ep.5 魔族ダレク
レイヴたちと別れたアシェルたちは王室の前にやってきた。
大きな扉の向こうからは黒い靄が溢れ出している。
「……この先、何が起こるかわかりません。エルディ様は私たちのそばを離れないでください」
イゼルは真剣な表情で扉に手をかけた。
扉が大きく軋みながら、ゆっくりと開いていく。
王室内には黒い靄が立ち込めていた。
靄の原因を目で追うと視線は自然と玉座に移る。
そこには項垂れたレクスの姿があった。
その瞳は開いているのに、何も映していない。
まるで魂が抜け落ちたようだった。
そしてその頭上には黒い靄の発信源であろう黒い球が、黒い石を中心にして渦を巻いていた。
レクスの足元には力無く倒れる女王とシリウスの姿があった。
「ああ……これは一体……!女王陛下!」
エルディが一歩前へ踏み出した、その瞬間――
「危ない!!」
イゼルが急いでエルディの服を引くと、すぐに防御壁を張った。
防御壁は弾かれるようなバチッという音を立てた。
地面には小さな裂け目ができていた。
当たっていれば、エルディの体は真っ二つになっていたであろう。
「おやぁ……まさか、あそこから逃げ出すとは」
玉座の後ろから姿を現したのはダレクであった。
「儀式はあと少しなのです。邪魔はしないでいただきたい」
その言葉にイゼルは眉を潜めた。
「儀式……?」
「ふむ、儀式は半分以上進んでいますからな……最期に知っておくといい。――あなた方が何を止められなかったのかを」
ダレクは両手を広げた。
「半分以上……?一体何を」
イゼルの警戒した様子にダレクがニヤリと笑った。
「それは、この世界に大きな歪みを起こす儀式ですよ。魔界の門が開かぬなら、この世界にヒビを入れてしまえばいい。しかし、そのためには国の王となるほどの器の贄が必要なのです。本来は神の力を継承した者が良かったのですが、神の領域に魔族が侵入することはかなり難しい……」
ダレクはレクスの肩に手を置いた。
レクスは全く反応せず、ただ虚ろな瞳で俯いていた。
「ノクシェルド国は一つの神を崇拝する国ではないですが、この国の王族は火の神と水の神に認められた巫女ルードの子孫。人の血で継承されてきた神の力を持つ王族さえ手に入れば同等と考えたのですよ……」
そう言いながら、ダレクは手を移動させ、レクスの頭に手を置いた。
「レクス王子はとてもいい駒となってくださいました。本当、壊すのが惜しいほどに……我々のこの苦労を無駄にしないためにもあなた方にはこの場を去っていただきたいのです」
そしてダレクは視線をアシェルに向けた。
「しかし、そこの聖導師は置いて……」
「それを受け入れると、本気で思っているのですか?」
イゼルはアシェルを庇うように立ち塞がっていた。
「まぁ……そうですな。ならば……」
ダレクが女王とシリウスの頭に手を置くと、二人はゆっくりと立ち上がった。
「さぁ、お二人ともあなた方の国を脅かす存在ですよ。あの者たちを排除なさい」
ダレクはそう言うと二人に剣を持たせた。




