ep.1 聖域の混乱
森に囲まれ、中心には大樹がそびえる場所――聖域
幻想的で、天国のように美しいと称されるその地で、今、混乱が起きていた。
「聖導師様がいない?」
「賢者様もいないと……」
報告に来た森の精は、守人の言葉に静かに頷いた。
「攫われたのか……」
「聖導師様を攫うなど聖域を敵に回したようなもの……」
「あのマナという森の精も協力者であったか」
「すぐに助け出さねばなりません。奴を呼びましょう」
一人の守人がそう告げた瞬間、どこからともなく鎧姿の男が現れた。
彼の歩む足跡には光の花が咲き、淡く輝きながら霧のように消えていく。
「守人様。すでに準備は整っております」
男は膝をつき、深く頭を垂れた。
周囲の森の精たちは、その姿に怯えたように身をすくめていた。
「ガーディアンよ、よく来てくれた。緊急事態だ。すぐにでも奴らの後を追い、聖導師様を奪還せよ」
「……御意」
返答はそれだけだった。
拒むという概念が存在しないかのように。
ガーディアン――
聖域の守護者。
聖域唯一の影の存在である。
聖導師直属の護り人にして、守人の命を受けて動く戦士。
一人でありながら、幾千の年月を生き、聖域を外敵から守り続けてきた。
その眼差しには、一切の情がない。
「ガーディアン、すべてお主の判断に任せる。必要であれば、制圧を許可する」
「はっ」
ガーディアンは深くお辞儀をし、その場を後にした。
その背を追うように、光の花がまたひとつ咲き、静かに消えた。
その花は祝福ではなく、追跡の印だった。
誰の逃走も許さない光が、闇の中へ消えていった。




