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光に咲くは、忘却の花  作者: いがらしつきみ
第一章:聖域
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ep.5 森の外へ

 森の中は不気味なほど静かであった。

 木々のさざめく音だけがきこえる。


「全く何も起きませんね」


 イゼルがぼそりとつぶやいた。


「マナ様は森の声を聞くようにと言っていましたが、何か聞こえますか」


 ネリーはしばらく沈黙した後、静かに首を横に振った。


「………何もきこえないです」

「そうですか………もう少し進んだら何か起こるかもしれませんね」


 三人はただ静かにまっすぐ道を進んでいった。


「そういえば、外に出た後のことについて少し計画を立てておきたいのですが」


 ネリーとアシェルもそのことについては賛成であった。


「そうですね。アシェルの正体は外では隠さないといけないし、どうしましょうか」

「一つの案として、私はあなた方の師匠としましょう。私は外の世界では勇者の仲間として知名度がかなりあります。私の弟子ということであれば私とともにいても不自然ではないでしょう」


 イゼルの提案に二人は頷いた。


「そうしましょう」

「ありがとうございます。ネリー」


 ネリーは目を見開いていた。

 突然名前を呼ばれたことに驚いたようであった。

 イゼルは特に気にすることなく微笑んでいた。


「これからはネリーとアシェルと呼ばせていただきます。共に旅をするのですから硬くなりすぎず、楽しく旅をしていきましょう」

「わかりました」

「素直ですね。聖域の人たちはお堅い人ばかりなのかと思っていました」


 ネリーは不服そうな反応であったが、イゼルの提案は妥当であると判断して承諾をしたようだ。


 しばらく他愛もない話をしていると、突如風が強くなり、木々のさざめきが大きくなった。




 ―――アシェル、ネリー待ってちょうだい


 ふと後ろから女性の呼ぶ声が聞こえた。

 その声は遠くからこちらに近づいてきている。

 マナの声に似ており何か忘れたのかとアシェルが振り向こうとしたところ、横にいるイゼルに顔を掴まれ引き寄せられた。


「これがマナ様が言っていた森の惑わしかもしれませんね。私が聖域に来るときもこのような惑わしがありました」

「そういえば、イゼル様はよく聖域にたどり着けましたね」


 ネリーも怖くなったのかアシェル達の方へ寄ってきた。


「行きは道案内の森の精がいらっしゃいました。その人の案内で何とか来ることはできましたが………ネリーあなたも森の精なら何とかできませんか」

「私はまだ森の精の中では未熟なのよ。森の試練を受ける前に惑わしの森に入ったもんだから練習もなく本番にきちゃってるのよ」

「それは心配ですね。アシェルもなんとかならないのですか?」


 アシェルはうーんと唸ることしかできなかった。


「えー………今はあなた方二人が頼りなのに………私はここのこと詳しくないのですよ〜」


 イゼルは子供のように文句を垂れていた。


「と、とりあえず先に進みましょう。走ればここから早く抜け出せるわ」


 ネリーはまっすぐ先を指さした。


「力技でいくしかありませんね」


 イゼルも吹っ切れたようだ。

 三人は猛ダッシュでその場を駆け抜けた。

 後ろからついてきていたマナの声はだんだんと遠くなり、ついには聞こえなくなった。


 しばらくして三人は息を整えるため岩に腰掛け休憩を取った。


 かすかにだが、先ほどとは違う子供の笑うような声がアシェルの耳に付くようになった。


「ねぇ、何か聞こえない?」

「声とはさっきの声ではなくてですか?」


 アシェルが尋ねるとイゼルは首を傾げていたが、ネリーは大きく何度も頷いていた。


「アシェルもやっぱり聞こえるの?なんだか次は気味が悪いわ。この先に進むにつれてどんどんその声が大きくなっていくの」

「まぁ、そうは言ってもこの先に進まなければいけないですからね。私たちは今、後ろも振り向けませんしこの道からそれることもできないのです。マナ様の言葉を信じるしかありません」


 アシェルたちは頷いた。


「ところでさ、気のせいかな?なんだかあたりが白くなってきた気がするんだけど………」


 アシェルはイゼル達に問いかけたがすぐに答えが返ってこなかった。

 不思議に思い、横を見ると先ほどまで二人がいた場所に二人の姿はなかった。


「まずい………これがマナが言っていた霧か」


 すでにあたりは白い霧で覆われており、どこからきたのか、進むべき道がどこなのかわからないほどであった。


 ―――まずいこのままだとこの森の惑わしでここから永遠に出られなくなる。それは嫌だ。なんとかしないと


 アシェルは今自分ができる魔法を使った。

 火の玉を作り出し放ったが霧の中に吸い込まれていくだけであった。


「少しの灯りになると思ったのにな………」


 大気中の水分を吸い取り、水の玉を作り出したが途方に暮れる作業だと悟りやめることにした。


 ―――あとは………


 アシェルは自身の手を見た。


 ―――先に行く道がわずかにでもわかればいいんだ


 アシェルは手を合わせ、大樹に祈りを捧げる時と同じポーズをとった。


 ―――うまくいってくれ………!イゼルとネリーに会いたい。あの二人も同じような状況のはずだ。救い出してここから出ないと


 アシェルは深く集中した。

 しばらくするとアシェルの手元が光り始めた。


 ―――うまくいった………!


 光は大きく広がり、あたりの霧を一瞬で晴らした。


「あっ!いた!」


 ネリーの声が聞こえ、横を振り向くと二人の姿があった。


「お二人とも安心してる暇はありません!また霧が私たちの方へ向かってきています。まずはここから逃げますよ」


 イゼルはネリーとアシェルの手を取りその場を駆け出した。


「あ!あそこ、光が!森から出られるわ」


 ネリーが指差した先には外につながる光があった。

 三人はそこ目がけて一直線に駆け抜けていった。


 しかし普段から全力疾走をすることがないため、足がもつれ、顔面から地面に突っ込むことになってしまった。


「いった!」


 アシェルは痛みを我慢しながらも、寝返りをうつと綺麗な星空が見えた。


「外に出たの?」


 横を見るとイゼルが寝転がりながらニコリと笑っていた。


「無事に外に出られたようです。………よっこらしょ」


 イゼルが立ち上がったため、ネリーとアシェルも後に続いた。


「ほら見てください広大な土地が見えるでしょう?」


 イゼルが指差す方は暗くてあまり見えないが、しかし聖域とは違い、先の見えない広大な土地が広がっていることがわかった。


「あの高くとがっているのは?」

「あれは山です。あそこには人は住んでいますしその先にもたくさんの人が生活をしています。とりあえず今日は近くの街で宿でも探して休みましょうか」


 イゼルの言葉に二人は素直に頷き、先行くイゼルの後をついて行った。

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