かぼちゃに詰め込む!
部屋に戻った私達は、さっそく紙とペンを取り出した。製紙技術はこの世界にもあるけど、前世のような薄くて書きやすく、かつ白いのは高級品なのです。白っていってもあれ、オフホワイトとかアイボリーといった感じだけど。
紙やペンはピンからキリまであるのです。
この世界の識字率は集団の規模によるみたい。近くの村は村だけど識字率が高いんだって。代々の村長さんが村民が読み書き計算ができない所為で外部の人間との遣り取りで損をしないようにしてるとか。なんという賢明な村長さん。だから村なのに百人もいるんだと思う。
お母さんからもらった紙とペンで字の練習をしたり、落書きさせてもらえている。物は良いと思うので、お母さんはおっとりさんに見えて結構稼いでいるのではないか、というのが私とエレンの所感。
「まず、ベッドは絶対」
「そうだね」
二段ベッドなどではなく、二人並んで寝てる。使い魔達が孵る前は二段ベッドだったんだけど、皆一緒に寝たがるから大きなベッドに並んで寝てる。
天狼はこれからもっと大きくなるっていうから、かなり大きなベッドが必要なんじゃないかな。なにしろ狼なのでね。
「あと、シルルが活躍するキッチンと、食事をしたり作業をするテーブルと椅子」
うんうん、とエレンが頷く。
「パントリーも必要だね」
確かにと頷く。
「冷蔵庫さ、魔力で作れるのかな?」
「それなんだよね」
この家には魔道具としての冷蔵庫がある。水道なんかもそう。トイレが水洗だったり、猫足のお風呂にお湯を注ぐのもぜーんぶ魔道具。
「シルキーが家事をする道具が魔道具なのだとするなら、私達の旅の最初の目的は魔道具を買いに行くことでは?」
「確かにそうだね」
家にある本に、マルングリティという魔道具都市のことが書かれていたのを見たことがある。そこに行けば手に入るはず!
「お風呂とトイレも必要! お風呂が無理ならシャワールーム、トイレとは別で」
「それは欲しい!」
絶対に必要なものを箇条書きしていく。
・ベッド
・キッチン(パントリー付き)
・ダイニングテーブル
・お風呂(無理ならシャワールーム)
・トイレ(できたら水洗)
「こんなところ?」
「とりあえず作ってみて、生活してみれば他に必要なものも分かるんじゃない?」
「そうだね!」
箇条書きした紙を持ってお母さんの元に行く。
「お母さん、馬車にこれ付けたい!」
「最低限これがないとキリエのメンタルが崩壊する」
メンタルにくるとは思うけど、さすがに崩壊まではしない、たぶん。
紙に書かれた条件を見てお母さんが言う。
「そうねぇ、確かにキリエには必須ね」
二人して私のことばかり言うけど、あったらエレンだって助かるはず!
トトトッと足音をさせてシルルがやって来て、紙を覗き込み、首を振る。
えっ、駄目?
「何が足りないんだろう? シルルが座る椅子はダイニングテーブルの椅子以外にも必要?」
シルキーは喋らない。首を縦に振るか横に振るか、つまりイエスかノーかしか伝えられない。
シルルは私とエレンの手を引くと、私達の部屋に向かった。それから洋服がかかったクローゼットを指差す。
「あー、なるほど」
シルキーは家事全般が好きだけど、その中でもそれぞれ好みがある。
お母さんのシルキーは家中をピッカピカにするのに命をかけてるけど、シルルは料理や裁縫が好き。私達の洋服に細かな刺繍を入れてくれたりする。
「クローゼットもほしいってことかな?」
そう尋ねると、シルルはこくこくと頷いた。
「分かった。この部屋の中であと必要なものはある?」
本棚を指差す。それからエレンを見る。
そうだった、エレンは大の読書好きだった。
「クローゼットと本棚だね」
そう、と言わんばかりにシルルは頷いた。
「趣味的なものも含めて、もうちょっと増やしてみよう」
「そうしよう」
居間に戻ると、お母さんが紙にクローゼットと本棚を付け足していた。さすが……。
「あと、洗面所も必要だと思うし、シューズボックスも必要よ」
そうだった。いつもルームシューズで過ごしてたんだった!
