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第2章 戦争と凍える城 柊公の国

 この世の中には悲しい出来事がたくさんあります。あなたはきっと大丈夫。そんなメッセージをこめてこの作品を作りました。

 旅立ったソウトたちの最初の関門は柊王の国です。そこでどんな出来事が待っているのでしょうか。

 葦舟は砂の川をゆっくりと滑り出した。赤かった空が少し黒みを帯びてきている。そして寒くなってきた。寒い。寒い。砂の大地の上にうっすらと霜がおりていた。

 やがて、砂の川の向こうに高い城壁に囲まれた城が見えてきた。

 その城は凍える平原と柊の森に包まれて立っていた。赤い空が、凍った大地も赤く染めている。

 秀は、老人にもらった地図をながめながら、旅の仲間に話しかけた。

「どうやら、ここが最初の関門、柊公の城らしい。」

 城壁のすぐそばまでたどりつくと葦舟は砂の川の岸辺に寄った。

「行ってみようか。」

 ソウトは旅の仲間に声をかけた。

 ソウトを先頭にして葦舟から下りた旅の仲間は、城へと続く石畳を歩いた。ソウトに続いて剣を持つ勇、地図を持つ秀、料理道具は葦舟に置いてきた優、愛を背負ったケイの順で城へと向かった。

