ep.6 故郷のはなし
アシェルたちの目の前に、湯気を立てる茶が置かれた。
「飲め。心も休まる」
ロシュベルは人数分のカップを運び、自らも静かに腰を下ろした。
「いただきます」
一口含むと、ほとんど味はないが、ふわりと口の中に広がる香りに心が和らいだ。
アシェルの頬は自然と緩んだ。
「うまいか?」
ロシュベルはアシェルを見て尋ねた。
アシェルが頷くとロシュベルは「そうか」と一言こぼし、穏やかな表情で自身も茶を口に含んだ。
「はは、師匠あまり人を歓迎したことないから心配してたんだよ」
レイヴがそう言うとロシュベルはその頭に大きな拳骨を落とした。
「いって!何すんだよ!」
「お前は一言多い」
ロシュベルはそう言うとまた一口茶を口に含んだ。そして息を吐き、カップを机に置くとイゼルを見た。
「んで、お前はここに何しにきた。まだ旅を続けているのか?」
「はい、まだ旅を続けています」
「なぜだ?まだオルフェンのことを引きずってるのか?もう、俺たちにできることはねぇ。お前には故郷があるだろ。弟の肩の荷を、少しは下ろしてやれ」
その言葉に一瞬イゼルの表情は曇った。
「……私は勇者オルフェンを導けなかった。そんな者がエルヴァレンに戻ることなど許されるはずがありません」
「それはお前が決めることではないはずだ。お前は逃げてるだけだ。その分、弟が全て背負ってる。兄貴ってのはそれでいいのか?」
ロシュベルの声には、怒りよりも寂しさが滲んでいた。
「……」
イゼルは視線を逸らし、黙っていた。
「……まぁ、いい。だが、もう一度帰って少し弟の話を聞いてやれ。あいつは……リオネルはまだお前を待っている。お前が帰るまで長の座をあけているつもりらしい」
「……そうですか。ご報告ありがとうございます。旅が落ち着いたらエルヴァレンに行くことにします。気にしていただき、ありがとうございますロシュベル」
イゼルは話を切った。
ロシュベルはそれに少し不満だったのか頭を掻いたが、諦めたように息を吐きアシェルたちを見た。
「ちなみにお前、今子供を連れて何の旅に出ているんだ?この子供たちは?」
「弟子たちです」
ロシュベルはその言葉に驚いたように目を見開いた。
「お前が弟子を雇うなんてな。弟子を持てるほどの自信はないと抜かしてたのにな」
「それはあなたもでしょう。私もロシュベルが弟子を持つなど思ってもいませんでしたよ」
ロシュベルは何か理由を含んでいるかのように「あ〜」と唸りレイヴを見た。
「こいつは俺の里で見つけたガキなんだよ」
「戦士が集う里トルメリアでですか?だからあんなに強いのですね」
「師匠は知ってるの?」
アシェルの質問にイゼルは頷いた。
「ええ、アシェルは知らないですか?あそこは強い戦士を生む里として有名です。昔からガーディアンとなる者はあの里から選ばれると言われています」
アシェルはガーディアンが元人間だったことに驚きを隠せずにいた。
「そうだぜ!俺の里はいつでも次期ガーディアンを出せるようにって、小さい頃から戦士としての戦術、心得を学ぶんだ」
レイヴは得意げに胸を張った。
イゼルは少し考えるように首を傾げた後、ロシュベルを見た。
「ちなみに里に戻って連れてきたということは親からも了承を得たのですよね?あそこはかなり厳格な者が多いと聞きます」
イゼルの言葉に対し、ロシュベルは何やら言いにくそうに唸っていた。
レイヴはそんなロシュベルを制し、「自分が言う」と言ってイゼルをみた。
「……俺の母ちゃんと父ちゃんは、もう死んじまったよ。里のみんなもな。勇者一行が魔王倒しに行ってから数日で魔物の軍団が攻めてきたんだ……」
レイヴの言葉に誰もが沈黙した。
「別に、俺は勇者一行を責めちゃいねぇぜ。俺は師匠のおかげで助けられたしな。師匠がいなけりゃ俺も里のみんなと命を失ってた」
レイヴはロシュベルを見ると満面の笑みを浮かべた。
「俺は、里でただ一人の生き残りだ。だから、みんなの願いだった“ガーディアンになる夢”を、俺が繋いでいくんだ。俺の代で果たせなくてもいい。未来に伝えていく。トルメリアの教えを、絶やさずにな」
そう言い、レイヴはロシュベルに拳を突き出した。
ロシュベルは頷き、出された拳を軽くこずくとイゼルを見た。
「なぁ、イゼル。聞いた通りこいつも夢を持ってるんだ。俺はもう旅をする気がねぇ。だから、こいつをお前の旅に連れて行ってくれねぇか?」
ロシュベルの突然の告白にイゼルとレイヴは固まった。
静かになった空間に茶の香りだけが漂っていた。




