ep.4 自分の守るべきもの
アシェルたちは王室へ向かって走っていた。
道を塞ぐ兵士たちはノルドとレイヴによって次々と倒されていく。
「相手が私であろうと戦いを挑んでくるとは……」
「この兵士たちは操られているのでしょう。急いで元凶のもとへ向かいましょう」
イゼルの言葉にノルドは頷き、先を急いだ。
そして王室への階段の前までやってくると突如、先頭を走っていたイゼルが止まった。
「師匠?どうしたの?」
アシェルが尋ねたが、イゼルは無言で前を見つめていた。
「ふふふ、気配を完全に消していたはずなのに、もうここでわかるのか……」
アシェルたちの頭上から声が聞こえた。
上を向こうとした瞬間――重く禍々しい気配がアシェルの体にのしかかった。
これは以前、ロラミィと対峙したときに感じた魔族の気配に似ていた。
(まさか、本当に魔族が……)
上を向くとそこには人影があった。
顔まではよく見えないが、大きな黒い翼を広げ、ゆっくりと降下している。
そしてその姿が目に入ったとき、イゼルは息を呑んだ。
「ドレイン……そうか、その姿を見る限り、ついに魔物となったか」
イゼルがそう呟くと、ドレインは大きく笑った。
「ははは!まさか、私をまだドレインだと思っているのか?違うよ。私はヴァルクレアだ」
その言葉にアシェルとイゼルは驚いた。
ドレインの姿をしたヴァルクレアはその様子を楽しむかのように、不敵な笑みを浮かべていた。
「信じられないんだろ?前の器を捨てて、ついに私はドレインの身体を手に入れたんだよ。まだドレインの意志が邪魔をして完全には馴染めていないけど……まぁ、ダレクが面白いことをしているからね」
ヴァルクレアの言葉に反応するように、エルディが前に出た。
「やはり、ダレクは魔族の手先だったのか」
ヴァルクレアはその反応を楽しむかのように舌なめずりをした。
「ダレクは魔王様に仕える、“終禍の徒”の一人。もう少しでこの国も堕とせるとか言ってたから、茶化しにきたけど……まさかあなたたちもきているとはね。この手柄は私がいただいても文句はないだろうな……」
ヴァルクレアはそう言うとアシェルを見た。
アシェルが警戒して構え、戦闘態勢をとるとレイヴが前に出た。
「アシェルたちは先に行ってくれ。ここは俺一人で食い止める」
「いえ、レイヴ一人で残して行くことはできません。私たちも残ります」
イゼルはすかさずそう言ったが、レイヴは首を横に振った。
「それじゃあ、この国が先に魔族にやられちまうだろ!俺のことは気にするな!すぐに追いかける!」
レイヴはイゼルをまっすぐ見据えた。
イゼルが首を横に振り、再び口を開こうとしたところで、ノルドがイゼルの肩を叩いた。
「レイヴのことは私にお任せ下さい。イゼル殿たちは先に進み、女王陛下と王子たちを助け出してください。私が道を切り開きます」
ノルドは有無を言わさず、前に出るとヴァルクレアに構えの姿勢をとった。
「なんだ?私の相手はそこの坊やと……お前か?まぁ、肩慣らしにお前たちを殺してこの体の養分にするのもいいかもな」
ヴァルクレアはそう言い、舌なめずりをするとノルドに向かって飛び出した。
ノルドはヴァルクレアの足蹴りをよけると、間髪入れずに懐に向かって剣を振った。
ヴァルクレアの体は吹き飛ばされ、壁に激突した。
「今のうちに!王室へ!!」
ノルドの言葉にアシェルたちは先を急いだ。
アシェルたちが去り、ノルドとレイヴだけになった。
「……ふふふ、すごい。ただの人間にこんな力があるだなんて。……あと、そこの坊やも今思い出したよ。宿屋を襲った時にいた少年か……面白くなりそうだね」
ヴァルクレアは瓦礫を払いのけ、その姿を現した。
全く攻撃を受けていないような余裕のある表情を浮かべていた。
「おっちゃんの力がなくても俺はこいつと戦える。前に一度戦ってるからな」
レイヴがそう言うと、ノルドは笑った。
レイヴは不満の表情を向けると、ノルドはレイヴの頭を撫でた。
「ここでお前を一人にしたら、俺は天国でグランに顔向けできないんでな。お前はトルメリアの希望だ。なんでも一人で抱え込むな」
レイヴはその言葉に複雑な表情をした。
「俺たちは故郷を失った。戦士でありながら、守るべきものを守れなかった……」
ノルドの表情は悔しさを噛み締めるようであった。
「だからこそだ。今は先を見るんだ。トルメリアのようなことをもう二度と繰り返さないために。……今、俺たちにはそれぞれ守るべき者がいるだろ?」
「……ああ」
「守るべきものを守るため、俺たちは生きる必要がある。自身の身を危険に晒す無鉄砲さは守るべきものも守れなくなるぞ。再び失う後悔をお前はしたくないだろ」
レイヴの脳裏にトルメリアの惨劇が思い出された。
「……ああ、そうだな。俺は失わない。もう誰も――」
レイヴは目をつむり、深呼吸をした。
「……おっちゃん、早くこいつ倒して俺たちも王室に急ごうぜ」
「はは、そうだな。大丈夫だ、お前は俺が必ず守る」
「なら、おっちゃんのことは俺が必ず守る!」
レイヴとノルドは互いに白い歯を見せて笑った。
「ふふふ、もう馴れ合いはいいか?――じゃあ、壊してあげよう」
ヴァルクレアは戦闘態勢に入り、レイヴたちに向かって飛び込んできた。




