ゴブリンの巣探索という名の殲滅〈前編〉
ゴブリンの巣探索依頼を受けることにした!
依頼書を持って受付へ向かう。背伸びして依頼書を差し出す。
「この依頼を受けたいです」
依頼書をおねーさんに渡すと、一度頷いた後、私達を見た。
「近頃、斥候と思われるゴブリンを発見したという報告を受けておりまして、巣の在処を見つけていただきたいというのが本依頼となります」
ふむふむ。了解です。
「発見された場合、ご無理なさらず撤退なさってくださいね。ですが万が一戦闘になったり、巣を殲滅などということになりましたら上位ランク依頼達成ということでランクポイントが加算されます」
巣を殲滅のところ、すっごい強調して言われたよ。暗に殲滅してきてと言われている気がしなくもない。まぁ殲滅する気満々なので、ポイントが加算されるのは願ったり叶ったりです!
「討伐報告の際は、お手数ですが左耳をご提示いただく決まりとなっております」
討伐って言っちゃってる。
お母さん方式で燃やし尽くすのは駄目なのかー。えー、耳ー……。
「分かりました」
「よろしくお願いします」
「行ってきます」
お互いにおじぎをしてから、ギルドを出る。エレンを見ると頷いたので、このまま巣の捜索に向かう。もしそういう依頼があったら受けて、その足で討伐に行こうね、という話はしていたのです。
天狼に乗り、領都の外に向かう。……あ、颯爽と飛び出したと思いました? それはね、住人をひいちゃうので無理なんですよー。てくてく進んでます。のっしのっしのほうが正しいかな。領都を出たら走ってもらうけど。
領都で過ごして一週間ほどすると、領都民も私達のことをすっかり認識しているようで、驚く人は少ない。たまにいるけど、旅装だったりするから、ここに来たばかりの人や初見なのだと分かる。
領都の外は今日も入都しようとする人の列。
うーん、これだけ連日人が来るっていうのは、本格的にやばいのではー?
キトラに進む方向を伝えると、あっという間に駆け抜けてくれる。きゃー、落ちるーっ。
走ること十分ほど。天狼の足で十分はそこそこの距離です。止まってとお願いしていないのに私とエレンを乗せたキトラとシエが止まった。
悲鳴と叫び声が聞こえる。わーっ! 嫌な予感ー!!
「急いで!」
これまで以上の速さで現場に到着。
予想通り人が襲われていた。
「『烈風』」
「『切断』」
私とエレンが同時に詠唱し、人を襲っていたゴブリンが空に吹き飛ばされたり、風の刃に切り裂かれた。
ざっと見て三十匹。巣でもないこんな道端で。
「シュナ!」
「突撃!」
突撃命令を出すと、シュナとミトラが他のゴブリンに襲いかかった。私とエレンは襲われていた人の元に向かう。
「大丈夫ですか?」
「怪我は?」
襲われていたのは商人の一行だったようで、幌馬車が横転してる。馬車を引いていた馬は逃げちゃったのかな、いない。襲われて怪我をした人が何人もいるけど、亡くなっている人はいなさそう?
「あ、あぁ……助けてくれてありがとう」
助けに来たのが子供で驚いている様子。まぁそうだよね。
でも我、魔女ぞ。
天狼達はゴブリンをバッタバッタと薙ぎ倒していく。さすが天狼つよー。
「他に襲われた方はいますか?」
「いや、ここにいるので全員だ」
じゃあ治療すれば大丈夫かな。
「『治癒』」
「『軌跡』」
私が治療魔法をかけている間に、エレンちゃんが逃げた馬を探してくれているようだ。
「馬を見つけたので連れて来ようと思うけど、大丈夫?」
「大丈夫」
頷くとシエに乗ってその場からいなくなった。
一人ずつ治癒魔法をかけていく。商人だからポーションなんかも使い慣れてるんだろう、治癒魔法に驚く様子はない。
「もしかして、君は魔女なのかい?」
「そうです」
「助けてもらってなんなんだが、その、お礼はどのくらい支払えばいいだろうか」
相場が分からないし、ここで誠意を見せてくださいとかいったらちょっと脅迫っぽいし、かといってタダにするのもよくないだろうし、困ったなぁ。
「あなた方は商人ですか?」
「そうだ。魔道具都市から商品を……あっ! 魔道具!」
思い出したのか横転している馬車に向かって駆けて行く。
命があるのが一番大事なことだけど、商売道具が壊れると懐が痛むもんね……。
馬車から戻ってきた商人達は、少しだけ困った顔をしていた。
「半分程壊れてしまっていたが、命があるだけ儲けものだ」
うんうん、その精神で頑張ってください。
「お礼なんですが」
私がそう言うと、皆がピッと背筋を伸ばす。
……悪どい魔女の被害にでも遭ったことがあるんだろうか……。
「領都を出たら魔道具都市に向かう予定なんです。オススメのお店を教えてくれませんか」
え? それじゃタダ同然だろうって?
でも半分壊れたって言ってるし、別にお礼目当てで助けたわけでもないからなぁ。
「何か欲しい魔道具があるのかい?」
「まだお金を貯めているところですが、鑑定リングと写真機の購入を考えています」
「それはまた大層高価な物を」
そうなんだよー、お金は必要だけど、だからってこの人達から根こそぎ奪おうとかそういう考えはないのだ。
「職人としての腕はいいが、人嫌いの奴がいるんだ。そいつへの紹介状を領都に着いたら渡すよ」
「お願いします」
微妙な顔で私を見る商人。
「……それだけでいいのかい?」
「金銭目当てで助けたわけではないので」
冒険者ならもらうべきなんだろうけども。
商人はうーん、と唸った後、ちょっと待っていてくれ、と言って馬車に向かった。あの馬車、起こしてあげたほうがいいかな。あとで聞いてみよう。
横転した馬車から戻ってきた商人は、私に水筒をくれた。
「これに入れると冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいまま保存される水筒だ。よかったらもらってくれ」
おぉ、真空断熱魔法瓶!
「いいんですか?」
「お礼にもっと良い物を渡したいんだが、壊れてしまっていてね、壊れていないものの中で一番高いのがそれなんだ」
「それなら尚更いただけません。商売をしてまたマルングリティに戻るんですよね?」
「それはそうなんだが……君は、私が知っている魔女とだいぶ違うな」
そりゃあ違う人間なので。っていうか世の中の魔女ってそんなにアレなの!?
「といっても、知ってる魔女なんて一人しかいないが、ごうつくばりでね……」
「魔女も色々だと思います」
「そのようだ」
エレンが逃げた馬を連れて戻ってきた。




