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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第十章:ノクシェルド国編
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ep.1 力不足の実感

 人の話し声が聞こえ、アシェルの意識はしだいに覚醒していった。

 目を開け、辺りを見回すと優しい眼差しでこちらを見つめる老婆と目があった。


「おや、よかった。目が覚めたようだね」


 老婆はアシェルに近づき、様子を確かめるようにアシェルの体をくまなく見ていた。

 その後、後ろに控えている兵に合図するかのように目線を送ると兵士は敬礼し、その場を去って行った。


 アシェルがその様子をぼうっと見つめていると、老婆が横からアシェルの視界に入ってきた。


「あんた、記憶はあるかね?魔族に襲われているあんたとそのお仲間さんをノルド騎士団長が助けてくださったそうだよ。覚えてるかい?」


 アシェルは首を横に振った。

 アシェルの記憶に残っているのはロラミィの見えない攻撃にやられた瞬間だけである。


(そうか……僕あの時、魔族にやられたのか……)


 アシェルはロラミィの攻撃の糸口が全くわからず、なすすべもなくやられてしまったことを思い出し、自身の未熟さに胸が締め付けられた。


 アリスティアやゴルヴァンテで守護神に聖導師と認められ、自信がつき始めた矢先、オルフェンや魔族との遭遇。

 圧倒的な力の差に、その自信も簡単に挫かれてしまった。


 横を向くとイゼルとネリーがベッドに横たわっていた。

 二人ともまだ目を覚ましていないようであった。


(師匠までやられたのか……)


 アシェルは唇を噛み、拳を握った。

 ふと、レイヴの姿が見えないことに気づき、辺りを見回していると、老婆が再びアシェルの視界に入ってきた。


「あんたの仲間、一人は回復が早くて庭で剣を振ってるよ。……そこの二人はまだ目を覚ましていない。……もう少しで騎士団長もいらっしゃるから、これでも飲んでゆっくりしなされ」


 そう言い、老婆は温かいミルクが入ったカップをアシェルに差し出した。

 

「ありがとうございます……」


 アシェルはお礼を言い、一口飲んだ。


「ちなみにここはどこですか?」

「ここはノクシェルドだよ。ノクシェルド兵の休憩所。騎士団長が魔族のことで話を聞きたいらしくてね。……そうだね、あんた外にいるお仲間さんを呼んできてくれないかね。私は最近、膝が痛くてね」


 老婆はそう言い、膝をさすっていた。

 アシェルは頷き、ミルクを一気に飲み干すとカップを机に置き、外に出た。

   

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 外に出ると日差しが目に染みた。

 庭は小さく、すぐにレイヴを見つけることができた。


 アシェルは声をかけようとしたが、すぐに口をつぐんだ。

 レイヴはいつもは見せないような真剣な表情で剣を振り、アシェルの存在にはまったく気づいていないようであった。


「やぁ、レイヴ。もう大丈夫なの?」

「……あ、アシェル、目ぇ覚ましたのか!俺は全然大丈夫!丈夫だからな!」


 レイヴはにっと口角を上げたが、目は完全には笑っていなかった。

 

「僕たちを助けてくれた騎士団長が会いに来るそうなんだ。そろそろ戻ろう」


 レイヴはその言葉を聞くと一瞬空虚な表情をし、そしてアシェルから顔を背けると、空を見上げた。


「俺さ……魔族相手に何もできなかった。守るって言いながらさ、あいつの攻撃一つも見えてなくて、気づいたら気を失ってた」


 レイヴは息を吐いた。


「俺の今までのやり方ってダメなのかもって思っちまった。師匠に言われてたことだ……。ちゃんと師匠の言うこと聞いてれば、こんなことにならなかったのかもな」


 レイヴは困ったように笑い、アシェルに顔を向けた。

  

「……って、アシェルに言ったって意味ねぇよなぁ。俺らしくもねぇし、悪い!これは独り言だから忘れてくれ!」


 レイヴはそう言い、アシェルの肩を叩くと休憩所へ戻って行った。

 その後ろ姿にアシェルは呼びかけた。


「僕も同じだよ。実は、自分の力を過信してたんだ。魔族と戦って、自分もまだなんだって落ち込んだ……。うまく言えないけどさ……お互いにまだ未熟なんだ。だから、悩んでることはこうやって相談しよう!僕たちは仲間なんだから」


 レイヴはしばらくその場に立ち止まっていた。

 そして、振り返ると白い歯を出してニッと笑った。


「ありがとな。アシェル!」


 レイヴはいつもの元気な様子に戻ったように見えた。

 アシェルはホッと息を吐き、レイヴと共に休憩所へ戻って行った。

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