表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第六章:修行
30/57

ep.2 二人で協力すれば

 ぬるく湿った風が肌にまとわりついた。

 森全体が息を潜めている。

 枝の擦れる音さえ、不気味に響いた。


「うわ、なんだか不気味な場所だな。近くに禁域があるのは知っていたけど……」


 レイヴは垂れ下がる幹を払いのけながら、あたりの木々を見て身を震わせた。

 木々は黒く、渦巻いたような歪な形をしていた。


「歪みには近づかないように気をつけるぞ」


 アシェルは頷いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 歪み――魔界から走った“ヒビ”。

 初級程度の魔物がこの歪みを介してこの世界に入り込む。

 そのため、エルヴァレンの賢者たちによって結界が張られ、その場所を禁域という。


 ごく稀に、この禁域で力をつけた魔物が中級以上に進化し、長くこの地に蔓延る。


「早く中級の魔物見つけてちゃっちゃと倒すぞ!アシェルは俺の後ろにいろよ!俺が守ってやる」

「う、うん。だけど僕も修行に来てるから後ろからの援護はさせてもらうよ」

「あ、そういやそうだな」


 二人は禁域の奥へと進んでいく。

 しばらく進むと、ぶおっ、と重い風が鳴った。

 二人は足を止め、前方を警戒した。


 足音を立てず、木に隠れながらゆっくりと進むと、そこには緑色の一つ目の巨人が眠っていた。


「トロルだ……」


 レイヴは小声で呟いた。


「あいつが師匠たちの言っていた中級の魔物のはずだ。普通のトロルと違う……」

「普通のトロルって?」

「普通の奴らはあんなに体はゴツゴツしてねぇ。あとあんな瘴気なんて出さねぇ」


 レイヴの言う通り、目の前のトロルはところどころ石化したような箇所があった。

 そして黒い靄を体中から出していた。


「禁域の影響を受けて変異してるんだろうな」


 レイヴは独り言のように呟いた。


「俺の刃届くかな……アシェルは身を隠してろ。あいつが眠ってるうちに俺が仕留めてくる」


 レイヴはそう言うと一人飛び出し、トロルに向かって一直線に走り出した。

 トロルは深い眠りについているようであった。

 レイヴがその巨体を登っても、トロルは眠り続けていた。


 レイヴはトロルの頭まで到着すると、目に向けて躊躇なく剣を振りおろした。


 しかし、瞼にかすり傷をつける程度であり、その衝撃でトロルは目を覚ましてしまった。

 その巨体を揺らし、虫を払い除けるようにレイヴに手を伸ばした。


「くそ!皮が硬すぎるだろ」


 レイヴはトロルの手を避け、地面に着地した。

 完全に目を覚ましてしまったトロルはその巨体を起こし、レイヴを見た。


「やべ!!」


 トロルの拳が地面を抉り、耳をつんざく咆哮が響いた。


 次々と襲う拳をかわし、隙をついて皮膚に斬り込む。

 だが、簡単には通らない。

 石のように硬化した部位は刃を弾き、分厚い皮膚も衝撃を殺す。

 このままでは剣のほうが先に折れる。


 アシェルは自分にできることがないかとトロルとレイヴの戦いを凝視した。


 トロルに唯一ダメージを与えられる部位は大きな目であろう。

 幸いなことにトロルはレイヴに集中している。


「フレア・ショット!」


 炎の矢がトロルの目に向けて放たれた。

 トロルは体勢を崩し、そのまま尻餅をついてもがき苦しんでいた。


「いいぞ!アシェル」


 レイヴはトロルの肩まで駆け登るとその首に刃を振り下ろした。

 しかし、先ほどと同じように分厚い皮はレイヴの刃を弾いた。


「あー!やっぱ通らねぇ!この瘴気が装甲になってやがる!」


 レイヴは後ろに下がったが、怒りに支配されたトロルはレイヴを空中で掴み、その体を握りしめた。


「ぐあぁぁぁっ……!」


 レイヴの骨が軋み、今にも意識を失いそうであった。


「やめろ!!」


 アシェルが叫ぶと同時に、胸の奥が焼けるように熱くなった。

 その瞬間、手のひらから光が溢れ、あたりを包み込んだ。


 トロルが悲鳴をあげ、瘴気が霧のように消えていく。


 光が収まると、手のひらがじんじんと痺れた。しかし、今はそんなことを気にしている暇はなかった。


「げほっげほっ!わりぃ……アシェル、助かった」


 レイヴはアシェルの元までやってきて、そして不思議そうにアシェルを見た。


「お前のその力もしかして祝福の力か?」

「そうかもしれない……」


 アシェルは再び祝福の力を使えたことに感動していた。

 再びトロルの姿を見ると、先ほどまでトロルの体から放たれていた瘴気が完全に消えていた。


「いけるかもしれねぇ!」


 レイヴは飛び出した。

 トロルは怒りに任せて、地を砕くように暴れた。

 それに対し、レイヴは先ほど握りつぶされそうになったことで手負であった。

 明らかに先ほどよりも動きが鈍っている。


 木々をなぎ倒す勢いで、トロルは暴れ回り、レイヴは地面に叩きつけられた。

 意識を失っているのか、レイヴはぐったりとした状態で地面に伸びていた。

 トロルはレイヴを掴むと、口へと運んでいった。


「ばか!!!」


 アシェルは近くにあった大きな岩を見て、杖を構えた。


「位置を変える……! トランス・ポイント!」


 大きな岩はその場から消えると、トロルの口の中に移動した。

 驚いたトロルはレイヴを放り出し、口の中の岩を出そうともがいていた。

 レイヴは地面に投げ出された衝撃で目を覚ましたのか、よろよろと起き上がりトロルを見た。


「もらうぜ……!」


 トロルがもがいている隙にレイヴはトロルの頭上まで登り、そして目を剣で突き刺した。

 先ほどとは違い、瘴気がなくなったことでレイヴの刃はすんなりとトロルの体に沈み込んだ。

 トロルは暴れ回っていたが、レイヴはそのまま間髪入れずにトロルの太い首を斬り落とした。


 レイヴはトロルの血を浴び、全身が赤く染まった。

 鉄の匂いが鼻を突き、飛び散った熱い血が肌に焼きつく。


 レイヴはいつもと変わらぬ笑みで、親指を立てた。


「やったな!アシェル!!」


 アシェルもホッと息を吐き、そしてレイヴと同じように腕を前に出し、親指を立てて笑った。

 二人の笑い声が、静まり返った森に溶けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