豊穣の鹿に見送られて旅立つ
ゴブリン殲滅作戦開始です!
痕跡の魔法が消える前に目的地であるゴブリンの集落に到着。集落は小さいとお母さんは言っていたけど、結構いるよ? これで小さいんだったら恐ろしいんだけど……。
知能を持つというだけあって、竪穴式住居みたいなものがいくつも並んでる。武器は斥候(?)と同じ石斧に、防具は獣の皮を腰に巻いてる。ざっと見た感じ人から略奪したようなものを身に付けているゴブリンはいなさそう。
そして、ゴブリンに女性形はいないんだね、やっぱりそういうことっぽいね。滅ぼすしかない!!
「ゴブリン以外の存在がいるかを確かめてみましょうか」
あの竪穴式住居の中に被害者がいたら大変だもんね……。
「『調査』」
魔法詠唱がシンプルなの助かる。中二病の癖に『ファイアボール』とか、『ウィンドカッター』とか言うのが恥ずかしい。無詠唱か、いっそのこともっとゴテゴテして魔法感出してほしい。なお、テイムする時のあれは契約魔法だけど、術式が違うらしい。なんのこっちゃ?
お母さんにならって私達も調査魔法を発動させる。指定した範囲内にどんなものが存在するかを調べられる魔法。索敵より高度だし、範囲を広げるとそれだけ消費魔力量も増える。
三人で調べた結果、ゴブリンと無機物しかないことが分かった。
「遠慮なく消し炭にしましょうねー」
ピクニックにでも行くかのようなノリで殲滅を宣言する母、怖し。でもまぁやむなしですね! 森の中に広場くらいの大きさまで木々を伐採しちゃってるし、これがもっと拡大したら危険だ。
正確には分からないけどその数はざっと百は超えていそうなゴブリン達目掛け、お母さんが炎の魔法を放つ。
「『豪炎』」
ゴブリンの斥候を焼き尽くしたのとは比較にならない、高火力の炎が円柱形に立ち昇る。さすが魔法。ただの炎と違って周囲に広がらない。
轟々と音をたてて住居やゴブリンが焼き尽くされていく。ゴブリン特有のギャーギャーとした絶叫なんやかやと相まってまさに地獄絵図……。
すまん、君達とは共存できない。やるかやられるかしかないからさ、ごめんね、これからもやります。
全てが焼き尽くされるのにそんなに時間はかからなかった。豪炎だもんね、無理もない。
「あー、すっきりしたわぁ」
……お母さん、ゴブリン大嫌いなんだなってのはよく分かった。私も好きにはなれそうにないけど。
焼き尽くした後そのままにするのかなぁ、なんて思っていたら、お母さんの使い魔である鹿の角がキラキラと光り始めた。えっ、なに?
角から放たれた光が焼け跡に飛び散る。ちょうど私達の目の前の地面にも光が吸い込まれていった。種でも飛ばしてるのかな? と思っていたら、ニョキ、と何かの芽が出てきた!
「芽!」
「芽が!!」
ふふ、とお母さんが笑う。
「私の使い魔のシャレンはね、豊穣の鹿といって植物の育成にとても長けているの」
豊穣の鹿!
「私がいつも編んでいるあれはね、森なのよ」
森!?
いつも編んでるけど次の日には毛糸とかないから、別の場所に保管してるんだと思っていたらまさかの森!?
「この森は魔物暴走が起きて焼き尽くされてしまうことがあるから、こうやって森の木々の種をシャレンの角の中で育んでおいて、復活させているのよ」
お母さんが話している間にも、芽吹いた芽は成長していって、私達と同じ背丈くらいまで育っていた。すごーい!!
「育つのは何十年もかかるのに、燃えるのは一瞬よね」
悲しそうにシャレンの顔を撫でるお母さん。
お母さんはずっとこうやってこの森を守ってきたんだ。木の種類にもよるだろうけど、私の大きさほどになるまで何年もかかるものもあるだろうに、それを一瞬で!
畑の野菜もシャレンなら育てられるんだろうけど、自分達のためには力を使わず、シャレンの中で森を育て続けてるんだ。
「お母さんもシャレンも凄い!」
「本当に凄い!」
私とエレンが興奮しながら褒めるので、お母さんは少し照れたように笑った。
「ありがとう、エレン、キリエ」
ゴブリン達が切り拓いて、焼き尽くされた後に育つ木々は、焼畑農業のようだ。
火も水も風も土も、どんな力も強すぎれば何かを破壊する。どれだけ時間をかけて育んだものだったとしても。
じっと手を見る。
魔法が使えるぃえっふー! なんて思ってたけど、もっともっとちゃんと制御できるようにならないと。
ふとエレンを見たらエレンもぐっと握った自分の手を見つめてた。きっと同じことを考えてたんだと思う。顔を上げたエレンと目が合って、お互いに頷いた。
旅に出なさいと言われてから準備し続けて早七年。我ら十二歳になりました。前世なら小学六年生! 立派な子供です!
