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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第十章:ノクシェルド国編
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ep.5 月明かりの会話

「このような場面を見せてしまって大変申し訳ありません……私は先に部屋に戻らせていただきます。明日、改めてお話ししましょう」


 女王はフラフラと席を立つと、シリウスの支えを借り、部屋へ戻って行った。

 アシェルたちはその後ろ姿を見つめていることしかできなかった。


「なんていうか、すげぇ複雑な家族なんだな……」


 レイヴは呆気に取られたように口を開けていた。


「ええ、そうですね。家庭の問題はあの方たちに任せましょう。私たちはこの国に潜む魔族を探しましょう」

「なんだ、もう魔族が潜んでるってわかったのか?」

「私が、ではないですがね。アシェルが気づいたようです」


 イゼルはそう言うとアシェルを見た。


「僕も確かではないけど……レクス王子の近くにいたお付きの人から嫌な気配がしたんだ」

「嫌な気配って魔族の気配ってことか?」


 レイヴの言葉にアシェルは「うーん」と唸ることしかできなかった。

 

「とりあえずは、明日に備えましょう。女王にアシェルが感じたことを言うのは……状況を見てからで。変に混乱を招くことはしたくないので」


 イゼルの言葉に一同は頷き、話を終えると冷めた料理を口にした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ベッドについてどれほど経ったかアシェルは寝付けずにいた。


「だめだ……」


 アシェルは体を起こすとあたりを見回した。

 イゼルとレイヴは完全に眠りについていた。

 アシェルはゆっくりとベッドから抜け出し、二人を起こさないようにと静かに扉を閉めると、眠気を追い払うように、廊下を彷徨った。

 じっとしていると、夕食で見た光景が頭から離れないのだ。


 中庭にやってくると噴水のあたりを月明かりが照らしていた。


 アシェルはその神秘的な雰囲気に吸い付けられるように噴水に近づいた。

 すると、ベンチに座る人影を見つけた。

 アシェルは好奇心を抑えきれず、茂みに姿を隠しながらそっと近づいていくと、それはベンチに座る女王の姿であった。

 アシェルの心臓は一瞬にして飛び跳ねた。


(これ気づかれたらまずいよな……)


 気づかれないようにそっと引き返そうとしたが、茂みに手が触れ、葉がカサリと鳴った。


「誰かいるの!?」


 女王の瞳に射抜かれ、喉がひゅっと鳴った。


(しまった。最悪だ……)


 アシェルはその場に固まってしまった。


「ああ……あなたね」


 女王は一瞬、驚きを見せたものの、微笑むとアシェルを手招きした。

 アシェルは躊躇しながらも歩みを進め、女王の前までやってくると、女王は自分の隣に座るよう、ベンチの空いた場所を軽く叩いた。


 アシェルは恐る恐る座ると、女王は正面を向いた。


「……私の秘密の時間、見つかっちゃったわね……ここはとても落ち着くの。あなたもそう思ってくれたらとても嬉しいわ」


 女王はアシェルを見て微笑んだ。


「……確かにここは落ち着きますね。静かで、それに……美しいです」


 アシェルは夜空を見て呟いた。

 その様子を女王は静かに見つめていた。


「……あなた、とても落ち着いた子なのね。こんなこと言っていいのか分からないけど、なんだか懐かしいような……そう、昔一度だけ出会った聖導師様の雰囲気に似ているわ」


 アシェルはその言葉にドキリとし、思わず女王の顔を見た。


「……ふふ、あの偉大な賢者殿のお弟子さんなんだものそう感じてしまうだけかしらね。あなたの名前は確かアシェルといったわね」


 アシェルは頷いた。


「レクスとシリウスとは同い年くらいかしら?あの二人は双子でね。今日の出来事からは想像できないかもしれないけど、昔はかなり仲が良かったの」


 女王は懐かしむように微笑んでいた。

 その姿は、一国の女王というよりも、あの二人の母親として存在する女性であった。


「だけど、大きくなって互いにやることが増えたからかしら、あまり話さなくなってしまって……今日の食事で見たでしょう?……あのようにぶつかり合いが増えて」

「あの……レクス王子が出て行った時に扉の前にいた人は誰ですか?」

「ダレクのことかしら?彼は一年前くらいからレクスの側近になったの。……彼から何か感じるのかしら?」


 女王はわずかに表情を歪めてアシェルを見た。

 アシェルは感じたことを言っていいのか分からず、言葉を詰まらせていると、女王はわずかに表情を緩めた。


「そこまで思い詰めなくても大丈夫よ。私もそれで決めつけるつもりはないから。ただ、あなたが思ったことを聞いてみたいだけなの」


 女王は柔らかな表情を浮かべていたが、その奥には一国を背負う者特有の重みをアシェルは感じ取っていた。

 今ここで女王が求めていることを言えないようであれば、城から出されイゼルたちにも迷惑がかかるのではないかとアシェルは悩みながらも、覚悟を決めて女王を見た。


「実はわずかにですが、ダレクさんから周りとは違う……うまく言えないけれど、息苦しいような、歪みのような気を感じて……僕も自分のこの感覚が合っているのかは分からないのですが、一目見た時にそう感じました」


 その言葉に女王は少し驚いたように目を見開き、考え込むように沈黙した。


 女王は何も言わず、ただ一度だけ目を伏せた。

 それだけで、アシェルは「女王も同じ違和感を抱いている」と悟った。

 次にアシェルの顔を見た時、その表情からは先ほど感じた威圧感は無くなっていた。


「……そう、賢者のお弟子さんってすごいのね……一国の責任者として、このことはすぐに信じるわけにはいかないけれど、あなたがそう感じた、という事実は覚えておくわ。第三者の目は時にとても大切だから」

「いや、僕にも確証が……」

「実は、私とシリウスも決定的な証拠は何もないのだけれど……説明できない違和感だけが、ずっと胸に残っていたの。だけど、こうして第三者目線を聞いてよかったわ。彼の周囲をもう少し注意して見ることにするわ」


 女王は微笑んだ。


「近く、王位に関わる重要な儀があるの。その前に、何もなければいいのだけれど……」


 ひんやりとした夜風が、二人の間を静かに駆け抜けていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その先、中庭の柱の影でその様子を見つめる人物がいた。


「女王と賢者の弟子の少年が密会……これは、レクス様にお伝えしなければなりませんな」


 影の者は胸元の赤い徽章を指で撫で、くすりと笑うと、その姿を闇に溶け込ませていった。

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