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5話 人外狩り初陣③

 翔が戦っている間悠は突っ立っていた訳でも壁に突撃した衝撃で目を回していた訳でもない。戦闘術によって感じたことのない感覚が生まれていた。

「体を突き抜けたみたいな感覚だ…」

 結論から述べるのであれば如月戦闘術による影響なのだが、悠はまだこれを知る由はない。悠はただひたすらにこの感覚に慣れることに徹していた。というのも、体のどの部分に気を払っても過剰なほどの力を発揮してしまっていた。1歩踏み出すと15歩進む感覚。既に移動に限った力ではないことは察していた。

「歩こうとしてるだけなのに…制御ができない…」

 能力の切り方を聞かなかったことをひどく後悔したが今はそうもいっていられない。能力を何とか乗りこなして翔へ加勢しなくては。翔を見ればあり得ない速さで攻撃を重ねている。あのレベルに至るのに一体どれだけの苦労を要したのだろうか。

 翔の戦いぶりに息をのんでいると翔がこちらへ飛んできた。

「雷迅1発分だ、お前が埋め合わせるは!真似でもなんでもいいからお前が何とか叩き込め!」

「お、おう!」

 言い切るとすぐさま再び人外のもとへ戻っていった。翔の凄さの真骨頂はここだったのかと思い知らされる。自分が戦っている間も味方へ気を配り続けている。かといって自分を疎かにはしていない。

 最高の戦士ではないか。

「見様見真似か…やってみるか」

 翔の雷迅は短刀での突撃だった。悠は短刀ではないから完全な再現はできない。

「こんな感じか…?」

 手を切る覚悟で刃に手を添える。その持ち方は刀というより薙刀に近い。しかし手が切れることは無い。この持ち方を可能とするのは堕天使のため。

 部屋のおよそ反対側で戦い続ける翔を見る。今も人外の再凝結を防ぐために戦いを続けている。もう翔一人では倒しきれないことは分かっている。だからこそ戦いに交わるのだが。

「雷迅!」

 地面を蹴る。


 ドゴォと大きな音が部屋の対角線上を元として響いた。翔は懐かしさを覚えたが、今はそれどころではないと戦いに意識を戻す。

 おおよそ察していた。雷迅をいきなり使えるはずもない。この技は翔が自作した唯一の技の試作品である。高速で突っ込む特性をそのまま威力に変換する。こう言えばたいしたものではないように感じるだろう。が、そもそもそのスピードを扱うことができる人間のなんと少ないことか。

 翔自身も習得に一年以上の時間をかけたこの技をそう簡単に扱えるはずもない。が、翔は悠がこの技の模倣を選んだことに安堵を覚えた。

「他の技を使いこなせるわけもねぇし…あとはあいつの忍耐次第ってところか…」

 習得の必要はない。悠が1発当てればそれでよい。期待するのはそれだけ。その一発を決めるまでこの人外を足止めると決めた。

「1発でいいから、決めてくれよ…」


 現在時刻 午前4時45分

 人外狩り残り時間 15分


「雷迅ッ」

 5メートルほど離れたところを通過しそのまま壁へと激突。次へ。

「雷迅!」

 足を絡ませて転倒。地面を転がりながら壁へと転げる。次へ。

「雷迅」

 上への蹴りが強すぎたために宙へ投げ出された。天井へ激突した後床へ叩きつけられる。次へ。

 既に10を超えるほどの試し、そのたびに失敗を重ねていた。失敗の度に床に、壁に、天井に叩きつけられる。

 翔の異常性を身をもって体感していた。翔はこれを何度も、あの精度で使っていたのかと驚きと驚嘆していた。翔はこの技ひとつに一体どれだけの時間を費やしたのだろうか。並大抵の努力ではたどり着けない境地であることを理解した。

 この世界で生きていくならば如月家の力を借りなくてはならない。それは悠も翔と共に戦えるようにならなくてはならないことを意味する。翔の信用を得るためにも成功しなくてはならない。次へ。

「雷迅」


 翔は人外と戦いながらも常に悠を見ていた。悠に2発も当てろと言うのはさすがに無理がある。だから悠の1発を決めた瞬間にこちらも最後の雷迅に備えなくてはならない。しかし一向にあたる気配がない。もちろん簡単に当たるとは思っていないのだが、そうは言っても心配なものである。もちろん簡単に当たるとは思ってはいないのだがそれでも心配になるのは仕方がないだろう。悠の1発次第で今回の任務結果が変わるのだから。

 それはそうとして翔も問題があった。少しずつではあるが人外の再凝結の速さが翔の攻撃速度に迫ってきている。もちろん全力を尽くしているのだが、雷迅1発分の余力を残さなくてはならない以上出せる力に限界がある。この制約の中で戦うのは普段とは違う神経を使うため精神的な負担も大きい。

「初心者次第の賭けとか分が悪すぎるってもんだろ…。これしか選択肢がないのが一番癪なんだけどさぁ…」

 いざとなれば少しでも相手の余力を削って次へつなげるつもりなのだが、それでは任務完遂とはならない。今回余力を削ろうとも相手の性質上効果があるのかも分からない。結局のところ悠に賭ける以外の術はなかった。

「頼むから間に合ってくれ…」


 現在時刻 午前4時50分

 人外狩り残り時間 10分


「雷迅」

 この瞬間、悠はひとつの違和感を覚えた。雷迅を打つ度に感情が希薄になるような、そういう感覚。人外狩りは何のためだったのか。心の中にあったあれこれを失っていくような、そんな感覚と共に再び壁へと叩きつけられる。