届いた魔道具や家具なんかは魔女馬車に乗せたものの、シルルが屋敷を出るわけにはいかないので、実はまだ未使用だったりする。私達だけで使ってみたりもしたけど、一番使うシルルが触れていないという本末転倒ぶり。うっかりにもほどがある。
キトラ達天狼は成狼となった。天狼を甘く見てた。思った以上に大きくって、魔法で小さくなってもらってる。ウルフドッグとかグレートデーンってレベルじゃなくてね、普通に自動車サイズなんだよね。それが四匹!
天狼という名の由来は、あまりに大きくてこのままでは天に届くのではないか、というところからついたんだって。なお空を飛ぶとかは無理だそうです。
ゴブリン殲滅から魔物暴走を経験し、村人に頼まれてお母さんと魔物討伐に行ったりと、長いようであっという間に過ぎていった七年。駆け足すぎじゃ!? って思ったけど、とにかく毎日が楽しくて、リア充勢の仲間入りっス。
今日は旅立ちの日! しんみりなんかしてなくて、まだバタバタしてる。
まず昨日の夜にシルルの椅子を住み慣れた家から私達の魔女馬車に移動させた。家にいられなくなったシルルは魔女馬車に移った。で、移ったシルルは一晩中馬車の中をいじり倒したらしくって、馬車に行ったら大興奮してた。喜んでくれてなにより!
お母さんから分けてもらった食材を運び込み、不足がないかを再度確認する。旅に慣れるまではなるべく街を経由して食材を調達する予定。野菜の水耕栽培はこれからだし、ギルドに登録もしたいし、冒険もいいけどまずは旅情気分を味わいたい! 宿泊まらないけど!
裁縫道具もリネンもシルルの部屋に運んだし、エレンの本も本棚に収めた。
最終確認をお母さんにしてもらって、いよいよ旅立ちの時。
「餞よ」
そう言ってお母さんは私とエレンに新しいバッグをくれた。もしかしてこれ!
私の言いたいことが分かったのだろう、お母さんは頷いた。
「あなた達のマジックバッグよ。中には血抜きナイフと中身の入ったお財布も入っているわ」
実はマジックバッグを持つのは初めて!
バッグの中を覗きこんだんだけど、なんか宇宙猫の背景みたいなものしか見えなかった。なんで?
「取り出したいものを考えながらバッグに手を入れるのよ。ナイフはきちんと鞘に入れてあるから安心してね」
「へーっ!」
「分かったー」
試しに血抜きナイフを取り出したいと考えながらバッグに手を入れてみる。すぐにナイフらしきものが手に触れた。取り出すとお母さんのと同じ血抜きナイフが手にあった。
「マジックバッグと血抜きナイフ、お財布はあなた達からもらった血で所有者登録したから、盗まれても使われることはないわ」
盗まれることはあるのか。
「もし盗まれたならいつもの魔法で捜索なさいね」
「うん」
「はーい」
私とエレンの頭をお母さんの大きくて温かい手が撫でる。
「たまに手紙を送ってくれたら嬉しいわ」
「絶対書く」
「珍しいものがあったら送るね」
「あら、楽しみ」
ふふ、とお母さんは笑う。
天狼達の頭を撫で、「私の可愛い子達をよろしくね」と声をかける。その瞬間、あ、本当に旅に出るんだ、という実感がわいた。
「旅の途中でまた帰ってくるから」
「待ってるわ」
「お母さんも返事ちょうだいね」
「勿論よ」
私とエレンはお母さんの腰に抱きついた。
中身はさ、前世もあるから大人の部分はあるんだけど、でも何歳になってもお母さんはお母さんで、自分は子供なんだと思う。
名残惜しいけど、そっとお母さんから離れて、魔女馬車の扉を開ける。シルルが立って待っていた。
魔女馬車の動力炉である魔導石には魔力をたっぷり注ぎ込んであるからいつでも発車できる。
「じゃあ、行ってきます」
そう言ってエレンが先に乗り込む。私はステップに立って振り返った。馬車の御者を呼び出すと、御者台に青い炎が灯った。
「目的地は領都フュリンガー」
私の言葉に御者の炎がボッと強く反応し、車輪が動き始めた。扉は開けたまま、私とエレンはお母さんに手を振る。
「いってきます!」
「いってきまーす!」
「気を付けてね! 良い旅を!」
手を振っている間に家が遠ざかって行く。名残惜しくて扉を開けたまま見ていたけど、木々で見えなくなって、扉を閉めた。
エレンが笑顔で頷いた。
「新しい旅だね」
「楽しもうね!」
「うん!」




