ep.3 トルメリアの最後3〜ロシュベルの記憶に残るもの〜
男の名はロシュベル。
勇者との長い旅の果て、彼はひとり故郷トルメリアへ向かっていた。
しかし、村へ着くとそこにはロシュベルの記憶にある故郷はなかった。
あたりには死体が転がり、家は崩壊していた。
魔物が村の中に潜み、ロシュベルを襲ってきたことですぐに状況を理解した。
自分たちが魔王に敗れたことで、魔物たちが人々を襲い始めたのだと。
トルメリアの惨劇が、そのすべての始まりだとロシュベルは悟り、己の行いを悔いた。
しばらく歩いていると、ある女性が目に入った。
剣を下げ、家の前に立っている。
それはまるで何かを守っているようであった。
「おい、まだ意識はあるか?」
ロシュベルが問いかけると女性の体は力なく崩れた。
ロシュベルは倒れた女性を抱き上げた。
かすかに瞼が開き、女性の瞳がロシュベルを捉えた。
細い指が、ゆっくりと家の中を指した。
「箱の中……私の子供がいるの。お願い……」
そしてその手はダラリと力なく垂れ下がり、女性は息を引き取った。
ロシュベルは女性をゆっくりと寝かせると家の中に入り、地下への道を見つけた。
そして女性の言っていた箱を見つけた――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ロシュベルは深い眠りに落ちた少年を抱えて、外へと出た。
トルメリアを後にし、ロシュベルは森の奥の自宅へ向かった。
少年をベッドに寝かせ、身の回りの世話をし、数日がたった。
ロシュベルは初めは慣れないことに疲れて眠っているのだろうと思っていた。
しかし、少年はなかなか目を覚まさないため、胸の奥に不安が芽生え始めていた。
「死んだのか……?」
ロシュベルは眠る少年の息を確認しようと、手を少年の口元に近づけた。
すると少年の目が開いた。
「っ……!目を覚ましたか」
少年の瞳はロシュベルを捉えると、体を起こした。
「……母さんは?」
「……亡くなった」
少年は目を見開き、あたりを見まわすと、がっかりしたように膝を抱えた。
「……何か飲むか?」
少年はロシュベルの問いにはなにも答えず、じっとしていた。
ロシュベルは頭を掻き、椅子の背にもたれた。
暖炉の火の明かりが、少年の頬を静かに照らしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから、三ヶ月がたった。
何も食べない少年にロシュベルは生きるため、無理やり食べ物を食べさせ、身の回りの世話をした。
互いに何も喋ることはなく、ロシュベルは少年の身の回りの世話が終わるとトルメリアに向かい、村人たちの埋葬をした。
そんな日々が過ぎ去った。ある日の夕方、トルメリアでの埋葬作業が終わり、家に帰ると少年の姿がないことに気づいた。
暗くなる前に少年を探さねばと、少年を探し、森の中を歩いていると、開けた場所でうずくまる少年の姿を見つけた。
「……おい、帰るぞ」
ロシュベルの声にピクリと反応し、少年はゆっくりと顔を上げた。
しかし、その場からまったく動く気配を見せない。
ロシュベルはどうしたものかと悩み、最終的にその場で野宿することにした。
人の気持ちを考えることはロシュベルにとっては苦手分野であった。
しかし、少年が自分から行動したことには何か心の変化があったのだろうと、ロシュベルは少年を変に刺激しないようにと行動を共にしたのであった。
毛布で少年の体を冷やさぬよう包み、焚き火でスープを温めた。
いつものように食べないだろうと思っていたが、なぜかその時の少年は素直に自分から食べた。
ロシュベルの中に驚きと嬉しさが込みあげた。
「お前、名前はなんていうんだ」
「……レイヴ」
「そうか、レイヴ。俺はロシュベルだ。俺もあの村の住人だったんだ」
少年はレイヴの言葉に無反応であった。
しかし、ロシュベルは少年の雰囲気が初めて会った時と比べて、少し柔らかくなったのを感じた。
ロシュベルは息を吸い、覚悟を決めて少年を見た。
「……どうだ、明日もう一度、村に行かねぇか?」
レイヴはその言葉に少し間を置いたが、素直に頷いた。
そしてその日の夜は二人星空を眺め、深い眠りに落ちたのであった。
翌日、二人は朝早くにトルメリアに着いた。
トルメリアには廃墟しか残っていない。
死体は全てロシュベルが埋葬していた。
レイヴはただ静かにその情景を眺め、ロシュベルの手を強く握りしめた。
ロシュベルはレイヴを家のあった場所まで連れて行き、母であったであろう女性が埋葬されている場所までやってきた。
「ここで、この家を守るように立っていた女性がいたんだ。お前の母かと思ってここに眠らせた」
それはただ板を立てただけの簡易な墓であった。
レイヴはその事実を受け止めたのか、その時ロシュベルと出会って初めて大きな声で泣いた。
ロシュベルは何も言わなかった。
少年の頭に手を伸ばしかけ――そして、そっと拳を握った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
季節は巡り、レイヴの体も戦士らしい体つきになり、明るく誰からも好かれる人へと成長した。
レイヴはロシュベルの指導のもと、村や町を襲う魔物たちの討伐をしていた。
レイヴはロシュベルが勇者の仲間であった事実を聞いたが、それでも勇者一行を恨む気にはなれなかった。
その事実を受け止めた上で、ロシュベルを師として尊敬していた。
ある日の晩、ロシュベルは改まって真剣な表情でレイヴをじっと見た。
「レイヴ、お前。もう少し感情を抑えろ」
「は?どういうことだよ」
ロシュベルとレイヴは魔物を撃退し、その感謝に村人たちから食事をご馳走になっていた。
レイヴは突然のことに顔を歪めた。
「お前の戦い方は荒々しいってことだ。……村を襲われ、魔物に対する恨みが人一倍強いのはわかる。だが、お前の戦い方は自身を傷つけ、周りも傷つける戦いだ。もう少し戦い方を学べ」
「なんだよそれ」
「限界を知り、自分が使える体力を考えろ。体が動かなくなれば、誰も救えない。その瞬間をお前は経験すべきだ」
「はぁぁ?」
その翌日、ロシュベルはレイヴを魔物が巣食う谷に落とした。
「くそ師匠ぉぉぉぉ!!!」
それから五年後――
谷で生き抜いた少年は、再び世界へ戻り、アシェルたちと出会う。




