表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第八章:再訪
40/58

ep.2 違和感

 大きな燭台を挟み、その中央には緑の玉がふわりと浮かんでいた。


 雲ひとつない青空の下、遥か眼下にはアリスティアの街並みが小さく見えるだけで、玉以外には何もない。


 アシェルは恐る恐るその玉に手を触れた。


 瞬間、強風が吹き荒れ、塔の上に竜巻が生まれる。

以前、巻き込まれないことを知っていたアシェルは、そのまま上を見上げた。


 やがて風が輪郭を持ち、人の形になり――

 アリシエルの瞳が開いた。


「ふぅん……前よりずいぶんマシになったわね。それに、あなた……自分でも気づいてないでしょうけど、“本来そこにあるはずのない光”を抱えているわね……」


 姿を現したアリシエルはアシェルをじっと見てそう言った。

 

「再びここに来たのは、力を求めてのことでしょう?」


 アシェルはその言葉に頷いた。

 

「わかってるわ。ゴルヴァンの場所から、あなたの成長は見えていたもの――それに、大樹があなたを求めているのを今は感じる。だから、私の“風の力”を与えるわ」


 返事をする間もなく、アリシエルは手の中に緑の光を生み出し、アシェルへと放った。


「ぐっ……!」


 背中が灼けるように熱くなり、アシェルは膝をついた。


「アシェル!?」


 イゼルが抱きとめる。

 アリシエルは静かに指を後ろへ向けた。


「後ろの円形の台に乗りなさい。……岩の守護神の神殿でも見たでしょう?下には大樹の根があるの。だけど、今は闇の力が邪魔して、私の力は直接大樹には届かない」


 アリシエルの後ろには、塔の下に行けるであろう手すりのついた円形の乗り物があった。

 アシェルはイゼルに支えられながら、その台に向かった。


「行けるのは“聖導師”だけよ。あなたはここまで」


 アリシエルはイゼルを指差し、そして「ここ」と言うように下を指差した。

 イゼルは頷き、アシェルの肩を離した。


「アシェル、大丈夫ですか?」

「……うん、大丈夫。すぐ戻るよ」


 アシェルは笑ったが、額には汗が滲んでいた。


 台に乗ると、そのままゆっくりと下降を始めた。

 青白く光る壁だけが続き、時間の感覚が曖昧になっていく。


 やがて、壁に大樹の根が絡まりはじめた。


――ゴウン


 低い音とともに台が止まり、アシェルは塔の最下層へ降り立った。

 目の前には先に続く道があった。


 少し進むと、地面には黒く萎れた大樹の根が張り巡らされていた。

 ゴルヴァンテと同じように大きな根が黒い靄を出して、黒く萎れていた。


 アシェルが手をかざし、祝福の力を注ぐと、根から黒い靄が消え、そして生気を取り戻していくように淡い光を灯し始めた。


 その瞬間――


 細い根がアシェルに向かって伸びてきた。


「わっ……!」


 避けようと身を反らしたが、根はアシェルへ伸び続け――

 視界が突然、真っ白に染まった。


 目の前にはゴルヴァンテで見たのと同じ白い空間が広がっていた。

 そしてアシェルの胸元がふわりと光り、そこから小さな光が形をとった。


 光の子供は、アシェルを見ると嬉しそうに揺れた。

 声はない。ただ、胸の奥に直接触れてくるような“感覚”だけがある。


「……ねえ、君は誰なの?」


 子供は首を傾げた。言葉はやはり持たない。


「ここは……大樹の中、なんだよね?」


 光の子は、ふわりと頷く。


「じゃあ……どうして、僕の中に入ったの……?」


 その問いには反応しなかった。

 ただ、アシェルの胸元へ手を伸ばすように揺れた。


 そこで、意識がふっと途切れた。


 目の前には光を取り戻した大樹の根。

 立ち上がろうとすると、体に根が絡みついていた。


「もう……やめてよ……」


 アシェルは軽く根を払うと立ち上がった。

 しかし、突然、眩暈がし下を俯くと地面に血が溢れた。


「えっ……?」


 顔をぬぐい、どこから血が出ているのか確かめると、鼻からだった。

 出ていたのはその一瞬だけのようで、血はすでに止まっていた。


 そして、アシェルは再び円形の乗り物に乗り、上を目指した。

 イゼルのもとにたどり着くと、イゼルは驚いたようにアシェルの顔を見ていた。


「アシェル!鼻に血が……何があったんです?」


 アシェルは笑って首を振った。


「ううん、ちょっと出ただけ。大丈夫だよ」


 アシェルは顔をゴシゴシと拭った。

 イゼルは安堵しつつも、どこか疑わしげにアシェルを見た。


 その時、アリシエルの声が響いた。


「無事に力を届けたわね。……でも一つ忠告しておくわ」


 アリシエルの声が風に溶ける。

 その声は、先程より冷たかった。


「その“祝福”は、本来“人の器”が扱う力じゃない。……その姿のままでは、長くはもたないわ」


 アシェルは息を呑んだ。

 背中に冷たいものが流れた。


「限界がきたとき、覚悟を決めなさい……聖導師」


 そう告げると、アリシエルは風の中に消えていった。


 アシェルは意味がわからず動揺したが、イゼルに肩を叩かれ我に返った。


「帰りましょう、アシェル」


 イゼルの言葉に頷き、アシェルはアリスティアに帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