ep.8 師弟の会話
外はすでに夜の闇に飲まれていた。
部屋の中は燭台の光だけで、頼りない灯がゆらゆらと壁を照らしている。
静かな空間で机を挟み、向かい合っているのは、ロシュベルとレイヴだけだった。
呼び出された理由がわからず、レイヴは落ち着かない様子で足を揺らしていた。
「おい、師匠どうしたんだよ。ずっと黙り込んでんじゃねぇか」
「レイヴ……お前、イゼルたちと一緒に旅に出る覚悟あるか?」
「え?旅?」
「イゼルがお前を連れて行きたいそうだ」
「ああ、さっきの話のことか!まぁ、ここにいても暇だしな。けどよ、師匠はどうするんだ?」
「俺はいかねぇよ。お前ひとりで行け。イゼルは俺よりもできたやつだ。……お前の感情の制御の仕方も教えてくれるだろう」
「……おう」
いつもと変わらぬやり取りのはずなのに、なぜか胸の奥がざわついた。
「お前が旅に出るなら伝えておかなければならないことがある」
「なんだよ、改まって」
「お前がこれから旅をともにするアシェルという少年は……聖導師だ」
「……は?」
レイヴは息を呑んだ。
自分の聞き間違いかと思い、ロシュベルをじっと見たが、その表情は真剣そのものだった。
いつもの冗談ではない。
「聞き間違いじゃねぇよ。俺もさっきイゼルから聞いたときは驚いた。……だがな、この旅は聖域を敵に回すことになるそうだ。お前はどうする?」
「……」
レイヴは沈黙した。
旅の先に何が待つのか、恐怖よりも好奇心が勝っている。
だが、ガーディアンを目指す者として、聖域を敵に回すのは将来を捨てるようなものだった。
レイヴは腕を組んだ。
「難しい話だな。でも……俺は難しいこと考えんの苦手なんだ。聖域を敵に回すって言っても、一番上の聖導師が旅に出てるんだろ?だったら、そっちのほうが面白ぇし、意味がある気がする。俺は行くよ」
「……ふん、そうか」
その声は低く、どこか安堵の響きを含んでいた。
ロシュベルはわずかに口角を上げ、静かに立ち上がった。
「明日、イゼルたちは出発するらしい。朝も早い。今日はもう寝ろ。……ちゃんと挨拶して行けよ」
「ああ、わかってるよ」
ロシュベルは背を向け、扉の前で一度だけ立ち止まった。
振り返ることはせず、そのまま部屋を後にした。
その背中に、レイヴは小さく頭を下げた。
その夜、窓の外では風が吹き、燭台の炎が小さく揺れた。




