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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第十一章:王宮クーデター編 ― 崩れる均衡
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ep.4 自分の守るべきもの

 アシェルたちは王室へ向かって走っていた。

 道を塞ぐ兵士たちはノルドとレイヴによって次々と倒されていく。


「相手が私であろうと戦いを挑んでくるとは……」

「この兵士たちは操られているのでしょう。急いで元凶のもとへ向かいましょう」


 イゼルの言葉にノルドは頷き、先を急いだ。

 そして王室への階段の前までやってくると突如、先頭を走っていたイゼルが止まった。


「師匠?どうしたの?」


 アシェルが尋ねたが、イゼルは無言で前を見つめていた。


「ふふふ、気配を完全に消していたはずなのに、もうここでわかるのか……」


 アシェルたちの頭上から声が聞こえた。

 上を向こうとした瞬間――重く禍々しい気配がアシェルの体にのしかかった。

 これは以前、ロラミィと対峙したときに感じた魔族の気配に似ていた。


(まさか、本当に魔族が……)


 上を向くとそこには人影があった。

 顔まではよく見えないが、大きな黒い翼を広げ、ゆっくりと降下している。


 そしてその姿が目に入ったとき、イゼルは息を呑んだ。


「ドレイン……そうか、その姿を見る限り、ついに魔物となったか」


 イゼルがそう呟くと、ドレインは大きく笑った。

 

「ははは!まさか、私をまだドレインだと思っているのか?違うよ。私はヴァルクレアだ」


 その言葉にアシェルとイゼルは驚いた。

 ドレインの姿をしたヴァルクレアはその様子を楽しむかのように、不敵な笑みを浮かべていた。


「信じられないんだろ?前の器を捨てて、ついに私はドレインの身体を手に入れたんだよ。まだドレインの意志が邪魔をして完全には馴染めていないけど……まぁ、ダレクが面白いことをしているからね」


 ヴァルクレアの言葉に反応するように、エルディが前に出た。


「やはり、ダレクは魔族の手先だったのか」


 ヴァルクレアはその反応を楽しむかのように舌なめずりをした。


「ダレクは魔王様に仕える、“終禍の徒”の一人。もう少しでこの国も堕とせるとか言ってたから、茶化しにきたけど……まさかあなたたちもきているとはね。この手柄は私がいただいても文句はないだろうな……」


 ヴァルクレアはそう言うとアシェルを見た。

 アシェルが警戒して構え、戦闘態勢をとるとレイヴが前に出た。


「アシェルたちは先に行ってくれ。ここは俺一人で食い止める」

「いえ、レイヴ一人で残して行くことはできません。私たちも残ります」


 イゼルはすかさずそう言ったが、レイヴは首を横に振った。


「それじゃあ、この国が先に魔族にやられちまうだろ!俺のことは気にするな!すぐに追いかける!」

 

 レイヴはイゼルをまっすぐ見据えた。

 イゼルが首を横に振り、再び口を開こうとしたところで、ノルドがイゼルの肩を叩いた。


「レイヴのことは私にお任せ下さい。イゼル殿たちは先に進み、女王陛下と王子たちを助け出してください。私が道を切り開きます」


 ノルドは有無を言わさず、前に出るとヴァルクレアに構えの姿勢をとった。


「なんだ?私の相手はそこの坊やと……お前か?まぁ、肩慣らしにお前たちを殺してこの体の養分にするのもいいかもな」


 ヴァルクレアはそう言い、舌なめずりをするとノルドに向かって飛び出した。


 ノルドはヴァルクレアの足蹴りをよけると、間髪入れずに懐に向かって剣を振った。

 ヴァルクレアの体は吹き飛ばされ、壁に激突した。


「今のうちに!王室へ!!」


 ノルドの言葉にアシェルたちは先を急いだ。

 アシェルたちが去り、ノルドとレイヴだけになった。


「……ふふふ、すごい。ただの人間にこんな力があるだなんて。……あと、そこの坊やも今思い出したよ。宿屋を襲った時にいた少年か……面白くなりそうだね」


 ヴァルクレアは瓦礫を払いのけ、その姿を現した。

 全く攻撃を受けていないような余裕のある表情を浮かべていた。


「おっちゃんの力がなくても俺はこいつと戦える。前に一度戦ってるからな」


 レイヴがそう言うと、ノルドは笑った。

 レイヴは不満の表情を向けると、ノルドはレイヴの頭を撫でた。


「ここでお前を一人にしたら、俺は天国でグランに顔向けできないんでな。お前はトルメリアの希望だ。なんでも一人で抱え込むな」


 レイヴはその言葉に複雑な表情をした。


「俺たちは故郷を失った。戦士でありながら、守るべきものを守れなかった……」


 ノルドの表情は悔しさを噛み締めるようであった。


「だからこそだ。今は先を見るんだ。トルメリアのようなことをもう二度と繰り返さないために。……今、俺たちにはそれぞれ守るべき者がいるだろ?」

「……ああ」

「守るべきものを守るため、俺たちは生きる必要がある。自身の身を危険に晒す無鉄砲さは守るべきものも守れなくなるぞ。再び失う後悔をお前はしたくないだろ」


 レイヴの脳裏にトルメリアの惨劇が思い出された。


「……ああ、そうだな。俺は失わない。もう誰も――」


 レイヴは目をつむり、深呼吸をした。


「……おっちゃん、早くこいつ倒して俺たちも王室に急ごうぜ」

「はは、そうだな。大丈夫だ、お前は俺が必ず守る」

「なら、おっちゃんのことは俺が必ず守る!」


 レイヴとノルドは互いに白い歯を見せて笑った。


「ふふふ、もう馴れ合いはいいか?――じゃあ、壊してあげよう」


 ヴァルクレアは戦闘態勢に入り、レイヴたちに向かって飛び込んできた。

 

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