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三題噺もどき5

作者: 狐彪
掲載日:2026/01/28

三題噺もどき―はっぴゃくじゅうよん。

 




 ひゅん―

「―――」

 と、ものすごい勢いで、何かが目の前を通り過ぎた。

 同時に、カシャンとネットに当たり、落ちてきたモノが足元に当たる。

 こんな漫画みたいなこと実際にあるんだなぁと思いながら、死ぬかと思ったと心臓はバクバクと音を立てている。

「すみませーん!!」

 遠く離れた場所から、手にグローブを付けて帽子をかぶった青年が駆けてくる。

 野球部の朝練中で、制服ではなくユニフォームに身を包んでいる。

 毎朝早くから大変なものだ、あんな顧問がいるせいで。

「……」

 落ちた球を拾いながら、まだバクバクと鳴っている心臓を落ち着かせる。

 硬球という表現が正しいかは分からないが、こんな硬いものが直接当たらなくてよかった。風船くらい柔らかで柔軟性のあるものだったら痛くもかゆくもないだろうが、こんなモノあたったら脳震盪で済まないだろう……野球選手って危ないんだな。

 校庭の端の方を歩いていたのに、こんなとこまで飛んでくると思わなかった。

「大丈夫かー」

 というのは、部活の顧問の教師の声。

 アイツに用があってこんな所に来たのに、なんて目に遭っている。

 お前がこんな所に居なければ私は朝からこんな目に遭っていない。

「ありがとうございます」

「いえ、どうぞ」

 足も速いのか、いつの間にか近くに来ていた野球部に球を手渡す。帽子をかぶっているせいであまりよく見えなかったがおそらく同学年か1年生だろう。顔に若干の見覚えがあるから同学年かもしれない。この時期に3年生はいない。

 強豪校でもないのだって……それなのに顧問のせいでこんな朝早くから練習させられて。この後、授業だろうに。

「……」

 軽く会釈をしあいながら、そそくさと離れていく。受け取った野球部は即座に投げていた。よく飛ぶなぁ……。投げてよこすなんてことは私には出来ない。球技は嫌いなんだ。

 でもあれだな、ソフトボールに比べたら小さいんだな。

「……」

 まぁ、それはさておき。

 さっさと教室に戻るとしよう。

 こんな所に居たら、何に巻き込まれるかわかったものではない。

 進学校で朝練なんかするな……とは言ってはいけないだろうけど。まぁ自称だからな。文武両道とか言うが、そんなもの出来る人間は限られている。

「……」

 気持ち足早に、校庭の端に沿って校舎の方へと向かっていく。

 ここは、校庭と校舎は少々距離がある。間に狭い道路が走っていて、この時間ここを通学路にしている生徒も何人かいる。私もそのうちの1人だ。ちょっとした近道というわけでもないが、まぁ、車通りも少ないから自転車で走るには安全な道なのだ。

「……、」

 いそいそと、ほとんど駆け足気味で校舎に向かっていると。

「あ、――!」

 その狭い道路の先から、呼ぶ声が聞こえた。

 ちなみに、今更だが、私を呼び捨てする人間は、あの子しかいない。

 大抵は名前の後に、ちゃんがつく。名前的にそちらの方が呼びやすいのだと。ありふれた名前だ。同じ学年に大抵1人か2人はいる。私の場合は小学校の時に私含めて2人いた。

 そんな可愛い人間でもないから少々くすぐったさがあるのだが、呼び捨てはまぁあの子しかしないから、いいかなと。

「おは、よぅ……」

 自転車を押しながら来ていたあの子の隣に、もう1人いた。

 先日の帰り際に見た吹奏楽の子ではなくて、でもまぁ同じクラスのいつも一緒に居るうちの1人。通学路は反対側だと聞いていたが……たまたまそこでかち合ったのだろう。

「……」

 ぞわり、と。

 何かが這い出る。

 嫉妬なんて可愛いものではなく。

「……」

 まだ少し距離のある中。

 こちらに向かいながら、楽しそうに話している。

 何の話をしているのだろう。クラスの事だろうか。それとも何か別の話だろうか。教室に行けば話せるのに、こんな所でも話すのか。私は昼休みにしか会えないのに。

「……」

 落ち着いていたはずの心臓が、またざわめきだす。

 ぞわぞわと鳥肌が立つのは、寒さのせいだろうか。

「おはよ、――」

「おはよう、――ちゃん」

「、っおはよう」

 そんなものを、間違えても向けないように。

 気付かれないように。押し殺して。

 3人で並んで校舎へと向かった。











 お題:嫉妬・硬球・風船


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