独裁をして諫言して来る者たちを処刑していく支配者はいた。その末路はみな悲惨だった。
「その覚悟を一人で背負うには重すぎますよ」
「……………」
本来なら婚約者である殿下が背負うはずなのに、その殿下はヒロインと一緒にいる。ゲームの展開だと確か、王族として、いずれ国を背負う立場である王子に貴方一人で頑張っていてすごいですね。とヒロインは声をかけて、励ましていくところだろう。
それを支えに国を守る覚悟を高める……。
「あの方は自分だけで背負っていると思って民も臣下も見えていない」
一人ではない事実に。ゲームの世界に転生して、自分とヒロイン以外はNPCと思っているのだろうか。
本来なら自分を支えるはずの側近も遠くにおいて、気心を知らない者たちを置いている環境なのに歩み寄ろうとしたのは最初の言葉だけで、後はモリトアーディ公爵令嬢に丸投げだ。
(それにたぶん……)
本来なら生徒会に入らないはずのモリトアーディ公爵令嬢を生徒会に入れたのは、ヒロインとの好感度のため。
生徒会の仕事にヒロインがまごついたら副会長という立場でモリトアーディ公爵令嬢は注意する。それを冷遇扱いと置き換えるためだろう。
この学園は王子にとって都合のいい環境に作り替えられている。今目の前の光景も王子にとってはヒロインとの将来が確約されたと思っているのだろう。
幸いなのはゲームの展開で王太子が決まるという流れだったからまだ王太子になっていないということだろう。あの王子に国を任せるのはかなり不安だ。
(ゲームでは王弟子息が王太子になるルートもあったはずだけど……)
どうして彼はいないのだろうか。
「民も臣下も見えていない……」
モリトアーディ公爵令嬢がぽつりと呟く。
「マーシェル・ブラウン伯爵子息」
「ふぇっ⁉」
いきなりフルネームを呼ばれて驚いていると、
「――貴方はあの方は民を……国を見ていないと思えますか?」
(やばい。怒らせてしまった)
「す、すみませんっ!! 変なことをっ!!」
「いえ……」
顎に手をやり、考え込むモリトアーディ公爵令嬢。
「そうですか。やはり………」
憂いの帯びた顔。それはゲームの世界の断罪劇で浮かべていた表情に酷似していると思ったのは偶然だろうか。
「あのっ」
慌てて声をかけてしまって、その後どういえばいいのか言葉が出てこない。
まさか、何かしようとして断罪されるつもりなんじゃ………なんて恐ろしいこと言えないし。気のせいで誤魔化されそうだし……。
「何か?」
じっとこちらを窺う表情。
「えっと、無理しないでください……俺じゃ身分とか立場とかで何も出来ないので助けられません。だから……」
貴方が酷い目にあっても何も出来ないのが辛いと伝えると、一瞬目を大きく見開いて。
「ふふっ。ふふふっ」
楽しげに、嬉しそうに笑う声が聞こえる。
「そうね。わたくしにはあなたが居たわ」
「えっ⁉」
意味が分からないで困惑していたが、その意味が理解できたのは数日後。
モリトアーディ公爵令嬢が王子との婚約を解消して、次の婚約者として自分の名前が挙がったのだ。
「へっ⁉」
「もともとあの方に疑惑が多かったの。王弟子息様が、何者かに襲われる事件があり、学園に通える状況ではなくなったのは偶然かもしれなかったけど、その後自分の側近を遠ざけた。本来なら自分の補佐として補ってくれる相手を遠ざけることで都合の悪いことを隠すためなのではないかと思われて、信頼関係も築けなかった。で、生徒会に入れた少女に肩入れしている現状で政敵に付け込まれる隙を作ったのよ」
わたくしが防波堤になっていたからそこまで問題にされていなかったのが、わたくしの手に余ると判断して婚約を解消した。
そうなると崩れるのはあっという間なのよと微笑んでの説明。
「わたくしに汚名を被せればまだ救いがありましたが、国を見ていないと言われて、この方を王にしてはいけないと気付いたわ」
王太子は無事に王弟子息様になったわと教えてもらう。入学前に何かあったけど、その件が片付いたからの判断らしい。
詳しいことを聞いたら危険だと言われたから聞かないことにするが。
「それで……、なんで俺を婚約者に……」
意味が分からない……。
「――貴方はわたくしを見てくれたから」
それだけよと恥ずかしそうに視線を横に向ける様に、可愛らしいと今更思えた。
「あの……モリトアーディ公爵令嬢。お名前のレイラ嬢とお呼びしていいですか?」
躊躇いながら尋ねると、顔を赤らめて、
「………………………………いいわよ」
と告げてくれる。
もしかして、ゲームのシナリオではないけど、ヒロインの王子に告げて行った好感度を上げるセリフを言っていたのではないかと思ったけど。
国の将来が安泰ならいいかなと思った。
余談だが、前世妹に頼まれてやっていたミニゲームはこの世界にも普通にあって、優秀な成績を出したのを見てレイラ嬢が興奮していた。
その際にもらったランダムのアイテムはレイラ嬢の欲しかったものだったようで喜ばれたのは言うまでもない。
主人公の名前をモ○○・ブ○○にしたかったけど、間違えて公爵令嬢をモリトアーディという苗字にしたのでやめました。
王子の中に人はヒロイン過激信者で前世やばい人認定されていた。