「雷迅」

 失敗。再び壁に叩きつけられる。情熱が薄れてゆくにつれて痛みも増えていく。もう痛みに対抗するアドレナリンはもう出ない。痛みに悶えながら床へと転がる。悠は立ち上がれなくなっていた。


 翔は悠の動向を常に見ていた。それは出会ったときから。悠がどんな存在であろうと、信用に値するかはこの目で精査するためだ。義理ではあれ紗奈の子供になったのだ。紗奈にもしものことがあってはならない。悠は果たしてそれを共に担う仲間としてよいのか見定めようと考えていたのだ。だからこそ、悠が床へ横たわり起き上がらない。それを許すわけがないのが翔である。

 実のところ翔はこうなる可能性を全く考えていなかったわけでは無い。如月家の力は代償無く使える万能の代物ではない。自分の力の限界すら把握できていない初心者に賭けるのはこの代償との付き合い方を確立できていないから困る。

 翔はこうなったのは翔自身の再配ミスだと自責していた。このまま終えるわけにはいかない。悠にもう一度立ってもらう必要がある。実際のところまだ悠は戦えるのだ。

 人外に一挙に攻撃するやいなやその場を瞬時に離れた。そして、かの堕天使の顔面を蹴り飛ばす。

「堕天使が寝てんじゃねー!」

 翔ももう猶予がない。一縷の希望を託した本任務最後の賭けである。


 現在時刻 午前4時55分

 人外狩り残り時間 5分


 激痛が顔面に走る。痛い。飛ばされながら見えた。翔が悠を蹴り飛ばしている。なぜこんなことをされなくてはならないのか。またしても壁に叩きつけられる。痛い。なぜこんな仕打ちを受けなくてはならない。許さない。

 追い打ちをかけるべく翔はさらに迫ってきている。腹立たしい。その感情と共にふつと恐怖が湧き上がる。殺されるのではないだろうか。

「ふざけんじゃねぇ…ふざけんじゃねえぞ!」

 立ち上がった。このまま殺されるわけにはいくまい。窮地に立たされたネズミは猫さえも噛む。せめての報いを。

 その時翔は物陰へと隠れた。なぜ逃げたのか。逃がすわけがあるまい。刀を構え、全力で地面を蹴った。

 それは障害物さえもたやすく貫く、本気の一撃だった。


 悠が人外に風穴を開けたことを確認して安堵していた。そのまま壁へと突撃し気を失っている。おそらく本人はそれすら気づいていないのだろうが。

「上出来だ」

 人外と素早く距離を取りながら呟いた。

 如月家の戦闘術は代償を支払う必要があるが、長い歴史の中でそれとの付き合い方も見つけられている。戦闘術を身に着けた先人たちは「生命的欲求に訴えよ」などと言ったという。悠への対応もそれに準じたまで。第一、翔は人を殴ったりするような悪趣味は持ってない。

 後で蹴り飛ばしたことを謝ろう、そう思いながら唇を噛みきる。

「雷迅!」

 人外を貫く。完全に霧散させるには十分すぎる攻撃を叩き込んだ。

「午前4時58分、任務目標討伐」

 人外はモヤを悠を限界まで戦わせ、自分の力の限界まで使いようやく手にした結末。しかし、終わりではなかった。

 人外は爆散した。8階を瞬時にモヤで埋め尽くし、それでも勢いは衰えない。廃ビルはもうこの爆発に耐えられるほどの強度を残していなかった。床が、割れる。


 現在時刻 午前4時59分

 人外狩り 終了


 翔は床が割れることに気がついたその瞬間から悠の元へ向かっていた。まだ崩れてはいないから、静かに動けば全く問題がない。もうモヤで視界は失われていたがそれでもおおよその位置は分かるだろう。

「悠!聞こえたら返事しろ!」

 そう叫んだ刹那、剣が目の前を通過した。

「らぁぁッ!」

 右頬を殴られた。声を出したことで場所を把握されたらしい。

「まだあいつ正気に戻ってねぇのか!止めねぇとヤバい!」

 即座に一度居場所を変えた。力が問題なわけでは無い。というかこの程度なら今の翔でも相手できる。それよりも、悠が力を使うことによって払うことになる代償が取り返しのつかないことになる前に止めることが先決である。

 この瞬間モヤが晴れた。人外の出現時間が終わったのだ。悠は左斜め前方にいた。

「落ち着いてくれ!」

 どうやら悠の耳には届いていない。その目には金色の輝きが宿っていた。それを見ると再び焦燥にかられたような表情をして殴りかかってくる。力を余すことなく力振るってくる。勢い任せの攻撃に過ぎないのだが、それを全力で押し付けてくるために翔としても気が抜けない。反撃の機を作り出すこととした。

 悠の攻撃をいなし、後方へと飛ばした。その刹那、後方から殴られる。が、今度は悠の攻撃をした腕をつかみ取り、床へと投げる。悠を止めるには完全に意識を失わせなくてはならない。人外の出したモヤによって割れた床を突き破り、7階、6階、5階を通過し4階で止まった。悠は完全に意識を失った。


 現在時刻5時2分。

 人外狩りは完遂された。


時間かかったけど何とか戦闘シーン書き終わりました!難しすぎる…。

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