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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第八章:再訪
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ep.4 力の代償

 夜は深い闇に沈んでいた。

 アシェルは人肌ほどのお湯で、旅の汚れを落としていた。


 背中の奥がじんわりと熱を帯び、湯に触れるたびにそこだけ鋭く疼いた。


 ふと、壁にかけられた鏡に視線が止まり、そのまま背中を映した。


「はぁ」


 背中には、二つの花のような紋様が刻まれていた。

 どれだけ擦っても消える気配はない。


(……たぶん、守護神から力をもらった時の跡だよな)


 アシェルは指でそっとなぞりながら、ため息をついた。


「アシェル!まだか!?」


 レイヴの声が響く。

 思ったより長湯してしまったらしい。


「今出るよ」


 湯を上がり、着替えてレイヴと交代で部屋に戻ると、イゼルが椅子に腰かけて、本を読んでいた。


「どうでしたか? お湯加減は」

「ぬるかったかな……少し寒いよ」


 イゼルは苦笑しながら本を閉じる。


「温泉がある街もありますから、通りかかったら寄りましょうね。ゆっくりできますし」


 イゼルは穏やかな表情でそう言ったあと、ふっと表情を引き締めた。

 

「ところで、アシェル。風の試練の場で……何かありましたか?」


 まっすぐ見つめてくる眼差しに、アシェルはドキリとした。

 イゼルにはまだ光の子のことを話していない。


「あ、実は……ゴルヴァンテで大樹の根に触れた時から、光に包まれた子供が見えるようになったんだ」

「大樹の根?光の子供?」


 イゼルが眉を寄せる。


 アシェルは、神殿の奥に大樹の根があったことや光の子のことをイゼルに話す覚悟を決めた。


「実は、神殿の先には大樹の根があるんだ。でも、瘴気にやられて黒く萎れていて……祝福を与えると戻るんだけど」


 イゼルはゆっくりと頷いた。


「その瞬間、意識が光の世界に引き込まれるんだ。そこにあの光の子供がいる。何も話さないけど……」


 アシェルが話し終えると、イゼルはひとり思案するように目を伏せた。


「……大樹の化身? それとも未来の勇者……? 声を使わずとも伝わる存在。大樹に関わるものには、そういった性質があるのでしょうか……。何かは断言できませんが、害は与えてこないのですよね?」

「うん」

「なら、まだ大丈夫ですかね」


 その「まだ」という言葉が、アシェルの胸に重く落ちる。


「……まだ?」


 アシェルが問い返すと、イゼルは真剣な眼差しを向けた。


「まだ憶測にすぎませんが……私は、アシェルの体が祝福の力に耐えきれないのではないかと感じています」


 アシェルの心臓が強く跳ねた。


「いや、決めつけるつもりはありません。ただ、聖導師の力は、本来“人ではない器”に与えられるものです。アシェルは半分とはいえ、人の体を持つ。その身体が、祝福の負荷にいつまで耐えられるのか……それが、気がかりなのです」


「じゃあ……どうすればいいの?」


 アシェルの声がかすかに震える。

 イゼルはゆっくりと首を振った。


「……すみません。あくまで私の考えです。まだそうと決まったわけではありません。不安にさせてしまいましたね。ただ、どんな小さな異変でも……必ず私に知らせてください」


 アシェルは不安を抱えながらも、小さく頷いた。


 その時、湯から上がったレイヴが戻ってきた。


「よーし、寝るか!」


 三人はそれぞれのベッドに潜り込み、やがて深い眠りへと落ちていった。

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