「洗濯物をどこに干すかも重要だよね」
家なら庭に干せるけど、魔女馬車で移動してるからなぁ。
「乾燥機をマルングリティで作ってもらう」
「やっぱりそうなるよね」
洗濯もシルキー達が手洗いしてくれてるもんなぁ……。
「どうせなら洗濯機も作ってもらおうよ」
「じゃあアイロンも」
「おー、名案」
それらの魔道具を作ってもらうとして、動力源となる魔導石には私達二人で魔力を注げばなんとかなる。
「あなた達、季節による変化を忘れているわよ」
「あ!」
「そっか!」
魔女馬車は特別だけど、外気温の影響は受けるのです。
「エアコンが必要だってこと?」
「そうなるね」
「夏はそうだろうけど、冬は暖炉が恋しい」
「薪ストーブだね」
エレンの言葉に私とシルルが頷く。
ストーブの上の平らな部分に煮込み料理の入ったお鍋がのっているのとか、ホーローのやかんがのっているのを見るのが好きなんだよね。それにその煙突を車内に巡らせれば……。
「二階建てにしたい!」
「贅沢仕様!」
「あらあら、凄いわね」
一階のガスストーブの煙突を二階にも通るようにすれば馬車内全体が暖かくなるのでは!?
「一階にキッチン、ダイニング、お風呂、トイレ、洗面所と洗濯機と乾燥機を用意して、二階にベッドとクローゼットとごろ寝できるリビングを用意して、そこに本棚を置きたい。収納たっぷりで。あとシルルの作業部屋も二階でどうでしょう!」
「いいと思います!」
ムービングハウスですよ!
前世みたいに電気とかネットワークがない分、シンプルにイケるはず!!
畑仕事を終えたら魔女馬車の作成にとりかかることにした。とりあえず作って、そこで過ごして改良していくことにしたのです。アジャイル式。明確な計画をたてるより、実行とフィードバックを繰り返して、より良いものにしていく、って奴ですなー。
「今は庭で野菜を育ててるけど、旅の最中は無理だよねー」
「冷蔵庫に保存するのにも量に限界あるだろうしね」
「ただの冷蔵庫じゃなくてさ、ほら、ラノベによくあるインベントリとかマジックバックのような、拡張ができればいいのに」
「そこはお母さんに聞いてみようよ、魔女パワーでなんとかできるものもあるかもよ」
あったらいいな、魔女の謎パワー!
そういえばお母さんは依頼されて倒した魔物、どうしてるんだろう??
「大事なことに気付いたの」
珍しくエレンが深刻な顔をする。な、なんだろ……。
「動物を捌くのっていつもお母さんがやってくれてるけど、血抜きも必要だし、寄生虫の問題なんかもあると思う」
衝撃的すぎて叫びが声にならなかったです。
「そうだった!」
それも考えてたのにすっかり忘れてた!
「この森で獲った動物を我らは食しているわけだから、お母さんなりシルキーになんらかの術があるはず!」
「確かに!」
あと肉食獣をどうするかだよね。
生物濃縮って奴で、餌となった他の動物達が持ってる毒素とか寄生虫とか、そういったものが蓄積されているはず。せっかく捕獲したなら食べるのが生態系として良いと思うんだけども。
肉食獣は大抵筋張ってるらしいし、獣臭いらしいし。
「獣臭さって調理方法でなんとかなるのかな」
個人的には肉食獣も魔物も美味しくいただいてみたい派です。
「うーん、前世だとクマ肉には味噌漬けとかが結構有効だったみたいだよ。発酵食品だからにおいの元となるものを分解してくれるんじゃないかな」
「なるほどー、でもこの世界で今のところ味噌は見たことも聞いたこともないね」
本にも書かれてないから存在しない? いや、でも前世持ちの魔女や賢者の一人や二人や三人ぐらいは試してるでしょ!
「あ、味噌って外国人には抵抗あるんだっけ?」
「意外と慣れると平気らしいよ。ぬるっとしたものは苦手みたいだけど、納豆とか」
「なるほど」
納豆は日本人の中でも好き嫌いが分かれるぐらいだからやむなし。
「じゃあ魚やお肉の味噌漬けはやってみる価値ありだね。味噌が見つかれば」
「見つからなければ作ればいいよ。作り方知ってるし」
味噌を作るなら醤油も作ればいいのさ。塩は岩塩探しも楽しそう。王妃マリー・アントワネットもおっしゃってるしね。パンがないなら作ればいいじゃない!(違う)
「まぁそこはお母さんに聞いてみよう」
「そうしよう!」
とりあえず話はそこまでにして、魔女の馬車をお母さんに教えられたように作るんだけど、魔力送るからキリエ作って、とエレンに言われてしもうた。
お母さんもエレンも私のメンタルを強調しますしね、せっかくなんで好きなように作らせていただいて、その後は要相談だね。
魔女の馬車はまず素体を魔力で作る。外観は二の次ですよー。とりあえずかぼちゃでいっか!
庭の端にどーんと巨大なかぼちゃの馬車が誕生した。良き色艶である。巨大かぼちゃに深緋色の車輪が四つ付いてる。扉とステップも同じ深緋色。とりあえずで作ったんだけど可愛いな(自画自賛)。
「可愛いね」
「幼女のまま旅立つならこれもアリだと思う」
エレンと見合う。
……我ら何歳に旅立つの……?