 ギザギザにとがった柊の森の中、石畳は続いていた。ところどころ赤い実をつけたセイヨウヒイラギの木が見えた。

「柊は土をきれいにするという伝説があります。」

 秀が眼鏡をくいっと上げて話し始めた。

「鬼がいやがるから、節分のときには、焼いたいわしといっしょに家の門口にかざる習わしもありますよね。」

 優も秀に話しかけた。

「聖なる木か。」

 勇がぼそっとつぶやいた。

 遠くに見えた城はだいぶ近づいてきた。かなり高い城壁に囲まれている。柊の森を抜けると、空に届くような城門が見えてきた。

 とちゅうで石畳は左右に分かれていた。

「どっちの道だろう。この地図では石畳の道までは分からないや。」

 秀は困り果てた。分かれ道に近づくと石畳の上に、力つきたカゲノオたちが横たわっていた。カゲノオたちは、ぴくりとも動かず、城門へと続くだろう石畳に横たわっていた。

「こっちへ行けっていうことかな。」

 勇が剣で道を指し示した。

「ありがとう、カゲノオ。道しるべになってくれたんだね。」

 ソウトはひざまずいて横たわって動かないカゲノオたちに感謝の言葉を告げた。その言葉を言い終わるとカゲノオたちは光のつぶになって赤い空へと登っていった。


 城門の前には、二人の衛兵が立っていた。

「なんだ、お前たちは。ここは柊公の城だぞ。」

「帰れ、帰れ。子供の来るようなところではない。」

 衛兵はかわるがわる雷のような声で旅の仲間を怒鳴りつけた。

「私は、旅立ちの泉から参りました。」

 ソウトがそう話すと衛兵は急に静かになった。

「旅立ちの泉から来た?」

「もしかして、その杖は?」

 衛兵はかわるがわる旅の仲間に話しかけた。ずいぶんと優しい声になっていた。

「旅立ちの泉で老人からもらいました。」

 ソウトは衛兵に向かっておじぎをした。

「では、あなた様が名付ける者で?」

 衛兵は二人そろってソウトに話しかけた。

「はい。そうです。」

 ソウトが答えると、衛兵は

「開門、開門、名付ける者様がいらっしゃった。開門。」

「開門、開門、急げ、名付ける者様を待たせるな。」

 衛兵はかわるがわる雷のような声で城門の仲間に呼びかけた。

 空まで届くような巨大な城門がギリギリと音をたてて、ゆっくりと開いた。

「さあ、中へ。」

 旅の仲間は衛兵の一人にうながされて門の中へ進んだ。

 城門の中は広場のようになっていた。その広場をガチャガチャとよろいの音をたてながら、たくさんの兵士たちが走り回っていた。

「戦争だ。戦争だ。」

「剣をとれ。弓をもて。」

 兵士たちは勇ましい声を上げて右から走りぬけた。

「戦争だ。戦争だ。」

「柊公のためにたたかおう。」

 別の兵士たちが勇ましい声を上げて左から走りぬけた。

「戦争だ。戦争だ。」

 兵士たちは勇ましい声を上げて走り回っていた。

 城の入り口から中に入ると、巨大な王たちの銅像が両側に並んでいた。その銅像たちににらまれているようで、旅の仲間はおどおどしながらろうかを進んで行った。

 長いらせん階段を上るとようやく王の間に着いた。

「王様、名付ける者がいらっしゃいました。」

挿絵(By みてみん)

 家臣の一人が柊公に告げた。旅の仲間は来室を許された。

「おお、名付ける者よ。良き時に来られた。まもなく、戦争が始まる。力を貸してほしい。」

 王も雷の鳴りひびくような声で旅の仲間に話しかけた。

「戦争って、そんなの無理よ。」

 優がおびえた声で言った。

「僕は暴力は苦手で。」

 秀が眼鏡をくいっと上げて小声でいった。

「おおも戦争。腕が鳴る。で、どこの国と戦うんだい。」

 勇はノリノリで剣を振り上げた。

「もちろん巨人の国とですよ。我々はずっと巨人の国と戦い続けている。」

 そう言いながら、柊公は勇のふりまわす剣を見て勢いよく立ち上がり、

「それは、伝説の勇者の剣ではないか。さすがは名付ける者。よき剣をお持ちで。」

 とにっこりと笑った。

「任せてください。この剣で、敵の一人や二人。」

 勇はノリノリでさらに剣を振り回した。

 ケイは勇のそんな様子を見て、やれやれと言った顔をしながら、背におぶっていた愛を椅子に座らせた。ソウトは愛を見ながら、考えた。勇やケイならいくらでも戦えるだろう。秀もすごい作戦を考えそうだ。優はけがした兵士を治療したり、おいしい食事をふるまったり出来るだろう。けれども愛は、何も出来ないだろう。戦争の国にとどまることは出来ない。

「すみません。王様。ボクたちは戦争をしに来たわけではないんです。この世界の世界の刻を取り戻すために旅を始めたんです。」

 柊公はギロっとソウトをにらんだ。

「その杖を持っているとは、ではお前が名付ける者なのか。こちらの勇者ではなく。」

 王はとても悲しそうに椅子に座り込んでしまった。

「はい。」

 ソウトはおじぎしながら答えた。

「杖をもつ名付ける者なのか。剣を持つ名付ける者ではなく。それでは巨人との戦いには役に立たない。」

 勇はしょんぼりとしながら剣をさやへとしまった。

「なんと、残念な。では、あれを持っていくが良い。」

 柊公は悲しそうにしながらも家臣に命じて古びた剣を持ってこさせた。つかも刃も真っ黒の剣だった。

 旅の仲間、優は剣を受け取ると、葦舟へと戻った。

 愛はケイに背負われて、ずっと微笑んでいた。ケイは旅の仲間の後に続きながら、一人一人を見わたして微笑んだ。


 帰り道でも、ガチャガチャとよろいの音をたてながら、兵士たちが走り回っていた。

「戦争だ。戦争だ。」

「剣をとれ。弓をもて。」

 兵士たちは勇ましい声を上げて右から走りぬけた。

「戦争だ。戦争だ。」

「柊公のためにたたかおう。」

 別の兵士たちが勇ましい声を上げて左から走りぬけた。

「戦争だ。戦争だ。」

 兵士たちは勇ましい声を上げて走り回っていた。

 勇だけが残念そうに、何度もふり向いてその兵士たちを見つめていた。


 この作品はいかがでしたか。ここまで読んでくださったあなた。本当にありがとうございます。ソウトたちは柊王の国での戦争には参加することなく旅を続けることとなりました。

 この作品を読んでくださったあなたは、きっと大丈夫です。

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