お金持ちはお金を使わないは真理
カタログから注文したいものはこれですとお母さまに伝える時はドキドキした。こんなに!?と言われたらどうしようと思って。
でもお母さんの顔色は全く変わらないまま、「分かったわ」と言われただけだった。エレンの本棚についても「出世払いするから!」と言っても「大丈夫よ」と笑顔だった。
見栄を張ってるとかではなく、本当に大丈夫そうだった。我らが思っている以上にお金持ちなのかも?
そんなこちらの心情を察したのか、「ここで暮らしているだけだとお金なんてそんなに使うこともないのよ」とコロコロと笑っていた。
そういわれてみれば、ほぼほぼ自給自足の生活、スローライフです。洗濯や洗い物に使う石鹸や洗剤なんかもシルキーが作ってるし、野菜は庭の畑から収穫してる。お肉や魚も狩ったり釣ったりしてる。魔物退治で得た素材なんかはクルックさんに売って、必要なものがあれば買ってる。それぐらい。あとはたまーに村で買い物するぐらい。
「ベッドもあなた達が巣立ったらどうしようかと思っていたから、ちょうど良かったわ。帰って来た時も寝る時だけは馬車に戻れば問題ないでしょう」
「やったー!」
「ありがとう、お母さん!」
思わず二人してお母さんに抱きつく。何故か天狼達もお母さんにくっつく。
あらあら、と言いながらお母さんは嬉しそうだった。
「家具なんかは後で頼んでおくわね」
我らが城の完成に向けてまた一歩進んだぞ!
エレンと喜んでいたところ、お母さんが言う。
「あなた達は使い魔達が狩った獲物を捌く練習をしなくてはならないわね」
ぎくりとした。
えぇ、分かっておりましたけど、もうやるの……? 私達マダ五歳……。
「秋も近付けば魔物暴走が発生しやすくなるの。あなた達の練習にもなるし魔物も減らせるし、ちょうど良いわね」
魔物暴走が練習って、スパルタすぎる。全然ちょうど良くない。熟練魔女、怖い。
そんなわけで、今日の今日で特訓開始ですよ……。
隣に立つエレンさん、平気そうなの凄い……。怖くないの? って聞いてもけろりとした顔で怖いよ? と答えるに違いない。
「いつもは天狼任せでしょうけど、今日からは自分達もやらないとね」
「……分かった」
ですよね。
「私達の魔法がシエ達に当たったりしない?」
「自分の使い魔には、自分の魔法が当たらないから遠慮なくうっていいわよ」
「でも、それだと私の魔法がエレンのシエとミトラには当たるよね?」
「それなんだけど……」
お母さんが難しい顔でうーんと唸る。
え、なんですか?
「こんなこと初めてなんだけれど、あなた達の使い魔、四匹ともあなた達を主人としているようなのよ。どの子からもエレンとキリエの魔力が感じられるの」
「えっ!」
「やっぱり!」
エレンの言葉にお母さんが首を傾げる。
「キトラもシエもミトラもシュナも、前世ではキリエの飼っている犬だったんです。私はたまにお世話してたぐらいで」
私の死後はミトラとシュナの面倒を見たのはエレンなんだけどね……。
「なるほどねぇ。だからなのね。それならあなた達の魔法はこの子達天狼には当たらないと思うわ。試しにちょっとやってみなさい」
そんなご無体な!と狼狽えている私の横で、エレンが小さな炎をキトラとシュナに向けた。
「!?」
止める間もなく放たれた炎がキトラとシュナに当たる。二匹とも避けることなく、炎が当たってもけろりとしていた。慌てて確認したけど毛の一本も燃えていない。
「ほら、キリエも安心のためやってみなさい」
安心のために愛犬、今は愛狼か、に魔法放つとか意味分からんのだけど……。
何度もシエとミトラにごめんねと謝りながら、そっと火の魔法を指先に灯し、毛先に近付ける。……良かった、燃えてない! 良かった!
「うぅー……ごめんよぉ……」
大丈夫だからといって攻撃していい理由にならない。
泣きべそかいてる私の顔をシエとミトラが舐めて慰めてくれた。
うぅー、もう絶対やらない!!
「こんなに愛されて、この子達は幸せねぇ」
お母さんの言葉に天狼達みんなのしっぽが揺れる。
「ごめんなさいね、辛いことをさせて」
お母さんがエレンと私の頭を撫でる。見るとエレンの目が赤かった。さっとやったように見えたけど、エレンだって当然やりたくなかったよね。確信があったとしても。
……空気を読まない存在というのはどこにでもいるわけで。ガサガサという音がして、猪の魔物登場。
「あらー、ご馳走がきたわー」
お母さんとんかつ好きだもんね。しかもロース。なお私とエレンはヒレ派です。
「さっ、頑張って!」
どんっと背中を叩かれて前に押し出される。
いきなりすぎるー!!
