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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第十章:ノクシェルド国編
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ep.3 心配事

 城内は白い壁に囲まれ、噴水の置かれた中庭を横目に、アシェルたちは王室へと向かった。


 王室に続く階段を登ると大きな絵画が飾られていた。

 炎と水の絵の中心に、まるでそれらを支配するかのように一人の女性の姿が描かれている。

 相反する力が一つに束ねられている、不思議な構図だった。


 アシェルが興味深く見つめていると、ノルドが近づいてきた。


「この絵に描かれているのはノクシェルドを守った巫女、そしてこの国の建国の祖です」

「この炎と水の絵は?」

「この国を建てた巫女は火の神と水の神の声を聞く巫女でした。二柱の力を借り、ルゥナイアとザラマントの争いを収めたのです」

「なるほど……」


 アシェルはその絵をじっと見つめていた。


「ちょうど今代替わりの時期でして、二人の王子殿下、どちらが王になるのかで城内も慌ただしくなっております」


 ノルドは一瞬歯切れの悪そうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。


「さぁ、女王陛下のもとに急ぎましょう」


 そして、再び案内を始めた。


 一際大きな扉の前に立つと、ノルドは後ろを振り向き、アシェルたちに止まるよう指示した。


「しばし、お待ちください。女王陛下にあなた方のことを説明してきます」


 ノルドはそう言うと先に部屋に入り、アシェルたちはしばらくその場で待っていた。


「なんて言うか、本当に急ね……絶対めんどくさいことになる気しかしないわ」


 ネリーは人に聞こえるか聞こえないかほどの小さな声でつぶやいた。


 すぐにノルドは現れ、そして部屋に入るようアシェルたちを促した。


 中央の王座に座る女性は長い銀髪を上に束ね、キリッとした瞳でアシェルたちを見ていた。


「ようこそ、ノクシェルドへお越しくださいました。ノルドから話は聞きました」


 女王はそう言うとにこりと微笑み、イゼルを見た。


「まさか、イゼル殿がお越しくださるとは思ってもいませんでした。旅の途中、突然このような場にお呼びして申し訳ありません」


 女王はそう言い、軽く頭を下げた。


「いえ、私たちは魔族に襲われているところをノクシェルドの兵に助けていただきました。この感謝の意はノクシェルド女王陛下にもお伝えしたいと思っておりました」


 イゼルはそう言い、ノルドを見た。 

 ノルドは毅然とした態度で首を横に振った。


「魔族に襲われている者を助けるのは一国の兵としては当たり前のことです。旅の者でも我が国では我らがお守りするのがノクシェルド兵の心得でございます」


 ノルドの言葉に女王は微笑み、頷いた。

 そして、真剣な表情でイゼルを見た。

 

「……実はイゼル殿にご相談がありまして……あなたは魔族や魔術のことなどにお詳しいでしょうか?」


 イゼルは少し間を置いてから口を開いた。


「……私が知るのは、この世界で知られている一般知識と私が見聞きしてきたものですね」


 女王はイゼルの言葉を聞くと、しばらく考え込むように沈黙した。


「お恥ずかしながら、私は魔族に関してそこまでの知識を持ち合わせておらず……不躾なお願いではありますが、あなたのお力をお借りしたいのです」


 女王はイゼルの瞳をまっすぐ見据えた。

 イゼルが頷くと、女王はゆっくりと口を開いた。


「実は、ここ最近この国で魔物被害が絶えないのです。そして今回は魔族が現れ、あなた方が襲われていた……。なぜかわからないのですが、私には魔物たちがこの国に集まってきている気がするのです……」


 女王は下を向き、眉をひそめた。


「一部兵の様子がおかしいこと、そして私の息子レクスまでも……あのような子ではなかったのに、気づいた時には人が変わったようになってしまって……」


 女王の声が、ほんのわずかに震えた。


「女王陛下、外部の者にそこまでは……」


 ノルドの言葉に女王はハッとしたように反応し、秘密を隠すように咳払いをすると、再び毅然とした態度に戻った。


「……イゼル殿にお聞きしたいのは、魔族の力に人を操る力はないのかということです」


 イゼルはしばらく考え込んだ後、首を横に振った。


「私は見たことがありません。魔族の力は未知ですからね。しかし、そういった魔族が存在する可能性はあります。……もしかして、そのような魔族が今、この国に……?」


 イゼルの言葉に女王が言葉を詰まらせていると、ノルドが口を開いた。


「……我々も確信を持っているわけではありません。しかし、魔物の目撃情報を踏まえて、今回の王位継承の混乱に乗じてそういった混乱の種が我が国に近づいてきているのではないかと考えています」


 ノルドは一呼吸おき、そして女王を見た。

 女王が小さく頷くと、ノルドは意を決したようにイゼルを見て、再び話し始めた。


「一年前に来た第一王子レクス様の側近を中心に支持者が突然増えたこと、そしてその様子に不自然さを感じること……」


 ノルドの説明にイゼルは頷いていた。

 そして話が途切れると、女王は立ち上がり、ゆっくりとイゼルの前へやってきた。


「イゼル殿、我が国の問題に巻き込んでしまうのは大変申し訳ないのですが、一度その様子を見ていただいてもよろしいでしょうか?今日は我が息子レクスとシリウスを交えて夕食を共にします。そこで何もわからないようでしたら魔族の手の危険性はないということ、我々王族の問題です。どうかそれまで、お力をお貸しください……」


 女王は深々と頭を下げた。


「……女王陛下、お顔をお上げください。魔族の脅威の可能性が少しでも感じるのであれば、我々は惜しまず手をお貸しします。それで魔族の脅威でないと分かれば、私たちにとってもノクシェルド国にとっても、安心材料になります。エルヴァレンの賢者として、魔の手から人々を守るのは当然のことです」


 イゼルの言葉に女王とノルドは顔を輝かせた。


 その後、アシェルたちはしばらく城に滞在することとなり、夕食まで客室で静かに待つこととなった。

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