ep.4 敗北
ロラミィにはアシェルの魔法もレイヴの物理攻撃も効かない。
魔法は防御壁で塞がれ、レイヴの攻撃は穴の中に潜られ避けられてしまう。
「ああ!くそ!」
レイヴは地面を蹴った。
「ひひひ、子犬は伏せですよぉぉ」
頭に響くロラミィの声と共に、レイヴは突如正面から殴られたようにのけ反り、血を吐くとその場に倒れ込んだ。
「レイヴ!」
ネリーがレイヴに駆け寄ろうとしたが、後ろに現れたロラミィに気づき、足を止めた。
地面から出たロラミィを逃すまいと、結界を展開し、動きを封じたがロラミィは驚く様子もなく不気味に笑っていた。
「ほほぅ、防御壁で私を囲み、閉じ込めたつもりですかなぁ?赤子の技同然」
ロラミィは指をパチンと弾くと、ネリーの結界に小さなヒビが入った。
そのヒビは徐々に広がり、脆いガラスのように崩れていった。
「うそ……っ!?」
気づけばロラミィはネリーとアシェルの目の前に現れていた。
ロラミィの攻撃はどこからきているのか、アシェルたちにはまったくわからず、なすすべがなかった。
突然、お腹に鋭く重い一撃が入ったかと思うと、視界が歪み、そのまま意識は途切れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「オルフェン。こちらは終わりましたよぉ。あなたも早く終わらせてしまいなさいぃ」
「ああ」
イゼルと交戦中のオルフェンは視線だけをロラミィに向けた。
イゼルは息を切らしながらも、視線だけは自然とオルフェンの向く方へ引かれた。
「アシェル……!」
イゼルは地面に倒れるアシェルたちの姿に驚きを隠せずにいた。
しかし、目を離せばすぐにオルフェンは攻撃を仕掛けてくる。
イゼルはオルフェンに視線を戻し、戦いに集中した。
(私も限界が近い……極大魔法を使って隙ができたところでアシェルたちを回収するしか……!)
イゼルの額から汗が流れる。
イゼルが乱れる息を整え、構えた瞬間オルフェンはロラミィを再び見た。
「ロラミィ、イゼルの動きを塞げ。あっちにはもう、対抗する力はほぼない」
「無茶なことを言いますなぁ」
ロラミィは文句を言いながらも、イゼルに攻撃を仕掛けた。
しかし、ロラミィの見えない攻撃はイゼルの防御壁で簡単に弾かれた。
「ひひひ、限界が近いとはいえ、五百年前にいたエルヴァレンの大賢者の生まれ変わりと言われるだけありますねぇ。私の魔法など効くはずもない……あなたがなんとかしてくださいぃ」
オルフェンはロラミィの話が終わる前にイゼルに向かって走り出した。
それに対し、イゼルにはもう迷いはなかった。
「……ルクス・スティグマ」
オルフェンとロラミィに光の針が目に見えぬ速さで向かっていく。
対処する暇もなく、ロラミィとオルフェンの体には光の針が刺さった。
「……なんだこれは、痛くも痒くもないな」
オルフェンはそう言い、体に刺さった光の針を抜いた。
「賢者も疲れているのですなぁ」
ロラミィの言葉通りであった。
イゼルは今の魔法で全ての魔力を使い果たしていた。
(私もこれ以上は……あとは効いてくれるのを願うしか……)
極大魔法を使いすぎた代償にイゼルの身体は鉛のように重く、目は薄く伏せられていた。
ロラミィがイゼルに手を伸ばすと、イゼルは抵抗することもなく、血を吐きその場に倒れた。
オルフェンはイゼルが全く動かなくなったことを確認すると剣を鞘に戻した。
「終わったな……早くここを離れよう」
そう言い、オルフェンは遠くを眺めた。
オルフェンたちがいる場所からは小さくではあるが、集団で押し寄せる黒い影があった。
それは地面に響く、重々しい騒音を鳴らしながらオルフェンたちの場所へ向かっていた。
「遅かったようですなぁ」
「ノクシェルドの兵か……」
遠くからは兵の軍団がやってきていた。
オルフェンは再び剣を鞘から抜いた。
その瞬間、突如オルフェンの体から力が抜け、地面に膝をついた。
「くそっ!?なんだ……これは」
ロラミィも同じように項垂れていた。
「あの賢者の最後の光の力でしょうなぁ。いっぱい食わされましたなぁ……」
「聖導師だけでも……!」
オルフェンは前に歩き出そうとしたが、体の力は自分の意思に反して自然と抜けていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そこの者!魔族だな!」
ノクシェルドの兵はオルフェンたちを囲み、退路をなくした。
「ひひひ……オルフェン、一度撤退ですなぁ……今の我らには人間に対抗する力もないぃ」
「……っ!」
ロラミィはオルフェンの返事を聞かず、黒い穴を開き、二人は音もなく姿を現した。
「騎士団長、逃してもよろしいのですか……?」
「いい。……あれは、まさか勇者オルフェン……?」
「は?」
「いやなんでもない。それよりそこの怪我人の保護が最優先だ」
ノクシェルドの兵は地面に倒れるアシェルたちを回収し、その場を後にした。




