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転生魔女は悠々自適に世界を旅する  作者: 黛ちまた
双子魔女の旅立ち

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人は簡単に変わらないけど、成長はするかも?

 ダイニングキッチンのある一階に下り、テーブルにつく。既に卓上には出来立ての料理が所狭しと並んでいて、胃を刺激する匂いと湯気を放っております。キャンピングカーでの食事とは思えないよ、本当。


「今日も美味しそう!」

「随分作ったねー」


 シルル、新しいキッチンが楽しかったみたいでたくさん作っちゃったみたい。やっちゃった、と言わんばかりにお盆で顔を半分隠している。

 使い魔の天狼は普通の犬や狼ではないから私達と同じ物が食べられるけど、お母さんの使い魔は木の実なんかが好きでよく食べてた。あとはレタスとか果物。少なくとも肉食じゃなかった。鹿だからかな。

 キトラ達は私達と同じ物を少しもらうのが好き。それから自分達用に用意されるごはんを食べる。


「いただきまーす!」

「いただきます」


 前世からの習慣は変わらず。手を合わせていただきますをしてからごはんを食べる。

 大皿からキトラとシュナ用のお皿に料理を取り分けてから、自分のお皿にも取り分ける。ひよこ豆と自家製腸詰のグラタン! ひよこ豆のちょっとほくっとした食感と、腸詰を噛んだ時にパツンと弾ける食感が美味しい。ヤギチーズもこうすると食べられる不思議。

 サニーレタスとルッコラとチコリのサラダには自家製ドレッシング(所謂イタリアンドレッシングみたいな奴)がかかってる。このあたりの野菜やハーブ類は畑で育てていたもの。魔道具の冷蔵庫は時間を止める機能つきにはしなかった。一応あったんだけど、桁が違ったのです。お母さんは買えばいいと言ってくれたけど、同じ桁違いなら収納力が多いほうがよくって、そっちにしてもらった。

 コンソメスープも自家製なの凄すぎる。恐ろしく胃に染み渡ります。美味しい。六時間くらいかかるのにシルル達ってば楽しそうに作るんだよね……六時間ですよ、六時間……。その恩恵に与ってる身としてはありがた美味しいわけだけど、作る側にはなりたくないのです。シルルもそれは望んでなくて、彼女が私達に求めるのは食材を調達してくること、美味しく食べること、着せ替え人形になること、以上!


「旅路とは思えぬこの食生活を維持するためにも、よく働き、よく狩りをせねばなりませんな」

「そうですな」


 森では見たことのなかった動物とかにも巡り合うよね、当然。まだ見ぬ果物や魚達よ待ってろー。

 旅の醍醐味は人によって異なるだろうけど、私は食事を大事にしたい派です。


「直線距離だと領都は遠くないんだけど、険しい山があるんだよね」

「そうそう、それがあるから村と森が僻地になってる」

「魔物暴走もその山が防いでいる気がする」

「確かに」


 いくらお母さんが強力な魔女で魔物暴走を防ぐために頑張るにしても、いかんせん森が広大で無理な話。あの村が無事なのはお母さんが守る範囲内に入ってるからなのではないかなぁと思ってる。


 つづら折りの山路を登るしかなくて、普通の馬車は超えられない。だからクルックさんは足腰の強いラバでこの山を越えて来るわけです。


「魔女馬車が通れるだけの幅はあるってお母さんが言ってたから大丈夫だろうけど」

「言ってたね」

「私、いろは坂で乗り物酔いするタイプだった」

「あー」


 ……どうか大丈夫でありますように。


「そうそう、クルックさんからもらった旅行記に気になることが書いてあったの」


 さすが本好き。いつの間にそんなやりとりしてたんだ。


「村と領都の間にある山でしか採れない美味しいきのこがあるんだって」

「通年採れるきのこなの?」


 違うって分かってるけど、一縷の望みをかけて……。


「ううん、秋」

「今春です……」


 去年の秋だったら……ってその時はお母さんが許してくれなかっただろうから、どのみち無理だった。


「今度戻って来る時秋にしようよ」

「そうしよう」


 知ってしまったからには食べてみたくなるのが人情というもの。美味しいきのこをお土産にお母さんに会いに行くのもいいと思う。あとで地図横のメモに書き足しておかないと。


 私達が魔女馬車内のベッドで眠っている間も、ファゴットは馬車を走らせてくれる。この世界の妖精って睡眠を必要としないからそんなことができるんだろうけど、魔女は睡眠を必要とする。


「領都への山は傾斜がきつくても行けるみたいだけど、この先にはそれも難しい場所もあるよね、きっと」

「あるだろうね」

「ギルドで受ける依頼なら行って戻って来るからそれでいいだろうけど、旅の目的地にはできないね」

「それね、魔道具でどうにかできないかなって思ってたの」


 魔道具? と聞き返すと、エレンが頷いた。


「さっき話した旅行記の著者が、旅の途中で魔女と出会ったって書いてあったの。その魔女の馬車は綱のようなものの上を走っていたんだって」


 えっ! この馬車そんなことできないよ!?


