特訓であり稼ぎ時でもあり!
猪の魔物を持ち帰ると、シルキー達はその処理を始めるために大慌てでキッチンに向かった。寄生虫やら毒素やらは早めに処理したほうがいいんだろうね、うん。
お母さんがとんかつ好きなのもあるだろうけど、豚肉(?)の料理はよく食卓にのぼる。腸詰とか生ハムとかロースハムなんかも。毎朝シルキー達お手製のパンに、ハムとチーズがのせられてくる。野菜は庭の畑で採れたもの。
……お肉、捌いてすぐには食べられないよね? 馬車に熟成する場所必要なんじゃ……?
「エレン」
「うん、私も今同じこと考えてた。熟成場所だよね」
「そうそう」
私達のやりとりを聞いていたお母さんが手をぽん、と叩いた。
「あぁ、そうよね、すっかり忘れていたわ。まだ発注していないし、それも発注しましょうね」
もはや馬車と呼んでいいのか分からない代物になってきたなぁ……。
「あ、熟成させるための部屋はね、特注のがあるから、ドアさえあれば大丈夫よ」
ドアさえあれば大丈夫とは……?
「熟成部屋は広さが必要でしょう? 熟成にも時間がかかるし。だから家の中に作ると邪魔なのよ」
言いたいことは分かるんだけど、分からん。
エレンを見ると、エレンも首を傾げた。
「別空間と繋げられる熟成部屋っていうのがあってね、それをドアとつなげればシルルがなんとでもしてくれるわ」
歴代魔女達の凄まじい努力を感じる……。
「スライムだけど、魔力を注いで念じると好きな形に変えられるわよ」
「!?」
「動物に変えられるの?」
「そうよ」
えーっ、あのぷるんぷるんボディを別物に? いや、私の知る某有名なあのスライムと同じボディではなかったけど、触るとぷるぷるしてる。なお喋ったりはしない。
「私、コツメカワウソにしたい」
エレンが言った。
コツメカワウソ可愛い! 可愛いは正義だね。私はどうしようかなーと考えて、前世でプレイしていたゲームに出てきたミニブタを思い出した。
「ミニブタが良い。白い体にお尻あたりにハート模様があるの」
「どちらも可愛いからシルルが喜びそうねぇ」
はっ! そうだった。まずはシルルの許可を得ねば……。
シルルの許可が下りた。なんなら喜ばれ、早くスライムの形状を変えてほしいと要求されたぐらいだった。たぶんコツメカワウソを入れるポーチや、ミニブタに付けるリボンとか、そのあたりの制作に着手したいのだろう。
お母さんに言われたように、なってほしい姿を想像し、魔力を注いでいくことにする。
私は目を閉じながらのほうが想像しやすいので、青いスライムを抱きしめて目を閉じた。ほわほわーとした毛に薄ピンクの体に、お尻のあたりに黒のハート模様。しっぽはくるりとしていて、目はつぶらで、私の後をトトトッと付いて来てくれる、そんな姿を想像する。
「エレンもキリエも、いいんじゃないかしら」
声をかけられて目を開けると、私の腕の中に想像していたとおりの可愛いミニブタがいた! エレンの腕の中にはコツメカワウソが。興味津々なのか、キトラやミトラがスライムもとい、ミニブタとコツメカワウソのにおいを嗅いでいた。天狼ににおいを嗅がれても怖がらないのは、スライムだからなのか仲間認定されているからだろうか?
「名前なんにしようかなぁ」
「私はルーヒ」
即答するエレン。
「えっ、決めるのはやっ!」
「ずっと考えてたからね」
悪戯が成功したようににやりと笑うエレン。
うーん、名前付けるの苦手なんだよねぇ。そんな私の気も知らず、ミニブタはちょこんと座ってみたり、トトトッと歩いたりする。
「トトにする」
「そのまんまねぇ」
「分かりやすいって言って!」
そんなわけで私のミニブタはトト、エレンのコツメカワウソはルーヒ、です!
魔女馬車に搭載する家具類の発注も済んだので、あとは届くのを待つのみ。楽しみーっ!!
