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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第五章:レイヴとロシュベルの出会い
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ep.2 トルメリアの最後2〜レイヴの記憶に残るもの〜

「レイヴ、ここに隠れていなさい」


 母の声は、かすかに震えていた。


 レイヴは小さな箱の中へと入れられた。

 母は手にしていた剣をレイヴに渡し、箱の蓋へ手を伸ばした。

 レイヴは幼いながらも、この後の状況が悪い方向へ向かうということを感じ取っていた。

 

 蓋を閉めようとする母の腕に抱きつき、涙ながらに首を横に振った。


 「行かないで」という言葉が絞り出せないほどの恐怖に体は縛られていたが、それでもなんとか行動で母を止めることはできた。


 母は微笑み、そしてレイヴの額にキスを残した。


「大丈夫。あなたは強い子よ」


 上の階からはモノが破壊される音が聞こえ、母はレイヴを箱の中に押し込むと蓋を閉じた。


「母さ……!」


 声は、箱の奥に吸い込まれた。


「絶対にそこから出ないで!母さんとの約束よ」


 レイヴはすぐにでも母を追いかけたかったが、動けなかった。


 これが今でもレイヴの後悔の種となっている。


 母が去ってしばらく、魔物の鳴き声と荒々しくモノが破壊される音が聞こえた。

 レイヴは耳を塞ぎ、涙を流しながら震えることしかできなかった。


 しばらくすると静寂がやってきた。

 そこにじっとしてどれほど経ったか、レイヴは外に出ようとしたが、母から出るなと言われていたことを思い出し、再び身を縮めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 気づけばレイヴは眠っていた。

 上の階から聞こえる足音で目を覚まし、その音にレイヴの体は芯から冷えた。

 また魔物が来たのではないかと全身が緊張し、腕に握りしめていた剣を鞘から抜いた。


 その足音は地下への階段を降り、あたりを歩き回っている。

 レイヴの心臓は今にも破裂しそうなほどバクバクと鼓動していた。

 だが、恐怖に負ければ自身に命がないことを本能的に理解していた。

 相手がこの箱の前に立った瞬間、飛び出してその喉元を斬る自分を思い描き、恐怖を押し込めた。


 そしてその瞬間は来た。


 レイヴは箱から飛び出し、目の前の影に剣を振るった。

 だが、刃は宙を裂いただけだった。

 次の瞬間、服を掴まれ、体が宙に浮いた。


 目の前の相手は大きな体格であった。

 フードをかぶっていて顔は見えないが、かなりの修羅場を潜り抜けてきた相手であると、瞬時に理解できた。


「うがあぁぁぁ!!!」


 レイヴは叫び、もがき、相手の手から逃れると着地と同時に地面を蹴り、相手の懐へと飛び込んだ。


「ぐっ!?……本当に、まだこの村にもこんなに威勢のいいガキが残っていたとはな」


 レイヴは相手の腹へ剣を突き刺したと思っていたが、相手は剣を掴み、レイヴの動きを拘束していた。


「う゛うううぅぅう!」


 レイヴは相手の腕の中でもがき、抜け出そうとした。

 この時、レイヴの頭の中は怒りで満たされ、誰でもいいから殺したいという破壊衝動に駆られていた。


 男はレイヴを強く抱きしめた。


「くっ……!なんて力だ。落ち着け。俺はお前の敵ではない」

「母さんを……母さんを返せぇ!!」

「俺は、おまえの母から託されて来た」


 レイヴはハッとし、顔を上げた。

 そこにいたのは、人の男だった。


「……母さんは……」


 男は静かに首を横に振り、レイヴの頭を胸の中に埋めた。

 レイヴは理解したくないと思いながらも男の胸の中で泣き崩れ、そのまま深い眠りへとついた。


 その日から、トルメリアに穏やかな風が吹くことはもうなかった。

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