殺戮的魔法少女 VOl.2
魔法少女たちが、ループしたりバトルしたりします。
各エピソードの世界線は、微妙に繋がっていたりいなかったり。──そんな物語です。
天空一面の星々を揺るがすその咆哮は、莫大な埋蔵量による裡なるマナの恩恵で、夜空を切り裂き、大地を震わせた。
「ねえ、いるんでしょう!? 返事しなさい!! 絶対に追い詰めてやるから!!」
それは、かつての逃げ惑うだけしかできなかった、臆病な少女の叫びではなかった。
自らが背負う呪われた運命を、そして世界そのものの理不尽を打ち砕かんとする、一人の魔法少女の神への宣戦布告。
マナの奔流が、彼女の身体を中心に渦を巻く。
それは、これまでに彼女が無意識のままに吸い上げてきた、無数の魔法少女たちの命の残滓であり、その絶望の叫びの集合体だった。
その力はあまりにも巨大で、おぞましく、そして何よりもこの世界のありとあらゆる法則を、根底から覆す異質なものだった。
何の予兆もなく、いきなり夜空に漆黒の亀裂が走った。
それは、空間の裂け目。次元の歪み。
裂け目の中から現れたのは、光でも、影でもない、純粋な虚無。リナの姿はいつのまにか消えていて、今いる場所が、完全なる別次元であることを、少女は確信する。
虚無の中から、巨大なひとつの姿がゆっくりと顕現していく。
人の姿を象ってはいるが、その禍々しさは、とても人とは呼べなかった。
顔には表情がなく、ただのっぺりとした白い仮面のようで、身体は無数のコードと光の回路が絡み合った、有機的な機械の集合体だった。
その存在こそが、この世界を創り、魔法少女たちをこの救いのない殺戮ゲームに放り込んだ元凶である『ファウンダー(創世の意志)』だった。
世界の各地で、巨人伝説という神話や民話の形を借りて、さまざまな目撃情報が数多く残されている。
「……我らが世界を破壊するのか、我が娘よ」
声は、直接脳裏に響く。それは、男でも女でもない、無機質で冷たい響き。
「娘? ふざけないで!」
少女は、その怒りを、その身に満ちるマナの炎に変換する。
「いったい、どれだけの大切な命を弄んだのか、わかってるの!?」
少女の悲痛な叫びに、『創世の意志』はただ、無感情な答えを返す。
「それは、この世界の摂理である。有限なるマナを巡る、必然の争奪戦だ」
「それが、生命を弄ぶ理由になるっていうの!?」
「理由? 理由など必要ない。我の存在はただ、観測者でしかない」
その言葉に、少女の怒りは頂点に達した。
「観測者? 責任逃れの言葉はやめて」
少女は両の掌に、過去に吸い上げてきた全てのマナを集約させる。
それは無限の生命力だけでなく、絶望、怒り、悲しみ。あらゆる感情が混ざり合った、黒く、そして仄かに光るエネルギーの塊。
その塊は、やがて鋭利な刃となり、少女の手の中で微細な震動を始める。
「この世界は、あんたのおもちゃじゃない!」
少女は、その刃を、『創世の意志』へと向ける。
「終わりにしてやる……この狂ったゲームを!」
『創世の意志』は、少女の様子を、ただ静かに見つめていた。
まるで、親が子供の戯れを見守るかのように。
そして、その白い仮面の下から、無数のコードが触手のように伸び、少女へと襲いかかる。
それは、魔法でも、物理的な攻撃でもない。
この世界の根源的な法則そのもの。
時間、空間、因果律、生命……あらゆる概念を捻じ曲げる、絶対的な力。魔法少女たちが行使していた『魔法』とは、とてもではないが比較にならなかった。
少女の身体に、コードが絡みつく。
痛みはない。だが、マナが、命が、存在そのものが、急速に吸い取られていくのがわかる。
彼女が有する能力は『創世の意志』の力そのものに由来していたことを知り、自分の力が上位の存在における下位互換でしかなかったことを、今更ながらに知った。
まるで、親が子供からおもちゃを取り上げるかのように、少女の力は瞬く間に失われていく。
「……いずれ、おまえは回収するつもりでいた。高次元から溢れ落ちてしまったマナの回収は、そろそろ終わりに近づいていたからな」
『創世の意志』は、無感情に呟く。
「おまえは、我という存在を消去することはできぬ。なぜなら、おまえ自身が、我の創造物だからだ」
その言葉は、少女の胸に冷たい刃となって突き刺さる。
「あんたは……あんたは、わたしの……」
少女の意識が遠のいていく。
その身体からマナの光が急速に失われていく。
このままでは、少女は、これまで殺されてきた魔法少女たちと同じように、朽ち果てていくしかない。
その脳裏に、リナの顔がよぎった。
「……待ってて」
少女の唇が、かすかに動く。
「わたしは……わたしは、この世界の、全ての理不尽を、終わらせるんだ……」
その瞬間だった。少女の身体に、かろうじて残されていたマナが、増殖を開始して再び光を放ち始めた。
有限のはずのマナが増殖することなど、ありえないはずだが、これまで彼女に吸収され、そして消えていった無数の魔法少女たちの思いが、『創世の意志』が生んだ世の理を超えた。
増殖するマナが、少女の身体を媒介として、まるで意思を持っているかのように、『創世の意志』へと激しく逆流していく。その奔流自体が、カウンターのように強烈な攻撃となった。
「これは……ありえない……」
『創世の意志』の仮面が、初めて苦痛に歪んだ、かのように見えた。
「我は、あらゆる次元、あらゆる時空すべての存在を観測し、そして制御している……なぜ、おまえだけは……我の制御下から逃れられるのだ?」
「……言ったでしょ」
少女の顔に、血の気が戻る。
その瞳は、怒りと、そして、悲しいほどに美しい決意に満ちていた。
「……この戦いは、『サバイバル』なんかじゃない!」
少女は、再びその両の掌に、今度は弓矢にも似たエネルギー体を創り出す。
純粋でいて、透明なる光の矢。
それは、生命の光。
彼女が、この世界から略奪してきた全てのマナを、純粋な高エネルギーへと昇華させた、この世界で最も美しく、そして最も根源的な力。神話の時代にまで遡れば、『インドラの矢』を始め、いくつもの呼称が存在していたことがわかる。
「……『革命』、なのよ!!」
少女は、その高エネルギー体を、『創世の意志』に向かって、弓矢のように射出した!
それは、世界をあらゆる理不尽から解放するための、祈りにも似た攻撃。叶うなら、せめて悪意の因果だけでもこの場で断ち切る。それが、魔法少女たち皆の願い。
光の矢が『創世の意志』へと向かうが、その直前で見えない抵抗にあい、幾条ものプラズマが荒れ狂う。
「無駄だ、いかなる外的攻撃も我には届かない」
「届かせる! 言霊が生んだ、『因果の糸』を辿って! わたしを娘と呼んだあんたのミスよ。その強大すぎる力が仇になる!」
この世界のマナは、いずれ枯渇する。
だから、有限のパイを巡る、救いのない争いが続く。
だが、もしその有限なパイが、無限になったとしたら……? 無限には届かなくても、せめてその総量を増やせたら。
どんな結末が待っているのか、少女にはわからない。
それでも彼女は、自らの思いと命を賭して『創世の意志』へ単騎で特攻する。それは、この世界の理不尽を根底から破壊する、『革命』の光だ。
「リナ、リナ! もう一度会って、ちゃんと謝りたかった……」
その言葉を最後に、少女の存在は『創世の意志』と共に消滅した。
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