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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第六章:修行
33/59

ep.5 リオネル

 小鳥の囀りと穏やかな風が、アシェルたちの間を通り抜けた。

 あの禁域の冷たさが嘘のようで、アシェルは思わず深呼吸をする。

 肺の奥に広がる温かい空気が、確かな「生」を思い出させた。

 そして今、アシェルたちはエルヴァレンの次期長候補であるイゼルの弟リオネルと対面していた。


「自己紹介が遅れました。私、エルヴァレンの次期長候補のリオネルと申します」


 その穏やかな声に、アシェルは“イゼルの弟”というよりも“ひとりの賢者”の威厳を感じた。

 続いてアシェル、ネリー、レイヴも順に名乗る。

 ロシュベルは面識があるらしく、親しげに言葉を交わしていた。

 全員と挨拶が済むとリオネルはすぐに本題に戻った。


「それで兄上、先ほどの話に戻りますが――歪みについてです。この結界の歪みはかなり瘴気が濃く、偵察に来ていた者から歪み人の目撃情報もありました。

それが突如として消えたのです。……自然消滅、なんて考えられません。偶然ここにいた兄上は、何かご存じでは?」


 イゼルは顎に手を置き、わずかに眉を寄せた。


「さて……正直私にも何が起こったのかわからないのです。ただ、歪みというものはこの世界の理に属さない。もしそれが消えたのだとすれば――魔界で何かが起きたのかもしれません。あるいは……」


 イゼルはわずかに目を細めた。

 イゼルの後に続く言葉に期待するかのようにリオネルは身を乗り出した。


「聖導師様が現れた、なんてこともあるかもしれないですね」


 一瞬の沈黙のあと、イゼルはにこりと微笑んだ。


「……兄上、揶揄わないでください……聖導師様が外に出られるのであれば聖域から報せがきます。兄上もご存知でしょう?」


 イゼルの冗談だと思ったのか、リオネルは呆れたように首を横に振った。


「ええ……そういえば最近の聖域の様子はどうなのですか?何か聞いていますか?」


 イゼルは何気ない口調で問いを返した。

 リオネルは不思議そうに頭を傾げた。


「いえ……?特に何も」

「世界がこんなにも瘴気に覆われているのに、聖域は、何も?」

「兄上……我々は聖域の動きを知らされていません。それに、彼らを詰問するような言い方は……」


 リオネルは困ったように眉を下げた。


「そうですね。失礼しました」

「それでは、我々は歪みの調査を続けます。その前に、兄上……」


 リオネルはイゼルに近づき、真っ直ぐに見つめた。


「私たちと共にエルヴァレンへ戻ってください。やはり、皆、心の奥底では兄上の帰りを待っています。私はこの席を兄上のためにずっと空けておきます……本来ここにいるべきは兄上のはずなのです!」


 リオネルは力強く言うと下を向き、顔を伏せた。


「リオネル、すみません。今はまだ戻るわけにはいきません。けれど、今の旅がひと段落したら一度、エルヴァレンに帰ろうかと思います」

「それはいつなのですか?」

「分かりません……また連絡します」


 リオネルはそれ以上問い詰めることはせず頷き、そして他の賢者たちと共に禁域のあった方へ姿を消した。


 リオネルたちが去ったあと、静寂が戻った。

 イゼルはふと空を見上げた。


「……弟は、いつも真っ直ぐですね」


 イゼルは独り言のように、そして愛おしむように弟の消えた場所を見つめた。


「それじゃあ俺もエルヴァレンの賢者たちと共に行く。レイヴ、達者でな」


 レイヴとロシュベルは拳を合わせ、師弟の挨拶を済ませた。

 イゼル、アシェル、ネリーとも挨拶を済ませ、ロシュベルは禁域の方へと姿を消した。


「さぁ、旅を続けましょう。次は石の国ゴルヴァンテです」


 イゼルの言葉に、全員が頷いた。

 新たな仲間レイヴを迎え、アシェルたちは歩き出す。


 光が差す方へ――次なる地、石の国ゴルヴァンテへ。

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