孵った!!
卵が魔力を吸収するとは聞いていたけど、卵二個だからかぐんぐん吸われる。枯渇するようなことはないけど、遠慮なく吸っていくなー、この卵達。
それから本当に割れない。ちょっとぶつけちゃったんだけど全然平気だった。とはいえ、ぶつけた瞬間は血の気が引いた!
今日も今日とて庭いじり。
花だけじゃなく野菜も育ててる。全ての食材を村で購入するのは大変だから。
魔法も使わずに育てているから、なかなか根気がいる。前世のスーパーマーケットや八百屋さんのありがたみを感じる。魔法を使えばあっという間に育つらしいんだけど、それはお母さんが嫌がるからしない。スローライフ派なんだよね、今生の母上。
「どのくらいで孵るのかなぁ? 卵一個なら三ヶ月ってお母さん言ってたけど」
「どうなんだろうね。普通とはちょっと違うみたいだし」
夏の野菜を育てるため、畑の土を掘り起こしてる。これは魔法でやっていい。まぁ五歳児に畑仕事やらせるのはどうなんだっていうのはある。前世大人の記憶があるのと、魔法でできちゃうからやるわけだけど。
お母さん曰く、畑仕事は魔法の制御を覚えるのに丁度良いのだそう。えー? とか最初は思ったけど、確かに土を掘り起こすのに土魔法を使ったり、森のあちこちにある枯葉を風魔法で集めて堆肥にしたり、水やりに水魔法を使ったりと、魔法の勉強にはなる。
魔力があるからと力任せにやると畝も作れないし、葉っぱも飛び散るし、せっかく植えた種を大量の水で流してしまったりする。やればやるほど、母の言う意味を理解する。
「ねー。天狼さ、前世でのフェンリルに似てるよね」
「そうだね」
私と違って渋めのコミックを好んで読んでいたエレンも、フェンリルのイメージはあるらしい。
「フェンリルって、湿原に棲むものって意味だから、こっちではそう呼ばないのかも?」
「フェンリルってそういう意味なんだ」
「そうそう」
私も何かでたまたま知った程度だったけど。だから前世のコミックやラノベの世界でフェンリルが出てくる場合は、フェンという場所が存在するんだろう、きっと。っていうかフェンリルってトリックスターのロキの子なのになーとか、まぁ後に女性の巨人だとか老婆だとかいう存在がフェンリルの子を産むからまぁありなのかなと思ったり。
なんでそんなの調べたのかって? 中二病だからさ! そして現役さ! だから転生してこの世界のことを知って、自分が魔女だと知った時は歓喜したよね!
「ところでエレンちゃん」
「なんだいキリエちゃん」
「背中の卵が揺れてるのか私が揺れてるのかどっちだと思う?」
「奇遇だね、私も同じこと考えてたよ」
……ということは、です。
二人とも畑作業のスピードを上げ、家に戻る。
「卵ー!」
「おかあさーん!」
居間で使い魔の鹿の角を使って編み物をしてる母に駆け寄る。いつも思うけど、器用。
「あらあら、どうしたの?」
「卵が動くの!」
「そうなの!」
シルキー達に手伝ってもらいながら背負ってる卵をテーブルの上に置く。朝はなかったのに、あの硬い殻にヒビが入ってる! それもあちこちに。
「まぁ、これなら今日には孵るわね」
今日!! 確かにヒビすごいもんね!
「使い魔ー!」
「やったね!」
「柔らかい布を用意してくれるかしら」
お母さんがシルキーに頼むと、シルキーは頷いて居間を出て布を取りに行った。私達は椅子に座って卵をじっと見る。魔力は送らずとも変わらずに吸われていっております。
すぐに戻って来たシルキーから布を受け取って、卵をその上に置く。瞬きを忘れて見入る。
とはいえ、そんな都合良く直後に孵ったりはしないので、シルキーが持って来てくれたヤギミルクを飲んでまったりする。
畑仕事も終えてますからね、労働の後の一服(?)は堪りませんね。
卵のことから少し意識が離れて雑談をしていたところ、ピシッという鋭い音がした。皆の視線が卵に注がれる。
殻の破片が布の上に落ちてる。私のではなくエレンの卵。
それからちょっとして、他の卵からもピシピシッと音がして、卵の殻の破片が落ちた。
鳥だと嘴で殻を割るイメージなんだけど、天狼なんだよね? 狼なのに卵なのもだいぶ謎なんだけども。
エレンの卵が最初に孵るだろうという予想に反して、目の前の卵からこれまでで一番大きな音がした。パキャッという音と同時に足が空いた穴から突き出て来た。子犬っぽい足!
それからマズルが穴から出てきた。かわよ!
だがしかし、マズルの力では殻を内側から破れなかったようで、マズルが引っ込んで、また足でパキパキと殻を割って穴を広げていった。賢いな?
十分な穴ができたと思ったのか、マズルだけでなく頭が穴から出てきた。天狼=フェンリルのイメージでいたから、ブラックタンとは思ってなかった。さっきからにょきにょき出ていた足も白くはなかったな。
「お母さん、出てくるのを手伝ってもいい?」
「ここまでくれば大丈夫よ、手伝ってあげなさい」
「はーい」
帽子みたいにのっかってる殻を、頭から剥がすように引っ張ると、予想よりも簡単に剥がれた。卵の殻の中で私を見てしっぽをぶんぶんと振るその姿は、どう見ても昔飼っていた、最期を看取った子にそっくりだった。
「……キトラ……?」
わん! と大きく吠えて、嬉しそうな顔をする。その姿は亡き愛犬そのままだった。
涙があふれてくるのをこらえながら、そっと手を伸ばして卵の中から出してあげると、かつて甘えてきた時と同じようにおでこを顔にあててきた。
我慢できなくて泣いてしまった。
親友のエレンと会えただけでも奇跡のようなのに、虹の橋を渡ったはずの愛犬とまた会えるなんて、こんな、許されるの……?
目の前の卵ばかりに気が入っていた所為で、他の卵も孵っていることに気がついていなかった。
孵った使い魔達は、前世の私が飼っていた犬、そのままだった。不思議なことにこの子達も私とエレンが何者なのか覚えているみたいだった。
嬉しくて涙が止まらない私の背中を、お母さんとエレンがずっと撫でてくれて、生まれたばかりの使い魔達が私の顔を舐めてきた。
やっと会えたと言わんばかりに。
あとから迎えた二匹の子は、私が病気になった所為で最期までそばにいることができず、エレンが寿命が尽きるまでお世話をしてくれたと教えてくれた。
胸が苦しいぐらいに嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、泣きながら笑った。
こんな幸せ、得られるなんて思いもしなかった……!