そうなると私たちがすべきことは……そう、戦闘訓練です! なにしろ天狼任せだったので! キトラ達、子犬なのに驚くほど強いのですよ。
いくら魔法が使えても我ら五歳児だからね……。何度も言うけど、いくら前世の記憶があって中身大人で魔法が使えても、肉体は五歳児ぞ。
私達は魔法という名の遠距離攻撃が主だから、お互いが背中合わせだったり隣に立っていれば攻撃が当たることもない。安心安全! 我らの攻撃は使い魔の天狼達にも当たらない! 安心して魔法をぶっ放せるじゃないですかー!(でも天狼達に当たらないように私もエレンもすると思うけどねっ)
「さぁ、張り切ってやっつけましょうね。頑張ったらその分旅立ちの時の資産になるわよ」
今が五歳で旅立ちまでに七年あるとはいえ、懐が温かいに越したことはない。何かが起きて高額な出費もありえるし、お母さんは大丈夫だと言ったけど、お母さんの手元にもお金を残しておいたほうがいい!
魔法の制御だってまだまだなんだから、魔物暴走は特訓としていいと思う、ことにした!
いくら魔力が多くたって無限じゃないし、好きなように放って魔力切れだっておこすかもしれない。
魔物暴走は秋に発生しやすいものの、毎年というわけではないそうで、内心もう少し成長してからが良かったけど、こればかりはどうしようもない。
今年来るっていうなら、やっつけるのです。そして稼ぐのです!
天狼のキトラ達が魔物の気配に気付いてくれるので楽だなー、なんて思ってたらママンに注意されたでござる。
「気配を消すのが得意な魔物もいるから、あなた達も索敵するようになさいね」
隠密的なことができる魔物、確かにいてもおかしくない。索敵という魔法を教えてもらってやってみたものの、持続し続けるのが結構大変。集中力が切れてしまって何回も天狼やエレンに助けてもらった。ごめんそれとありがとう!
魔法にもレベル的な概念があるのか、使えば使うほど精度が上がるらしい。やだー、使わなくちゃじゃないですかー。
魔力は個人によって上限があって、元から少ない人は魔力を閉じ込めた魔石や魔道具を使って補填するとのこと。というかそもそも魔力持ちが少ないみたい。だから魔石や魔道具を利用することが当たり前なんだって。魔女馬車にのせた家具や魔道具を見てても思ったけど、色んな魔道具がありそうだから旅に出るのが楽しみ。
索敵して見つけた魔物を倒すわけだけど、何でもかんでも倒せばいいというものでもなくて。魔物も含めて生態系というものがある。よほど凶悪なのでなければ、適正になるように間引くような感じが正しいらしい。
そもそも、普通の動物と魔物の違いが分からなくて、マミーに教えていただいた。自然界の生物が何かしらの過程で魔力を身に蓄えると魔物になるらしい。猪の魔物は元は猪だったということ。魔物はその姿形から魔獣とも呼んだり魔鳥と呼んだりする。
この魔物化の際に突然変異したものは特殊個体として認識され、名前を付けられる(ネームドっていうんだって)。
ファンタジーですなー! 私とエレンもいつかそういうのと戦う日がきたりするのかは分からんけれども。
あ、ファンタジーでよく出てくるゴブリンとかオークとかオーガは基本滅殺するんだって。繁殖力が高く、知能もあって人以外の生物にも影響が大きいらしくって。
とあるお話以外ではあんまり良い印象ないもんなぁ、ゴブリンとか……。
って思ってたそばからゴブリンの集団が現れた!
「キトラ、シュナ!」
「シエ、ミトラ!」
私達に名を呼ばれた天狼達は勢いよく駆け出し、ゴブリンに攻撃をしかけた。私とエレンは他にもいないかを索敵する。
近くにはいなさそうだと判断したところで、ゴブリン達は倒されていた。子犬サイズでこれだもんなー。成狼(?)したらもっと凄いんだろうな!
ゴブリンを観察してお母さんが言う。
「うーん、この装備ならまだ集落は小さそうね」
「装備でそこまで分かるの?」
武器は石斧で動物の皮を腰に巻いてるのみ。素朴な疑問として、何故腰周りを隠すんだろう。急所だから?
「この武器や腰布が人から奪ったもののようだったりしたら、そこそこに繁殖していると分かるの」
……なるほど、既に犠牲者が出ているってことか……。
「さ、日暮れ前に殲滅して帰りましょうね」
そう言うとお母さんは使い魔の鹿にひらりと飛び乗った。私達もそれにならって天狼に乗る。
「『軌跡』」
お母さんが呪文を唱えると、光の筋が森の奥に向かって走っていった。ゴブリン達が来た方向を教えてくれているみたい。
「さ、行きましょう」
「これは放置でいいの?」
これとはゴブリン達のご遺体のことですな。
「そうだったわ。残っていても誰も喜ばないし、燃やしましょう」
パチン、と指を鳴らすとあっという間にゴブリン達は消し炭になった。これねー、私もできるようになりたいんだけど、指が鳴らないんだよね……ぅぬぅ……。




