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光に咲くは、忘却の花  作者: いがらしつきみ
第一章:聖域
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ep.3 旅への決意

 

「貴方様の気持ちが決まりましたらまた私に話しかけてください。私はここに2週間ほどいる予定です」


 イゼルはそう言った。

 時間は有限だ。そのためアシェルがゆっくりとしている時間はなかった。

 それが枷になったのか魔法の特訓にも集中ができず、満足がいく結果は出なかった。


 外に出たい気持ちとそうすることをよしとしない自分がせめぎ合っているのだ。

 そのことばかりを考え、そして気づけばイゼルの滞在が残り3日となっていた。


 その日の夜は一人でゆっくりとできる時間があった。


 アシェルはゆったり椅子に座り、そしてイゼルの言葉を頭の中で反芻していた。

 白い天井を見つめ、自分が確実に後悔しない道は何か、それはわからないが………


「後悔しないようにしないと………」


 アシェルは決意を固めた。

 この旅は何か自分を変える旅になるかもしれない。


 イゼルについていってもうまくいくかはわからないが、イゼルはアシェルの家族のことを知っていた。

 ずっと会いたいと思っていた家族に会える可能性があるのであれば、アシェルはイゼルについていくことを選択しようと思ったのである。


「よし」


 アシェルは立ち上がり、誰にも気づかれないようにとそっとドアを開けた。


「どこにいくの?」


 突然の声にどきりとし、振り向くとそこにはネリーとマナがいた。


「ネ、ネリー、マナ何でここにいるの?」


 アシェルはぎこちなさを出さないようにと笑顔を浮かべていたが、それが逆に不自然さを大きく見せていた。


「あのイゼルっていう賢者のもとに向かおうとしているでしょ?だめよ、もっとよく考えて」


 ネリーはアシェルの行く手を阻むように前に出た。


「もう時間がないんだ。これを逃したら僕は一生ここから出られない」

「ほら!そういう、正常な判断ができないのが一番危ないのよ。別にそれでもいいでしょ?この世界の外に出るより、ここにいた方が安全なのよ」

「そうじゃないんだよ。自分でも変に焦ってるのはわかる。だけどこれは家族に一生会えなくなることへの焦りなんだ。約束する。母さんを助け出したらすぐに戻るから」

「それがどれくらい………」


 ネリーが言葉を発する前にマナが制した。


「ネリー、アシェルも落ち着きなさい」


 その言葉にヒートアップした二人は、一度気持ちを落ち着けることができた。

 2人はマナを見て一呼吸を置いた。


「廊下で話してると守人様に見つかるかもしれないわ。部屋に入りましょう」


 マナはそっと部屋を指さした。

 アシェルはこの時、マナがすぐに反対しないことを不思議に思ったのであった。

 マナは話を聞こうとしてくれている。


 このチャンスを逃すわけにはいかなかった。


 3人は部屋の中に入り、長椅子に座った。

 最初に口をきったのはマナであった。


「それでアシェル、あなたは聖域から出たいわけね」


 マナは責めるわけでもなく、優しくアシェルに問いかけた。

 アシェルはまっすぐマナを見つめその問いに頷いた。


「そう………私は立場的にあなたを止めなければならない。だけどあなたの想いをきかせてほしいの。私は森の精であるとともに、私情ながらあなたのことを家族の様に大切にしたい存在でもあるの」


 アシェルはマナの言葉に胸がじんわりと温かくなるのを感じた。


「マナありがとう。………僕はあの賢者イゼルさんと旅がしたい。もちろん僕が聖導師としてしなければいけないことはわかってる。だけどここにいても、僕はいつまでたっても聖導師としての力は身につけられない気がするんだ。イゼルさんの言葉を聞いて思ったんだ。僕は世界を知らないといけない」


 マナはじっとアシェルを見つめ、そして優しく頷いた。


「そう………貴方はそう思うのね。そう思うのであれば私は貴方を止めないわ」


 ネリーは驚いたようにマナを見た。


「お母さん?」

「私は聖導師様の意思はこの世界のためになると思っているの。もちろんこの世界の理を乱すことは許されないことだけど、でもアシェルの言葉を信じてあげたい。私も家族をもっているからかしらね。貴方が家族を大切にする気持ちがわかるの」


 マナは立ち上がりアシェルのもとまで行くと、その頬を優しく包み込みじっと見つめた。

 それは愛おしいものを見るような眼差しであった。


「だけど………そんなこと守人様が許すはずがないわ。アシェルが外に出たらそのあとはどうするのよ………」


 ネリーは下を見て拳を握った。

 マナはネリーの方へゆっくりと顔を向けた。


「ネリー。貴方はそんなこと気にする必要はないわ。私がここに残るから、あなたにはアシェルをお願いしたいの」


 ネリーはゆっくりと顔を上げた。


「お母さんだけが残るの?」

「大丈夫よ心配しないで。私は前聖導師様から仕えているの。守人様にもうまく理由を説明するわ。こう見えても私できるほうなんだから」


 マナはにこりと微笑んだ。

 そして不安そうにするネリーのもとに行き、優しく抱擁した。


「私は前聖導師様にご恩があるの。私の考えを変えてくれたお方のためになりたい。だけどごめんねネリー、お母さんはここで聖域を守らなければならないの。あなたに託してしまうことにはなるけど使命にまだ目覚めていないあなたなら外でアシェルを支えていくことができると思うの。お願いしてもいいかしら?」


 ネリーはマナの胸で唇を噛みしめ、そしてゆっくりと頷いた。

 マナはゆっくりとネリーを離すと窓の外へ目を向けた。


「そこにいらっしゃるお方?満足のいくお言葉が聞けたのではありませんか?」


 マナが何を言っているのかわからずアシェルとネリーは顔を見合わせた。


「ばれていましたか?」


 窓の外からイゼルが姿を現した。


「全く一週間ほど前からそこに潜み始めたときは聖域からつまみ出そうかと思いましたよ」

「いや~失敬。まさかばれているとは思いませんでした」

「幸いなことに私しか気づいていませんでしたよ。さすが勇者様のお仲間ですね」


 イゼルはマナの言葉に照れたような仕草をした。


「お褒めの言葉ありがとうございます。聖導師様がいつまでたっても答えを出さないため心配していたのです」

「聖導師様が行くと言わなかった場合、どうするおつもりだったのですか?」


 マナはイゼルの反応を楽しむかのように質問をした。

 イゼルは顎に手をおき、考えるような素振りをしたあと、


「そうですね、そしたら諦めて一人で仲間集めの旅に出ていたかもしれません」


 そう言いイゼルは浮遊しながら部屋の中まで入ってきた。


「それは意外ですね。私はてっきり攫ってでも連れて行くのかと思って警戒していましたのに」

「そこまで倫理観は欠如していませんよ」


 イゼルは笑い、そしてアシェル達の方を向くと手を差し出した。


「答えは出たのですよね?ならば今夜にでもここを出ましょう」


 アシェルとネリーは驚きを隠せずにいた。


「もう出るの?」

「はい、早いに越したことはありません。気持ちが変わるまえに、決意した時に動くのが一番いいのです。マナ様もよろしいですよね」


 マナはその問いに頷いた。


「はい、外に出るなら今日がいいです。守人様は今日、大樹のもとへ行っているため監視も薄いです。私が聖域を出る道までご案内いたします」


 そう言って、マナはアシェルとネリーにローブを着せた。

 準備が整うと聖殿の外に出るためにイゼルの浮遊魔法で静かに外へでた。――

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