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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第十章:ノクシェルド国編
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ep.4 亀裂

 客室でしばらく休んでいると、やがて夕食の時刻となり、アシェルたちを使用人が呼びに来た。


「時間となりましたので、食堂へご案内いたします」


 使用人の案内に従ってアシェルたちは移動した。


「はぁぁ、広ぇなぁ。飯食うだけなのにこんなに歩かなくちゃいけねぇのか。王族って大変だな」

「レイヴ、あんたはちゃんとテーブルマナーは覚えてるの?」

「完璧だぜ!暇な時間にイゼルさんから教わったからな」


 レイヴの自信満々な様子にネリーは疑わしげな目を向けた。


「そこまで心配しなくても大丈夫ですよネリー。初めこそレイヴも苦戦していましたが、最後はちゃんとできていましたし」


 イゼルはにこりと微笑み、レイヴのフォローに回った。

 ネリーは渋々と頷くことしかできなかった。


「到着しました」


 使用人の声に一同は背筋を伸ばし、前を見た。

 大きな扉が開かれると、長い食卓の先に女王ともう一人――


 女王と同じ銀髪の青い服の少年が座っていた。

 

 少年はイゼルたちの話を聞いていたのか、礼儀正しくお辞儀をした。


「初めまして。私はノクシェルド国第二王子のシリウスと申します」


 それに対し、イゼルをはじめ、アシェルたちも挨拶をした。

 一通り挨拶をし終えるとシリウスはイゼルを見た。


「賢者イゼル殿のお噂はかねがね伺っております」


 シリウスの表情がほのかに明るくなった。


「私の噂なんて、ろくなもんじゃないでしょう」

「いえ、そんなことありません。エルヴァレンの賢者としてどんな魔法も扱える類稀な才能を持って生まれた大賢者と……。しかし、そのようなお方がなぜ今旅をしていらっしゃるのですか?」


 シリウスは不思議そうな様子で質問をした。

 シリウスの視線は柔らかいが、その奥は鋭かった。


(この少年は全てを察している……)


 イゼルはそう悟った。


「実は、今は弟子たちの修行中でして……」

「戦士のお弟子さんもお持ちなのですか?」


 シリウスは驚いた様子でレイヴを見た。


「レイヴは仲間のロシュベルから預かった弟子です。世界を知り、心を育てるために同行させています」


 シリウスは納得したように頷いていた。


「そうなのですか、時期が合えば私もお供したかったです……」


 冗談か本当かわからないシリウスの言葉にイゼルは微笑み、そして女王を見た。


「シリウス様はとても向上心が高いお方なのですね」


 イゼルの言葉に女王が頷いた。


「ええ、昔からイゼル殿に憧れていて……」

「は、母上やめてください……!」


 シリウスは顔を赤らめ、下を向いた。

 その様子は一国の王子というよりは一人の少年のような印象であった。


 しばらく他愛のない話が続いていたが、女王がふと時計を見つめてため息をついた。


「レクスはまだかしらね……」

「今日は家族で食事をするという予定があります。それに、イゼル殿がいらしていることは知っているはずです。……客人を待たせるなんてどこまで堕落すれば……」


 シリウスの眼光が鋭くなり、怒りを押し殺した声でつぶやいた。


「イゼル殿、レクスには後日ご挨拶をさせます。今日は申し訳ございませんが……」


 シリウスが謝罪の言葉を述べようとしたのと同時に、突如、食堂の扉が大きな音を立てて開いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そこに現れたのは、茶髪に赤い服を着た、シリウスとは対照的に快活そうな少年だった。


「申し訳ありません。少し準備に時間がかかってしまいました」


 少年は悪びれた様子もなく堂々と食堂に入り、そしてアシェルたちに謝罪をすると、自身の席へついた。


「よく遅れてきてそんなに堂々としていられるな、レクス」

「なんだシリウス。さっき謝ったではないか。謝る者の非を詰めることは上に立つものとしてどうなのだろうな?」


 レクスとシリウスの間に緊張が走り、その一瞬で女王がイゼルに目配せをした。


――『見て』と、言外に告げるように。


 イゼルは静かに頷くと、二人の様子に不自然なところがないかじっとその様子を見つめていた。

 

 アシェルもイゼルを真似るように、二人に視線を向けた。

 特に魔族の気配といった不自然な気配はない。

 やはり、これはノクシェルドの王族の問題かと思っていたところで女王が口を開いた。


「おやめなさい二人とも。客人の前ですよ」


 その一声で二人は言い争いをやめ、食卓へ向いた。

 しかし、レクスは食事をしながらも、視線はイゼルに向いていた。


「……それで本日はなぜ、賢者イゼル殿がいらしたのでしょうか?家族と食事の話は聞いていましたが……本当に突然の来訪ですね」


 レクスの言葉には棘があった。

 表情には出ていないが、その雰囲気はイゼルたちが邪魔であるということを語っていた。


「お前はその傲慢な態度をどうにかしたらどうだ?失礼にも程があるぞ」


 シリウスがレクスを再び睨みつけた。


「お前はイゼル殿が好きだからな。……この時期に母上が賢者殿の来訪を許可したことも、不自然に思えますね。シリウスの王位継承の後押しですか?」


 レクスは嘲笑するように、シリウスと女王を見た。


「レクス!なぜそのようなことを……!そんなはずないでしょう」


 女王は声を荒げ、怒りにほんのりと頬を赤らめていた。

 レクスは動じることなく目を細め、その様子を冷たい視線で睨みつけていた。


「はぁ、俺はもう食事はいいです。ごちそうさまでした」


 レクスはそう言い、席を立った。


「おい、レクス!!」


 レクスはシリウスの声に反応することなく、扉に向かって行った。

 レクスが扉に手を伸ばすまもなく、自然と扉が開き、身なりの綺麗な老人が姿を現した。

 

「おや、レクス様お食事は終わりですかな?」

「ああ、待たせたなダレク。ここにいても息が詰まるだけだ」


 レクスはそう言い、先に食堂を出て行ってしまった。

 ダレクはその姿を追いながら、女王に笑みを向けた。

 

「それでは女王陛下、シリウス殿下、私もここで失礼させていただきます」


 ダレクは深々と頭を下げ、そして去り際にアシェルたちを観察するようにちらりと視線を上げた。

 視線がぶつかった瞬間、アシェルはぞくりと身を震わせた。


「師匠、あの人なんか嫌な気配がする……そんな気が」


 イゼルにしか聞こえないような小さな声で囁くと、イゼルは頷いた。


 食堂に静寂がやってきた。

 女王は項垂れるように顔に手を置き、ため息をついた。


 食堂に残されたのは、冷めかけた料理と、沈黙だけだった。

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