「著者も驚いて、その魔女と話す機会があったから聞いたんだって」

「魔道具を使ってると教えてもらったってこと?」

「そうそう」


 なるほどねー。

 ますます行きたくなってきたよ、魔道具都市マルングリティ




 結論。浮いてても地形の影響を受けるってことで馬車が揺れる! 魔女馬車のサスペンションをもってしても、地形によるデバフは無効化できないもよう。

 お母さんから乗り物酔い用の薬もらっておいて良かった……調薬に関心持ってみようかと思ったりもしたけど、きっと長続きしないだろうから、お薬を買うお金を稼ぐ方向でいきたいと思います。魔女のくせに薬作れないのかよとディスっていただいていいです、やりたくないもんはやれないのさ!

 それにエレンから聞いた魔道具の存在もあるし、改良の余地はあるのではと思ってる。


 ファゴットが寝ている間に馬車を進めていてくれていたからまだ平気だったけど、途中で大きく揺れて目が覚めてしまったよ……。そこから眠れなくなったから、シルルを手伝ってファゴットに感謝のお茶を差し入れた。ファゴットは蜂蜜が好きだから、蜂蜜の入ったクリームをサンドしたクッキーとかも喜ぶ。

 なお、エレンは熟睡中です。強い。


 ダイニングの窓から外を眺める。

 馬車本体は発光していないし、馬車内の光は外に漏れないから、外から見たらファゴットの青い炎と巨大なかぼちゃが走る意味不明な状態。

 窓の外は暗くてよく見えないけど、そのぶん星が見える。この世界にも星図とかあるのかな。


 シルルが私用にホットミルクを入れてくれた。


「ありがとう」


 にこ、と小さく微笑むシルルは可愛いです。シルキーの外見は儚げな美少女なのです。それが屋敷を出た途端に死人が出る家の前で血の涙を流して泣き叫ぶバンシーになるんだから謎。何があった?

 キトラとシュナは子犬姿のまま私の隣で丸くなってる。コブタスライム? スライムコブタ? のトトはシルルからもらった料理(?)の余りをもらって美味しそうに食べてる。可愛い。


「シルルは今日も料理の仕込みなんだね」


 嬉しそうにシルルは頷いた。

 魔女馬車のキッチンは実家のキッチンと違ってシルルのために用意したもの。自分だけのキッチンが嬉しくてたまらないのだと思う。喜んでもらえて私達も嬉しいよ!

 

 時折自分の部屋にある椅子でお休みしているみたいだけど、シルキーも妖精なので基本寝ない。なのでシルルもファゴットと同じで夜中でも起きて掃除や料理、針仕事をしていたりする。仕事というより趣味、生き甲斐みたいだから止めないけども。


 前世、年を追うごとにさまざまなことに興味を抱いたけど、これだけは! というものはなかった。出会えなかったのか、なかったのかは分からない。だから何かに夢中になる人が羨ましかったし、応援していた。好きなことに全力投球できるのは幸せなことだと思う。

 今生で何かに出会えるかな。この世界に生まれてまだ十二年。ありがたいことに寿命がないというこの肉体。色んなことに挑戦して、好きになったり飽きたりしてみたい。


 シルルが私にもクッキーをくれた。ぅわー、夜中のハニークリームサンドクッキーとか背徳感あるー! でも食べちゃう!

 今生でもできないことはいっぱいあると思うけど、前世みたいにどうせ無理だからと思わずに挑戦してみたい! けどきっとしないな! 人はそんな簡単に変わらんのじゃ! 前世の記憶やらなんやら引きずってるのに真逆のことができるわけない!

 でもちょっとだけがんばってみたいって思う自分もいるから、前世の自分と今世の自分は同じであって同じじゃないんだと思う。たとえ記憶や感情を引き継いでも、私は新しい私になれる、かも?


「ズルい」


 二個目のハニークリームサンドクッキーに手を伸ばそうとしたら、鋭い視線と言葉が飛んできた。エレンちゃん、起きたのね。


「私も食べたい!」


 君、目が覚めちゃったんじゃなくて、クッキー食べたいだけだな?


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