ゴブリンの巣探索という名の殲滅〈後編〉
商人達の護衛をシュナに任せ、私達はゴブリンの巣の捜索に向かうことにした。使い魔はどれだけ離れていても主人の場所が分かるので、ここで待っていなくても平気。個人的には待っていたいけど……。
「シュナ、気を付けてね」
おでこを撫でると、パタパタと尻尾を振るシュナ。可愛い、うちの子は本当に可愛い。
「すまないな、使い魔を護衛として借りてしまって」
「領都まで着いたらこちらに戻ってくるようお願いしてあるので大丈夫です」
マルングリティから来たという商人団のリーダー フレディさんは何度もお辞儀をしながら馬車に乗り込み、シュナと一緒に領都に向かった。
「フレディさんの知り合いの魔女には会いたくないね」
「同感」
かなりお金がお好きな魔女みたい。別にそれを悪いとは思わない。お金を使うのが好きな人もいるし、貯めるのが好きな人もいるし、色々。騙してでも儲けようとする人は好きになれないけども。
それはそれとして。
「さっきの集団からして、斥候ではなくなってきてる気がするから、急いだほうがよさそう」
「領都に向かう人達を襲う可能性が高いもんね」
ただでさえスタンピードの所為で、各地の村々から救いを求めて多数の人が領都に来てるんだから。本当ならそういうのを助けてあげるべきなんだろうけど、なんかそういうのを一つでも受けたら都合よく使われるようになるんじゃないかなーとか穿ってしまう、前世社畜な自分。
ラノベの主人公に転生しなかったのは、このへんの考え方の所為なのやも?
天狼に乗り、ゴブリン達の軌跡を追う。
「エレンちゃん、あのさ」
「言いたいことは分かる。耳でしょ?」
「燃やしつくすんじゃ証明にならないってのは、理屈では分かるんですよ?」
でもさー、ゴブリンって人型じゃないですかー。魔法で攻撃しといて何言ってるんだって感じだけど、嫌なものは嫌っていうか……。
「考えてたんだけど」
お? もしやエレンちゃん、何か策が?
「私も触りたくないから、風魔法で切り落とせばいいんじゃないかなって」
「切り落とさない選択肢はないんだもんね」
「そうなのよ」
でもそうか、風魔法で切断して、あとは燃やし尽くせばいいのか。これまでも魔物を倒してたけど、顔は素材としての価値が高いのもあって血抜きナイフで切ったことがないんです。解体は最低限やれるけど、触りたくなかったっていうのもあった。エレンちゃんてば天才では?
「それなら、やれるかも」
「お互い頑張ろう。私は鑑定リングのために」
「私はカメラのために」
軌跡魔法を使って辿り着いたゴブリンの巣は、ひと言で表現するなら胸糞でした。人から奪ったと思われるもの、監禁された女性達が何人もいたから。
旅に出る前、お母さんから教わった魔法がある。できるなら使いたくなかった魔法。でも女性達を思えば使ったほうが良い魔法。ただそれは本当の意味で救済になるかは分からない。決定するのはあくまで女性達で、その手助けを私達はするだけ。
「キトラ、行って好きなだけ暴れておいで」
奴等に後悔という概念があるかは分からない。でもね、そんなことは関係ないんだよ。ゴブリン達が繁殖するのに人間の女性が必要だとか、知ったことじゃないんです。
絶滅させたい、それだけ。
「シエ、ミトラも行っておいで」
三匹の天狼が駆け出していき、嬲るようにゴブリンを屠っていく。力のあるものが弱きものを抹殺する。本来ならよくないんだろうけど、あっちがその気なんだからさ、こっちが手加減する必要なんてないのさ。
「行きましょう!」
「基本風魔法で」
「了解!」
私とエレンはこちらに向かってくるゴブリン達を、圧倒的な力でもって捩じ伏せていった。躊躇はしない。戦闘っていうのは、一瞬でも怯んだほうが負けるから。
力の差とか関係ないの。
やると言ったら、やるんです。
「今からでも遅くないから女性型を生み出せるように進化しろー!」
「そうだそうだー!」
「『疾風』」
「『粉砕』」
天狼と、幼いとはいえ魔女二人に襲われて無事なゴブリンがいるはずもなく。
跡形もなく滅殺したゴブリン達は天狼達によって集められた。お、おぉ……小山ができるぐらいの数。
嫌だけど、戦闘直後のアドレナリン分泌状態で耳を魔法で切り落としていく。切り落とした耳は素材納品用に用意している布袋に放り込んでいき、廃棄待ちのゴブリンは全て焼き尽くしてやった。
巣穴の中に入ると、被害に遭った女性達が集まって怯えた目で私達を見ていた。話には聞いていたけど、こういった被害に遭った人達にかける言葉ってあるの? ないよね? だってもう、尊厳とか踏み躙られてるんだから。
「私達は魔女です」
「貴女達の希望にできるだけ添いたいと思います。それが、貴女達の尊厳を僅かなりとも取り戻すと思うので」
残念なことになかったことにすることはできない。治療はできるけど、時間を戻すことも、心を癒すこともできない。魔女には力があるけど、神様じゃないから限界がある。
「私達が貴女達にできることは──」
記憶を消すこと。
身体に浄化魔法をかけること(身籠らされていたなら、その子供はゴブリンなので被害者に知らせずに始末する)。
……眠るように、最期を迎えさせること。
説明するだけで胸が苦しい。
淡々と説明してるつもりだったけど、表情は隠しきれなくて、被害に遭った女性に逆に慰められてしまった。
「ごめんなさい、無力で、ごめんなさい」
「貴女達が来てくれなかったから、あの地獄がずっと続いていたわ」
「そうよ、終わらせてくれて、選ばせてくれてありがとう」
被害に遭ったのは私達じゃないのに、涙が止まらなかった。奴等みたいな存在は人間の男にもいて、ただの欲望の発散でしかないのかもしれない。でも女性にとっては生きながらにして殺され続ける、拷問なんだよ……。
女性達は、それぞれ、どうするかを選んだ。記憶を消した人、記憶をそのままに浄化を望んだ人、最期を選んだ人──。
力があっても、本当に必要な時に間に合わなかったら、意味がないんだなって思うと、苦しい。
俯いている私の背中をエレンちゃんが撫でてくれた。思わず抱きついて、泣いた。
「私達のしたことは、完璧じゃないけど、ほんの少しは役に立てたと思うし、これからもアイツらは許さない」
「……うん。依頼関係なく、私も許さないよ」
私達に滅ぼされたくなかったら、女型を自分達の中で生み出せるよう進化しろ、ゴブリンめ。
全滅が先か進化が先かは知らんけど、実際の被害を見て、許さないって気持ちを新たにした。




