表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第七章:ゴルヴァンテ国編
35/57

ep.2 第一の試練

 玉座の奥、カーテンで覆われた先には下へと続く階段があった。

 カイゼルを先頭に、アシェルと同行者二人がその階段を降りると、複雑な紋様の大扉があった。


 大扉には封印がかかっているのか、青白い光を放っていた。

 アシェルが不思議そうにその扉を見つめていると、同行者の一人がアシェルの近くに来た。


「この扉は、継承者の証を持つ者だけが開けられるのです」


 隣にいた柔和な青年が、優しい声で説明した。

 柔らかな銀髪、垂れ目の穏やかな印象。

 だが、鍛え上げられた体つきは、ゴルヴァンテの戦士であることを物語っている。


 対して、もう一人は異様に大きく、重鎧の上からでも筋肉がわかるような男だ。

 彼は無言で、ただ前を見据えていた。


 カイゼルは胸元から首飾りを取り出すと、大扉に嵌め込まれた赤い玉に当てた。

 瞬間、青白い光が吸い込まれるように消え、内部で巨大な錠が外れる音が響いた。


 ゴゴン――


 二人の同行者が扉を押すと、ゆっくりと闇へ続く空間が開いた。


「ここからはゴルヴァン様の神殿だ。外部の者でも、ここでは俺たちと行動を共にしてもらう。勝手な行動はするな」


 カイゼルの言葉に、アシェルは大人しく頷いた。


 アシェルたちは神殿の奥へ進んだ。

 内部は全てが古い石でできていた。

 天井からわずかに砂が落ち、足音を返す壁は、触れると小さく震えている。

 石の隙間から風が漏れ、まるで神殿そのものが呼吸しているかのようだった。


 アシェルがあたりを珍しそうに見ていると、先ほどの柔和な青年が近づいてきた。


「アシェルさん、俺たちの自己紹介がまだでしたよね。俺はライオスです。そしてあそこの大きな男がガルドです。あいつは基本喋らない奴なんで、わからないことがあったら俺に聞いてください」


 ライオスの柔らかな笑みは、ゴルヴァンテ国では異質ですらあった。

 しかし、不思議と安心できるものだった。


 ライオスは人懐っこい性格なのか、ゴルヴァンテのことや自分たちのことを色々と話してくれた。

 その話から、ゴルヴァンテの人々は強面な者が多いが、仲間想いで、友情を重んじる者が多いということがわかった。

 戦士としての誇りを持ち、仲間を守るために岩のように立ち続ける。


 そして、会話の端々からカイゼル、ライオス、ガルドは幼き頃からの仲で、深い絆が築かれていることがわかった。


「ライオス、外部の者にそこまで話さなくてもいいだろ」


 先頭のカイゼルが射抜くようにライオスを見た。

 

「おっと、失礼」


 ライオスは、特に悪びれた様子もなく謝った。


 そのやり取りを見ているだけで、アシェルは自分が試練を受けに来たことを、つい忘れそうになった。

 ゴルヴァンテの人々は「人らしくない」とすら思っていたが、こうして親しい者同士の関係を見る限り、その印象は少しずつ崩れていく。




 やがて、ぽっかりと開けた円形の広場に出た。


「……何もない?」


 カイゼルが不自然さに眉をひそめる。

 その一歩先で、石の床が波打つように歪んだ。


「危な――」


 言い切るより早く、足元が粘土のように崩れ、四人は闇へと吸い込まれていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アシェルは柔らかな砂の上で目を覚ました。

 周囲は真っ暗だが、アシェルの足元だけが不自然に明るい。


「……カイゼルさん?」


 呼びかけても返事はない。

 転がった杖を拾い上げ、闇へ向かって歩き出す。


 ふと、背後に気配がした。


 振り向いた瞬間――

 そこには石でできた“人”が立っていた。


(武装……してる?いや、違う……)


 目を凝らすほどに輪郭が揺らぎ、“誰か”の姿にも見える。


 一度瞬きをした時には、複数の石人間が迫っていた。

 その眼孔に当たる部分が、赤く微かに光っている。


 敵意だけは、確かだった。


「フレア・ショット!」


 放った炎の矢は一体を砕いたが、闇の奥から次々と同じ姿が現れる。


 一体がアシェルに飛びかかり、押し倒した。

 石の腕が首を押さえつけ、呼吸が苦しくなる。


(まずい……)


 拳が振り上げられ――


――バチン


 頬に走った痛みは、拳の重さにしては軽すぎた。

 その軽さに、アシェルの意識が揺れる。


「おい!! アシェル!!」


 耳の奥で、誰かの声が弾けた。

 景色がぐにゃりと歪む。


 次に目を開けた時、目の前には――


 カイゼルがいた。


 すすで汚れ、肩で息をしている。

 その背後にはライオスとガルドもいた。


 アシェルが見ていた“石人間”は、三人そのものだった。


「よかった。アシェルさん、幻覚見てたんです。俺たちのこと、ずっと敵だと思って魔法を撃ってましたよ」

「まったく、目を覚まさなかったらどうしようかと思った。ここは試練の場だ。すでにゴルヴァン様の試練が始まっている。気を抜くな」


 カイゼルはそう言うと、部屋の真ん中に目を向けた。

 神殿の中央に残った石像が、まるで背骨を伸ばすように動いた。


「――よく、我が幻覚を越えた」


 その声は石の震えのように低かった。


「試練は、扉を越えた時からすでに始まっている。目に映るものが真実とは限らぬ。今のは、お前たちの意志と絆を確かめるための試練」


 石像はゆっくりと構えを取った。


「では……最後の試練だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