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デッドリンク

 異様な静寂の中に、ただひとつ、不快な“音”が漂っていた。


 それは低周波でも高周波でもなく、人の知覚の限界ぎりぎりを這うように揺れ続けるノイズ。

 聞こえるというより、頭の奥を叩かれるような感覚だ。こめかみがじんじんと脈打ち、思考が削られていく。


「……鼓膜じゃなくて、脳にくる。やっぱりこれ、狙ってる」

 篠原が眉をしかめ、ヘルメットの内側で一瞬、音声フィルタを調整した。


「明確に知覚野を攪乱してる。直接的な命令じゃない。けど、行動の“型”を与えてる」

 真鍋がそう言いながら、冷静に現場全体を見渡す。


 その言葉の通りだった。


 発信装置の周囲に立つ住民たちは、誰もがまるで糸で操られる人形のように、不自然な直立姿勢を保っている。

 まばたきもせず、呼吸も浅く、身体を微動だにさせない。

 しかし、立っている位置は明確だった。——発信装置の正面。

 あたかも、そこを“守る”ように。


「盾として配置されてるのか……自発的に?」

 篠原が呟く。


「違う。……動きが人工的すぎる」

 矢吹が断言した。「自律じゃない。外から、あるいは内側に埋め込まれた指令だ」


 高城はひと呼吸おいてから言った。

「ESPを使う。篠原、展開準備」


「了解」

 篠原は小型のケースから、薄型の防音フィールド発生装置を取り出した。


 都市警備局の実証段階にある特殊装備、音響干渉遮断装置。

 Environmental Sound Protection——略してESP。

 超音波や指向性音波による精神干渉を物理的に遮断する、最新の防御ツールだった。


 篠原が床に設置した装置が、かすかに青白い光を放つ。

 内部の制御コアが高速回転を開始し、周囲に揺らぎのような“気配”が生まれる。


 「遮断モード、起動。——沈黙領域、展開」


 その瞬間、

 耳の奥を這っていたノイズが、嘘のように消えた。


 空間が静まり返る。

 あまりにも唐突な“無音”に、隊員たちの五感が一瞬戸惑ったほどだ。


 そして、次の瞬間——。


 発信装置の前に立っていた住民の一人が、ふらりと膝を折った。

 静かにしゃがみ込み、やがて床に手をつく。


 「……反応、出てる。心拍、脳波、どちらも正常値へ回復傾向」

 篠原が端末を確認する。


 他の住民たちも、次第に身体の硬直がほどけるようにして、その場にうずくまったり、壁に寄りかかって座り込んだりしていく。

 表情にはまだ戸惑いが残るが、その瞳には、明らかに「意識」が戻っていた。


 「完全に依存してたな、あの音に」

 真鍋がぽつりと漏らす。


 「奴らを守っていたわけじゃない。“立たされてた”だけだ」

 矢吹が低く続けた。


「装置、沈黙。干渉解除成功。……フィールドはこのまま維持します」

 篠原が報告する。


「よし。中枢に連絡を。住民救助班を呼べ」

 高城が静かに命じる。


 その言葉が終わるころには、かつて狂気の音が支配していた空間には、ただ淡く点滅する青白い光だけが残されていた。


(続く)

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