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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第八章:再訪
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ep.1 風の守護者の試練

 アシェルたちは久しぶりに、山岳地帯のレイナス地方へ足を踏み入れていた。

 レイヴは初めての地域に興奮気味で、先頭を走って行った。

 それに対し、ネリーは再び高所恐怖症が発動していた。


「ああ……もう無理よ!」


 崖沿いに張られた補助ロープを掴みながら、ネリーはしゃがみ込んだ。

 アシェルはネリーの手を引っ張り、平らな場所まで誘導した。


 イゼルがなかなか来ない二人を気にし、後ろを振り返った。


「アリスティアまであともう少しです、頑張りましょう」


 イゼルが鼓舞し、ネリーは震えながらも頷いた。

 以前はリエルが案内してくれたので、アリスティアまでは早く着いたが、今回はその助けもない。


 アリスティアに着いた時にはすでに太陽が沈みかけていた。


 門兵がアシェルたちの姿を見ると、驚いたような表情を浮かべていた。

 すぐに王の間へと案内され、アシェルたちはその場でテオラ王が来るのを待っていた。


 しばらくすると、テオラ王が現れ、その後ろにはリエルもいた。


「これは、イゼル殿。またお会いできて嬉しい限りです。本日はどうされたのですか?観光ですかな?」


 テオラ王は穏やかな笑みを浮かべている。


「いえ、今回は観光ではなく、アリシエル様に会いに来ました。観光は旅が落ち着いたらゆっくりと……」

「ほう、そうですか。観光ではないのは残念ですが……なるほど、アリシエル様にお会いしにきたのですな」


 テオラ王は穏やかな表情から真剣な顔つきになり、静かに頷いた。


「ならば、試練の場所までまたリエルに案内をさせましょう。……しかし、今日はもう遅いです。こちらにお泊まりになって明日の朝行くことをお勧めしますぞ」


 イゼルは頷いた。


「ええ、以前泊まらせていただいた宿で休ませていただきます」


 話が終わるとアシェルたちはその場を後にし、宿へ向かった。

 以前は来賓という形でタダだったが、今回はしっかりとお金を取られた。

 そして、朝が早いということで、その日はすぐに眠りについた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 窓から差し込む朝日でアシェルは目を覚ました。

 寝相の悪いレイヴを起こし、イゼルと共に食堂へ向かった。

 以前と変わらず、食堂は賑やかであった。


 アシェルたちは食事を済ませると、テオラ王のもとへ向うため、宿を出た。


 しかし、宿の前にはすでにリエルが立っており、アシェルたちがやってくると「こっち」と言って手招きをした。


「久しぶりね。今日はそのまま試練まで連れて行きなさいってお父様に言われたわ。ちなみになんだけど、試練を受けるのはアシェルだけよね?」


 リエルはアシェルを見て尋ねた。


「うん、そうだよ」

「そう、ならこんな大人数で行く必要ないわね。試練は神聖な儀式だから、必要以上に人は連れて行けないの」


 こうして、アシェルとイゼルがリエルについて行くことになった。

 残された二人はリエルの護衛の案内のもと、アリスティアの観光へ向かった。


 アリシエルの試練までの道は長い。

 アシェルが息を弾ませながら歩いていると、リエルが近づいてきた。


「アシェル、今回はまたなんで突然試練を受けるの?」

「ゴルヴァン様からアリスティアに向かうように言われたんだ。リエルからもらった首飾りから風の守護神の気配がするって……」


 リエルはアシェルの首に掛けられている首飾りに目を向けた。


「そうなの……私の首飾りが役に立ったのね。護身用にあげたんだけど……もしかしたら、アリシエル様もそれを介してアシェルを見ていたのかもしれないわね」

「そうなのかな?前は認められなかったからな……少し緊張するよ」


 アシェルは笑ったつもりだったが、緊張で顔がひきつり、微妙な顔になってしまった。


「大丈夫ですよ、アシェル。ゴルヴァン様にも認められたのです。この時点でアリスティアに導かれたということは何かいいことが起こりますよ」


 イゼルは微笑んだ。

 その言葉と表情にアシェルの緊張は少しほぐれた。




 門の前にたどり着き、リエルと別れると、アシェルとイゼルは試練の間に向けて長い階段を登って行った。

 

 以前と変わらず上に行くにつれて風は強くなる。

 道が分たれた場所はイゼルが先に飛び、その後アシェルが飛ぶ。

 無事に上まで辿り着くと、アシェルたちは急いで塔の中へ入った。

  

 以前は、この先の試練の間でヴァルクレアと遭遇した。

 そのため、アシェルたちは周囲を警戒して進むが、あたりからは敵の気配は一切しない。


 試練の間に入ると、真ん中に鎧姿の人が立っていた。

 アシェルとイゼルは敵かと構えたが、鎧姿の者はこちらを見つめるだけで、敵意は一切ない。


「よくぞ、ここまで辿り着いた。私はアリシエル様に選ばれし風の守護者」


 守護者という言葉に、アシェルたちはすぐに警戒を解いた。

 それはゴルヴァンの守護者のような神性な存在ではない。

 ただの人間だった。

 

「試練を受ける者よ、この円の中に入るのだ」


 守護者を中心に弧を描くように、線が引かれていた。

 アシェルが中に入ると弧を描く線が光りだし、アシェルと守護者の周りに結界が張られた。


「試練の内容は簡単だ。この結界を破ること。しかし、私はあなたに攻撃をする。私を倒し、結界を破壊するのがこの試練の内容だ」


 守護者は言い終えると槍を構えた。


 アシェルも構えた瞬間だった。

 ドクンと体が波打つように揺れた。


(何かが、身体の奥に入り込んでくる……)


 足元がふらつき、アシェルは思わず前屈みになった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「アシェル……?」


 イゼルはアシェルの様子を心配し、声をかけた。


 だがアシェルはまったく応えない。

 ただ、低く呟いた。


「……アース・バインド」


 次の瞬間、砂が生き物のように舞い上がり、

 守護者の体を一瞬で拘束した。


 アシェルは顔を伏せたまま、杖を地面に突き立てる。


――ぱん、と空気が弾ける音がした。


 結界が、一撃で砕け散ったのだ。

 守護者は驚いたように目を見開いていた。

 砂の拘束が解けると、しばらく呆然としたようにその場に立ちつくし、そしてゆっくりと後ろの扉を指差した。


「……よくぞ、結界を破った。アリシエル様のもとに向かうがいい」


 イゼルは結界が消えたのを確認すると、アシェルの近くに寄った。


「アシェル……大丈夫ですか?」


 イゼルの優しい声に、アシェルは意識を取り戻すかのようにゆっくりと顔を上げた。


「あれ……そうか。僕がやったのか」


 アシェルの記憶は混濁していた。


 しばらく、誰かが自分の中に入っている感覚があったのだ。

 それは、アシェルの意識はあるのに体を勝手に動かされている感覚であった。


 イゼルの支えを借り、アシェルはアリシエルのもとへ向かった。


 胸の奥に、自分のものではない微かな光だけが残っていた。

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