天狼達は私達が魔法を放つ前に猪の魔物に飛びかかった。キトラが首元に噛みつき、シエが鼻を。ミトラとシュナはそれぞれ前足と後ろ足のアキレスあたりに噛みついた。
四匹の天狼に攻撃されて狼狽える猪。でも相手も魔物。割とすぐに落ち着きを取り戻した、というか怒り出した。
そこへ私達が風の魔法を。何故風かといえば猪の被毛も皮も売り物になるからだね。ボディブラシなんかも猪の毛を使ったりしてる。燃やすわけにはいかんのですよー。
天狼達のおかげと我らの魔力が高いのもあって、十分程度で猪を仕留められた。でも魔物暴走になったらもっと素早く仕留められないといかんのでは?
猪の魔物を倒したところ、お母さんがほくほく顔でバッグからナイフを取り出した。
もしやあのナイフ……?
「これが噂の血抜きナイフよ」
そう言ってナイフの柄を私達に見せてくれる。そこには赤い宝石が埋め込まれていた。
「このナイフは魔道具で、この赤い魔石が動力源になってるの。捌けば吸い取った血が魔石の動力源になって刃こぼれも自動修復するのよ」
永久機関じゃないですかー。
「さ、まずはエレンからやってみましょうか」
「はーい」
「どこから解体してもいいわよ」
ナイフを持たされたエレンは、そっとナイフを猪の魔物に差し込んだ。おなかに差し込んだにも関わらず、血が出ない。血抜きナイフ凄い。
「そうそう、上手ね。内臓を取り出しやすいように切り込みを横にも入れましょうか」
血が出ないのは大変精神に優しい……。いや、戦ってる時はそれどころじゃないんだけどね。
さっくりとおなかを開かれた猪くん。三人がかりで内臓を取り出す。……うん、グロいです。血がなくてもやっぱりグロいもんはグロいんス。
「あなた達のマジックバッグもナイフと一緒に近いうちに届くはずだから、それまではお母さんのバッグに入れましょうね」
マジックバッグ! やっぱりあるんだ魔法のアイテム!
「マジックバッグって収納力どれぐらいなの?」
「無限じゃないわよ。ただそうねぇ、ベヒーモスぐらいなら入れられるから、そうそう困らないわよ」
ベヒーモスってめちゃくちゃデカいイメージなんですけれども!?
「定期的に売りに出していれば平気よ。ここと違ってギルドがある場所にいけば買取もしてもらいやすいし」
なるほど。
私とエレンがそれぞれマジックバッグを持つならベヒーモス二匹分ぐらいは収納できるってことだもんね。
「さ、皮を剥いじゃいましょうか。今度はキリエよ」
「うん」
ナイフを受け取り、皮を剥いでいく。
「あら、上手ねぇ」
「ありがとう?」
「適材適所で内臓はエレンが、皮はキリエが担当してもいいかもね」
え、でもそれエレンは嫌なんじゃ、と思ったところ、「血が出ないからやれそう」という力強いお言葉が……。
内臓も皮もお母さんのマジックバッグに収納された。ナイフの切れ味は抜群で、滑らかに各部位を切り落としたいける。顔の皮は切り落とさなくていいらしい。角や牙、目、と色んなパーツがあって、解体が面倒なのと傷つけると台無しになるかららしい。
「入れっぱなしにしておいて大丈夫なの?」
「大丈夫よ。時間も止まるから」
ますますチートだマジックバッグ!
全ての部位がキレイに解体され、お母さんのマジックバッグに収納された。
「あら、血のにおいに寄ってきたのかしらね」
お母さんが顔を向けている方向を見ると、スライム(?)が二匹いた。赤と紫のスライムだった。
血抜きはされててもにおいはするもんね。
「倒したほうがいい?」
「普通なら倒すのだけれど、テイムすると便利なのよ、スライム」
「何でも食べてくれるから?」
「そうそう」
ラノベなんかでも鉄板だよね、テイムしたスライムが不要なものを食べてくれるの。
「だから二人とも、あの子達テイムしちゃいなさい。赤と紫でちょうどあなた達の目の色と同じだし」
そう、魔女には外見的特徴がある。銀髪だけれど、光の反射によって様々な色を見せるので、オーロラと呼ばれている。それから目が赤だったり紫だったりするのだけど、双子だからなのか、私は右目が青、左目が紫のオッドアイ。エレンは右目が赤、左目が紫のオッドアイ。ぃやぁー、中二心を満たしてくれますねー!
ただ、シルルの好みにより髪型が変えられているのと、目の色が違うので顔は同じだけど見分けはつく(完全にシルルの好み)。でも洋服は一緒。刺繍は違ったり同じだったり。髪型から服装まで、全部シルルがやってくれるんだけど、趣味なんだろうね。
「テイムってどうやるの?」
使い魔と従魔は違うんだろうな。
「スライムに手を向けて、お母さんが今から言う言葉を復唱してね」
「はーい」
「分かった」
私は青のスライムに、エレンは赤のスライムに手を向ける。
『汝、我に従属せよ』
思わずお母さんを見る。……え? まさかこれだけ?
お母さんが頷くので、復唱する。手のひらに軽く抵抗するようなものがあったけど、それだけ。
「無事にできたわね。もっと強い魔物をテイムするとなると大変なのだけれど、あなた達には必要ないでしょう」
そうですね。魔力多めの双子の魔女に天狼(魔法も物理もいける最強クラス)が四匹。これ以上の戦力は不要な気がします。




