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第5章 春の目覚め 椿女王の国

 この世の中には悲しい出来事がたくさんあります。あなたはきっと大丈夫。そんなメッセージをこめてこの作品を作りました。

 ソウトたち旅の仲間は椿姫の宮殿へたどり着きました。とても美しく、豊かな国。宴に音楽。そこではどんなことが待っているのでしょうか。

 葦舟は砂の川をゆっくりと滑り出した。赤かった空が少しだけ桃色にそまってきている。砂の大地の上にとても小さな花が咲いていた。

 やがて、砂の川の向こうにりっぱな宮殿が見えてきた。

 その宮殿は色とりどりに咲き乱れる花畑に囲まれていた。

 秀は、老人にもらった地図をながめながら、旅の仲間に話しかけた。

「次の関門は花畑の楽園。椿女王の国です。」

 宮殿のすぐそばまでたどりつくと、葦舟は砂の川の岸辺に寄った。

 ほんのりと暖かい赤い空の日差しも暖かい。花畑から優しい花の香りがただよって

 宮殿へと続く小道が左右に分かれていた。

「どっちの道だろう。この地図ではどっちの道までは分からないや。」

 秀は困り果てた。分かれ道に近づくと小道の上に、カゲノオたちが立っていた。カゲノオたちは、宮殿へと続くだろう小道に立って肩で息をしていた。

「こっちへ行けっていうことだよな。」

 勇が剣で道を指し示した。

「よかったね。名付ける者。ここまでこれたね。それはすごいことだよ。」

「ありがとう、カゲノオ。待っていてくれたんだね。」

 ソウトはカゲノオたちの肩に手を置いて感謝の言葉を告げた。

 ソウトの言葉を聞くと、カゲノオたちはまた光のつぶになって空へ帰って行った。

 宮殿の門の前には、二人の衛兵が立っていた。

「なんだ、お前たちは。ここは椿女王の宮殿だぞ。」

「帰れ、帰れ。子供の来るようなところではない。」

 衛兵はかわるがわる嵐のような声で旅の仲間を怒鳴りつけた。

「私は、旅立ちの泉から参りました。」

 ソウトがそう話すと衛兵は急に静かになった。

「旅立ちの泉から来た?」

「もしかして、その杖は?」

 衛兵はかわるがわる旅の仲間に話しかけた。ずいぶんと優しい声になっていた。

「旅立ちの泉で老人からもらいました。」

 ソウトは衛兵に向かっておじぎをした。

「では、あなた様が名付ける者で?」

 衛兵は二人そろってソウトに話しかけた。

「はい。そうです。」

 ソウトが答えると、衛兵は

「開門、開門、名付ける者様がいらっしゃった。開門。」

「開門、開門、急げ、名付ける者様を待たせるな。」

 衛兵はかわるがわる嵐のような声で宮殿の門の仲間に呼びかけた。

 バラのツルがからまった巨大な門がギリギリと音をたてて、ゆっくりと開いた。

「さあ、中へ。」

 旅の仲間は衛兵の一人にうながされて門の中へ進んだ。

 門の中は広場のようになっていた。その広場をたくさんの人々がうめつくしていた。

「パーティーだ。パーティーだ。」

「杯をとれ。皿をもて。」

 紳士と淑女が右から高らかに声を上げて乾杯をした。

「パーティーだ。パーティーだ。」

「椿女王のための宴だ。楽しもう。」

 別の紳士と淑女が左からおどり出した。

「パーティーだ。パーティーだ。」

 紳士と淑女が高らかに声を上げて歌い始めた。

 宮殿の入り口から中に入ると、女王たちの肖像画が両側に並んでいた。その絵ににらまれているようで、旅の仲間はおどおどしながらろうかを進んで行った。

 長いらせん階段を上るとようやく女王の間に着いた。

「女王様、名付ける者がいらっしゃいました。」

 家臣の一人が椿女王に告げた。旅の仲間は来室を許された。

 ソウトは女王の間に入るとおじぎをした。

「ソウトと申します。名付ける者と呼ばれています。この世界の世界の刻を取り戻すために旅を始めました。」

 女王はリュートをかき鳴らして歌っていた。旅の仲間は女王の歌が終わるまでずっと待っていた。

「お前は誰じゃ。」

 椿女王はソウトに気づくと問いだした。

「ソウトと申します。名付ける者と呼ばれています。この世界の世界の刻を取り戻すために旅を始めました。」

 ソウトはさっきより大きな声で答えるとおじぎをした。

 女王は返事をせずに再び歌い始めてしまった。

 リュートをかき鳴らして別の歌を歌い始めた。今度は後ろに並んでいた家臣達も歌い始めた。旅の仲間は女王の歌が終わるまでしばらく待っていた。

「お前は誰じゃ。」

