量子論的魔法少女 VOL.2
魔法少女たちが、ループしたりバトルしたりします。
各エピソードの世界線は、微妙に繋がっていたりいなかったり。──そんな物語です。
アブソリュート・ゼロから放たれた、災害級魔法少女による漆黒の魔力の奔流が、渋谷から新宿エリア一帯を飲み込まんと渦巻く。
対する、量子論的魔法少女は自らを光の粒子と化して、その嵐の中を自在に舞い、観測という行為で不安定な災害級魔法少女の存在を固定化し、その核心を狙う。
しかし、もはやその攻防は、単なる魔力同士のぶつかり合いではなくなっていた。互いの存在証明を賭けた、無限に続く論理の螺旋だった。
「なぜ……なぜ、わたしだけがこんな宿命を背負わなければならないんだ!」
過去の記憶も何もなく単なる災厄でしかない、災害級魔法少女の悲痛な叫びが、夜空に響きわたる。彼女は、自らの存在が誰かの観測によってのみ固定化されるという、不条理な現実に苦しんでいた。
量子論的魔法少女はその声に答えることなく、ただ冷徹な視線を相手に送り続けるだけだ。彼女にとって、災害級魔法少女はただの観測対象であり、世界に仇をなす災厄でしかない。
そこに、感情は介在しない。まして相手は、『索敵』に勝手にひっかかってきただけの相手だ。罠に拘束されて暴れる子ウサギのように、量子論的魔法少女にとって、災害級魔法少女は最後に仕留めるだけの獲物でしかない。彼女自身のスキルがパッシブで発動するため、一度その存在を感知・認識してしまうと、ロストはありえない。どの時空、どの次元、どんな条件下でも同様に、自動追尾で永遠に捕捉し続ける。
災害級魔法少女は、消滅と再生のサイクルに閉じ込められ、量子論的魔法少女が存在する限り、その輪廻から抜け出すことは不可能だった。
先にも述べたが、最悪の相性なのだ。
やがて絶望に満ちた、災害級魔法少女の思考がひとつの真理にたどり着く。
「それなら、わたしは……」
漆黒の魔力、その奔流が突如として反転し始める。それは、これまでの攻撃的なエネルギーの解放とは異なり、内側へと向かう収束的な流れだった。まるで、ブラックホールが自壊する時のように。
「わたしは、観測されることによって存在し、ロストされることで不安定な存在となる。そうよ、だったらわたし自身が……観測者のいない世界を創り出せばいい」
「何、その自殺願望? 意味ないわ、今のあなたは覚えてないだろうけど、それはもう、わたしが試したから。何度も何度も繰り返し、ね──」
量子論的魔法少女の言葉は、虚空に溶けた。
災害級魔法少女の存在が、この世界から隔絶されていく。彼女は、自らの存在を自分自身で固定化して『観測者』側に回り、量子論的魔法少女を『被観測者』側として固定化しようと試みたのだった。つまり、見よう見まねで『索敵』を行使したのである。魔力は同等であるため、この策が成立する可能性は確かにある。
「わたしをもう見つけないでくれ! これ以上わたしを探さないでくれ!」
災害級魔法少女の黒い絶叫が、光の粒子の群れを包み込む。
すると、量子論的魔法少女の視界は、急速に上書きされていった。彼女の視点は、もはや災害級魔法少女という存在を認識できなくなり、その存在はこの世界のすべての事象から切り離されていく。
「くっ……これは……」
量子論的魔法少女の意識は、混乱に陥った。彼女のパッシブ・スキル『索敵』の効果範囲は多元宇宙に跨がり、一度認識した対象をロストすることなどありえなかった。だが今、絶対的なはずのそのスキルが、災厄から強制的にコントロールされようとしている。巨大勢力の台風自身が気象衛星を支配下に置くようなもので、そんなことは本来は絶対にありえない現象だった。
『索敵』というスキルは、量子論的魔法少女にとって、自身の存在理由そのものである。それが、外敵を絶対に見逃さない、世界の『守護者』たる存在としての矜持だった。
このまま、災害級魔法少女をロストしてしまえば、自らの存在価値に疑念を抱かざるを得なくなってしまう。
「そんなこと、絶対に許さない!」
その言葉も虚しく、量子論的魔法少女の光の粒子は、その輝きを失い、霧散していく。そして、彼女自身の存在を確定させていた『守護者』という役割も、その意味を喪失してしまうのを避けられそうになかった。
暁の渋谷上空に走っていた、幾条ものプラズマは、修復されたかのように消え去っていた。すべての轟音と、光と闇の奔流が、一瞬にして静寂に包まれた。
夜明けのスクランブル交差点に、ぽつんと佇む二人の少女。
一人は、いずれは災害級魔法少女と呼ばれていたであろう少女。彼女は、自分がなぜそこにいるのか、そしてもう一人の少女が誰なのかも思い出せないまま、ただ呆然と立ちつくしていた。
そしてもう一人は、やはりいずれは量子論的魔法少女と呼ばれていたであろう少女。彼女もまた自分がなぜそこにいるのか、そして目の前の少女が誰なのかも思い出せないまま、ただ静かに佇んでいた。
『観測者』と『被観測者』という量子論的宿命によって、かりそめに結びついていたはずの接点とも呼べないような関係性は、今はもう存在しなかった。
夜明けの光が、二人の少女の顔を静かに照らしていく。
しかし、やはり物語はここで終わらない。
二人の少女は無意識のうちに、互いの存在を相互干渉によって再インストールしていた。
言葉を交わすことすらなく、スクランブル交差点内でただそこに立ちつくすだけの行為が、『観測者』と『被観測者』という過去と未来で交わることのなくなったはずの、二人の絶対的な座標を再び固定化させた。
そして、その無意識下での認識が、再び彼女たちを無限の泥沼へと引きずり込もうとしている。
やがて、災害級魔法少女の瞳に、かすかに黒い魔力の光が宿り始める。
同じく、量子論的魔法少女の瞳には、冷たい光の粒子が輝き始める。
自らの存在意義を互いに依存し合う、二人の関係。
終わりなき修羅の螺旋が、再び始まろうとしていた。
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