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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第八章:再訪
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ep.3 風の噂

 アシェルとイゼルは塔の下で待っていたリエルと合流し、そのままアリスティアへと戻った。

 街に入ると、妙なざわめきが広がっていた。


「何かあったの?」


 リエルが近くの男に声をかけると、男は手にしていた新聞を広げて見せた。


「ドラヴァーン国に黒龍が出たそうです。それを、継承者ルミオ様が討伐なさったとか」


 男は興奮気味にまくしたてた。


「黒龍?」


 アシェルがリエルを見ると、リエルは新聞から顔を上げた。


「最近、各地で噂になっていた話よ。どこからともなく現れる最上級魔物の黒龍が、村や街を襲っては消えるっていう話。魔界から来たんじゃないかって言われてるけど……聖導師様の封印があるし、封印に問題はないってエルヴァレンの賢者たちは言ってたのよね。……まぁ、でも討伐されたのなら一安心ね」


 リエルにとっては脅威が去った朗報だったのだろう。

 しかしアシェルの胸には、封印が弱まっているのではないかという不安が広がっていた。


(最上級……その黒龍が現れるほど、世界の歪みは広がっているのだろうか)


「なんだよ、このルミオってやつ。顔が見えねぇな」


 声をかけてきたのはレイヴだった。

 後ろから新聞の写真を覗き込む。


 そこにはアシェルと同じ年頃の少年がいた。

 だが顔の半分以上は兜に覆われており、その表情は読み取れない。


「仕方ないわ。ドラヴァーン国は魔物が蔓延る土地だもの。毎日が緊張状態って言われているわ。重装備をしていなきゃ、いつ命を落としてもおかしくない。――それにしても、私と変わらない歳で黒龍を倒すなんて。噂通りね」

「噂?」


 アシェルが訊くと、リエルは少し肩をすくめた。


「素顔を見た人はほとんどいないの。でも、魔界の脅威に一人で立ち向かうドラヴァーン国の英雄だって話よ。戦う者は皆、彼に憧れるわ。……ただ、ドラヴァーン国は聖域との関係が悪いからね。そこが、なんだか残念」


 リエルは眉をひそめた。


「そんな奴がいるのか、オレも戦ってみてぇな」


 レイヴが無邪気に笑うと、すかさずネリーが後ろから襟首をつかんだ。


「ちょっと、あんたはまず自分の足元見なさい!」

「いててててっ!?引っ張るなって!」


 耳を引っ張られ、引きずられていくレイヴを見て、アシェルは苦笑した。

 そして同時に、レイヴには自分とルミオの関係をまだ話していなかったことを、改めて思い出す。


 遠くでネリーが何か説明しているのが聞こえる。

 レイヴが目を丸くして驚いているのが、アシェルの目にも入った。


――どうやら、今、ルミオがアシェルの弟であることを知らされたらしい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


――テオラ王への報告も終わり、その日の夜。


 宿の一角で、四人は夕食を囲みながら今後について話し合っていた。


「アリスティア、ゴルヴァンテ。二つの試練を乗り越えました。あとは、水の国ルゥナイアと、火の国ザラマントだけですね」


イゼルがまとめるように言う。


「そのあとはどうするんだ?」


 肉を頬張りながら、レイヴが首を傾げた。


「そのあとは、アシェルのお父上がいるドラヴァーン国に向かいましょう。ここまでくれば、私たちもかなり力をつけています。ドラヴァーン国周辺にいる魔物にも、ある程度は対処できるはずです」


 イゼルはアシェルの方を見て、やわらかく微笑んだ。

 その時、ネリーが深刻そうな顔で手を挙げた。


「ネリー?どうかしましたか?」

「次に行く場所自体には何も文句はないの……。だけど、私が心配してるのは“聖域”の動きが全く見えないこと」

「……確かに。ここまで来ても、聖域側から何の反応もありませんね」


 イゼルが小さく頷く。ネリーはさらに続けた。


「今の時点でアシェルがいないことに気づいてないなんて、そんなわけないわ。ガーディアンが動き出しているかもしれない……」

「ガーディアン……」


 三人が顔を曇らせる中、レイヴだけは状況が掴めていないようで、首を傾げた。




「なんだよ。遭遇したら迎え撃つだけじゃないのか?」

「ばかね……。ガーディアンの強さは、そこらの戦士の比じゃないのよ!何百年も生きてるし、目的のためならどんな手段も使う。レイヴもガーディアン志望してるなら、それくらい知っておきなさい」


「お、おい、なんだよ急に説教かよ!?」


 レイヴはネリーの剣幕に押されて仰け反った。


「ねぇ、レイヴ……あなた本当にガーディアンになりたいの?ガーディアンには“心”がないのよ。私たち森の精は聖域で共に暮らしていても、彼の存在が怖い……」


「オレは心を失わない」


 レイヴは即座に言い切った。


「……っ!そんなの、目指してるうちはどうとでも言えるわ」


 ネリーがさらに言い募ろうとしたが、イゼルが静かに制した。


「お二人とも、とりあえず話を戻してもよろしいですか?」


 イゼルが、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。

 ネリーとレイヴが顔を見合わせ、渋々頷く。


「聖域の動きも気になりますが……ひとまず、こちらの旅路を優先しましょう。明日の朝にアリスティアを出発します。南にノクシェルドという国がありますので、そこで一泊しましょう。その後、いよいよ水の国ルゥナイアへ向かいます」


 イゼルの提案に、三人はそれぞれ頷いた。


「では、今日はもう休みましょう」


 イゼルが立ち上がる。

 アシェルたちも席を立ち、それぞれの部屋へ戻っていった。

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