 椿女王はソウトに気づくと問いだした。

「ソウトと申します。名付ける者と呼ばれています。この世界の世界の刻を取り戻すために旅を始めました。」

 ソウトはもっと大きな声で答えるとおじぎをした。


「旅などやめて、ずっとここにいれば良い」

 椿女王はソウトたちにそう話しかけた。

「柊公の国は凍える寒さ。榎王子の国はうだるような暑さ。楸姫の国はどこもかしこも赤か黄色の葉ばかり。」

 少しおこったような顔で話している。

「お前達もずいぶんつらかったろう。」

 椿女王は笑顔になって旅の仲間たちを見まわした。

「ここに居れば、食べ物もたくさんある。暑くも寒くもなく、美しい風景にあふれているのだから。」

「食べ物、やったあ。ペコペコなんだ。」

 勇が走り出して、テーブルの上の料理に手を伸ばした。給仕に目で

「食べていいか?」

 と合図をしたら、笑顔が返ってきたので遠慮無く食べ始めた。

 優は女王に近寄り、かき鳴らすリュートの音色に聞き入った。

 ケイは愛をいすに座らせて、食べ物を小さくちぎって与え始めた。

「でもボクたちはこの世界の世界の刻を取り戻すために旅を始めたんです。」

 ソウトは椿女王に近づいてうったえた。

 椿女王はまた高らかに歌い始めた。家臣たちもいっしょに歌い始めた。不思議なことにその歌声を聞くと、旅の仲間は眠くなって動けなくなった。

「ずっとここに居ればいい。ぐっすりと眠りなさい。こんないい国は他にはないから。」

 ソウトも、秀も優も勇も眠り始めた。愛のわきにいたケイも眠気に耐えられずにしゃがみ込んだ。

「そう、よい子たちよ。眠りなさい。」

挿絵(By みてみん)

 椿女王は高らかに歌い続けた。家臣たちもいっしょに歌い続けた。不思議なことにその歌声を聞き続けると、旅の仲間は深い眠りに落ちてまったく動けなくなった。

「キャッキャッ」

 椿女王の間に笑い声がひびき渡った。椿女王はその笑い声に気づくと歌うのをやめた。リュートを家臣に渡すと立ち上がって女王の間を見渡した。

 ただ一人、眠らない旅の仲間がいた。ケイのわきに座り込んだ愛だけが眠らなかった。

「キャッキャッ、キャッキャッ。」

 小さな手を合わせて拍手をしながら笑い続けていた。

「なぜ、この子は眠らないの。」

 椿女王は再び歌い始めた。先ほどよりも大きな声で。力強く。そして美しく。

 だが、愛はその歌声に会わせてキャッキャッキャッと笑い始めた。

「どうして、この子は眠らないの。」

 椿女王はまた歌い始めた。先ほどよりも長く。よくひびく声で。高く。低く。

 愛は女王の歌声に会わせてキャッキャッキャッと笑い続けた。笑い声はまるで歌声のように女王の間に響き渡った。歌に合わせて手拍子までしている。

 椿女王は歌い続けた。先ほどよりも大きな声で。力強く。そして美しく。

 だが、愛はその歌声に会わせてキャッキャッキャッと笑い続けた。

「なぜ、この子は眠らないの。」

 椿女王はさらに歌い続けた。先ほどよりも長く。よくひびく声で。高く。低く。

 愛は女王の歌声に会わせてキャッキャッキャッとずっと笑い続けた。笑い声はまるで歌声のように女王の間に響き渡った。女王の歌に合わせて手拍子を続けた。

 椿女王はつかれはてて歌うのをやめた。

「あれ。ボクはどうしてたんだ。」

 ソウトが目覚めた。

 愛の笑い声が歌声のように女王の間に響き続けた。

秀も優も勇も眠りから目覚めた。ケイも眠気からのがれて立ち上がった。

「お前たちは先に行くがいい。この国には居なくて良い。」

 椿女王は怒り出した。

「これを持ってとっとと先に行くがいい。」

 女王は愛の頭に宝石の着いた王冠をかぶせた。

 旅の仲間は、愛のかぶったぶかぶかの王冠をながめながら再び旅を始めた。

 愛はケイに背負われて、王冠の下から微笑んでいた。ケイは旅の仲間の後に続きながら、一人一人を見わたして微笑んだ。



 ソウトたちは椿姫の国を後にしました。美しく、豊かな国。宴に音楽。凍える寒さもなく、うだるような暑さもなく、どこもかしこも赤か黄色の葉ばかりでもない。とてもすごしやすい国でした。安らかな眠りをふりきって、それでもソウトたちは目覚め、先へと進みました。

 この作品はいかがでしたか。ここまで読んでくださったあなた。本当にありがとうございます。安らかな眠りをふりきったあなたは、きっと大丈夫です。

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