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第6章 名付けられなかったもの ルヒコ

 この世の中には悲しい出来事がたくさんあります。あなたはきっと大丈夫。そんなメッセージをこめてこの作品を作りました。

 ソウトたち旅の仲間は 忘れなの井戸へたどり着きました。謎の多いルヒコとの出会い。さらにどんなことがソウトに待っているのでしょうか。

 名付けられなかったもの ルヒコ

 葦舟は砂の川をゆっくりと滑り出した。赤かった空が再び深い赤に変わってきている。砂の大地の上のこけがなくなってちいさなサボテンがまばらに生えていた。

 やがて、砂の川の向こうに古びた遺跡が見えてきた。

 その遺跡はまっすぐに立つ石柱に囲まれていた。

 秀は、老人にもらった地図をながめながら、旅の仲間に話しかけた。

「次が最後の国です。」

「次はどんな国で誰に会うんだい。」

 勇が秀に質問した。

「地図には、永遠の井戸と書いてあります。」

「井戸か。」

 ケイが答えた。

 遺跡のすぐそばまでたどりつくと、葦舟は砂の川の岸辺に寄った。

 暑くも寒くも暖かくも冷たくもない。赤かった空が再び深い赤に変わってきている。太陽はずっと動いていない。

 遺跡の中央へと続く石畳が左右に分かれていた。

「どっちの道だろう。この地図ではどっちの道までは分からないや。」

 秀は困り果てた。分かれ道に近づくと石畳の上に、カゲノオたちが待っていた。カゲノオたちは、オアシスの中央へと続くだろう石畳で待っていた。

「こっちへ行けっていうことだよな。」

 勇がまた剣で道を指し示した。

「よかったね。名付ける者。もうすぐ旅は終わるよ。」

「ありがとう、カゲノオ。ここまで連れてきてくれれたんだね。」

 ソウトはひざまずいて胸の前で手を合わせて、カゲノオたちに感謝の言葉を告げた。

 ソウトの言葉を聞くと、カゲノオたちは光のつぶになってまっすぐ空へ向かって行った。

 やがて遺跡の中心部が見えてきた。広場の中央には屋根の着いた井戸があり、そこにも無数のカゲノオがいた。

「カゲノオは名前をもらえなかったけれど、役に立ったよ。」

「そうだね。」

「道しるべになったね。」

「そうだね。」

「名前はもらえなかったけれど。」

「ずっと待っていたよ。」

「ありがとう、カゲノオ。道しるべになってくれたんだね。」

 ソウトはカゲノオたちを優しくなでた。

 井戸の周りには黄色いカタバミが咲いていた。


 いつの間にか、井戸のそばには、満面の笑みをたたえた老人が立っていた。カゲノオたちはいなくなっていた。老人は旅の仲間が来るまで釣りをしていたようで、右手に釣り竿を持っていた。背には大きな白い袋を背負っている。

挿絵(By みてみん)

「ようこそ、名付ける者よ。ここが最後の関門です。」

 老人が旅の仲間に呼びかけた。

「あなたは。」

 ソウトがたずねた。

「ワタシはルヒコ。忘れなの井戸の番人、ルヒコ。」

 そう言ってルヒコは手を出した。

「四つの国で得たものを渡してください。そうすれば忘れなの井戸に入ることを許しましょう。」

「井戸に入るって。」

 秀が叫んだ。

「みんなで入れるの?」

 優が尋ねた。

「いえ、入れるのはお一人だけです。名付ける者様だけです。この世界の刻を取り戻せる方だけです。」

「だめだ。ソウト。井戸に入っちゃ。」

 勇がぶるぶるふるえてソウトを引き留めた。

「そうよ。暗くて危ないよ。」

 優もソウトの手を引いて必死に止めた。

「せっかくもらった剣を渡したくない。」

 勇は剣を手放さなかった。

「せっかくもらった杯だもの渡したくない。」

 優は杯を手放さなかった。

「せっかくもらった棍棒を渡したくない。」

 秀は棍棒を手放さなかった。

 愛は何も言わずにぶかぶかの王冠をかぶって座っていた。

「無理だよ。君が行った、僕らは。」

 秀が泣きそうな声で叫んだ。

「大丈夫だよ。ボクたちはここまでこれたじゃないか。すぐに帰ってくるよ。」

「やめなよ。」 

 秀が涙をうかべてソウトに頼んだ。

「やめてよ。」

 優が杯をかかえてソウトに懇願した。

「行っちゃだめだ。」

 勇は剣を引き抜いてソウトにうばわれまいとした。

 ソウトは旅の仲間から剣、棍棒、杯、王冠を奪い取るとすぐにルヒコに手渡し、井戸へと向かった。

 勇と優と秀が叫んでいたが、ソウトは聞こえないふりをして井戸の中に続くはしごを下り始めた。

 ケイは何も言わずにソウトを見つめていた。愛はただ微笑んでいた。

勇と優と秀は叫び続けていたが、ソウトの姿が見えなくなると、色と形を失い、ゆっくりと消えていった。

「だから無理だって行ったじゃないか。君だけが行った、僕らは。」

 秀の言葉はとちゅうでかき消えてしまった。

「だから行かないでって言ったのに。ひどいわ。」

 優の言葉はとちゅうでかき消えてしまった。

「だから、とらないでって言ったじゃないか。それなのに。」

 勇の言葉はとちゅうでかき消えてしまった。

 愛はただ微笑んでいた。ケイは一言も言わずに腕を組んで井戸を見つめていた。 

井戸をのぞき込むルヒコは、上からソウトに叫んだ。

「井戸の底に鏡があります。けれど、決してのぞき込んではいけませんよ。鏡は見ないで、先に進んでください。」

 ソウトは井戸のとちゅうから返事をした。

「鏡を見ないんですね。分かりました。」

井戸をのぞき込むルヒコは、上からソウトに大声で叫んだ。

「井戸の底に鏡がありますから。絶対にのぞき込んではいけませんよ。鏡は見ないで、先に進んでください。」

「鏡を絶対にのぞき込まないんですね。分かりました。」

 ソウトは井戸のとちゅうから返事をした。

井戸をのぞき込むルヒコは、上からソウトにさらに大声で叫んだ。

「いいですかぁ、井戸の底に鏡がありますからぁね。ふふふ、絶対、絶対のぞき込んではいけませんよぉ。ふふふ、鏡は見ないでぇ、先に進んでくださいね。」

「鏡を絶対、絶対のぞき込まないんですねぇ。分かりましたぁ。」

 ソウトは井戸に下りながらくり返し返事をした。



 この作品はいかがでしたか。ここまで読んでくださったあなた。本当にありがとうございます。

 旅の仲間と別れてしまったソウト。消えてしまった旅の仲間たち。いったい何がおこっているのでしょうか。

 けれど、約束をきっちり守れるあなたは、きっと大丈夫です。

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