ep.3 聖域からの追跡者
鎧の継ぎ目がわずかに鳴る金属音が静かな森の中にこだました。
「ついに見つけました。聖導師様……」
離れた高台で、白き鎧のガーディアンがアシェルたちの様子を見つめていた。
「今、貴方様をお救いいたします」
降りようとした瞬間、背を射抜く殺気を感じた。
ガーディアンは足を止め、柄に手を添える。
「裏切り者が一人……私に何の用だ」
ガーディアンは後ろに視線だけを向けた。
「聖導師をお前たちに渡すわけにはいかない。あれは我が主、魔王様の鍵だ」
「主を誤った者に、生を許す道理はない。聖導師様は聖域のもの。回収対象だ」
「……俺の役目は足止め。聖域に入られたら、魔族が手を出せなくなってしまう」
暗い森から一歩、赤い外套と黒鎧の青年が月明かりに出た。
夜風が彼の短い黒髪をさらった。
「聖導師様をお連れすることが私の任務であるが……“現場判断”を命じられている。優先はひとつ――裏切りの掃討だ」
抜き放たれる白刃が、月を映す。
「覚悟はいいか、裏切りの勇者――オルフェン」
オルフェンはガーディアンに応えるかのように剣を抜いた。
「ガーディアン相手に、今の俺がどこまで通じるか……だが今日は勝ちに来たんじゃない」
ふたつの影が重なり、火花が散った。
初撃でオルフェンの骨が軋んだ。
オルフェンは刃をいなし、流した。
圧倒的に力はガーディアンの方が上であった。
横薙ぎ一閃、オルフェンは吹き飛ばされた。
だが着地の連続の踏み替えで死角へ滑り込み、枝、地面、そして背後へ刃を忍ばせる。
しかし、すべて流され、胸元を掴まれ、森へ投げられた。
木柱が折れ、肺が焼けるようであった。
「ぐっ……げほっ!……はっ、強えな。どこかで一度、息を乱さねえと」
オルフェンは仰向けのまま夜空を見た。
「星空は綺麗だな……」
そんなことを思いながら、ガーディアンがこちらに来るのを待っていた。
闇の向こうから、光の花の軌跡がふわりと伸び、その主が月明かりの下に現れた。
オルフェンは立ち上がった。
体があちこち軋み、動くたびに全身に痛みが走った。
「オルフェン、大人しくしていれば痛みなく逝かせてやろう。穢れた魂を大樹は受け入れないだろうが、これも大樹から力を受けた者としてのせめてもの配慮だ」
言い終わると同時にガーディアンは踏み込み、オルフェンに剣を振り下ろした。
「もう、ガーディアンの動きには慣れた」
オルフェンはそう言うと、身を翻しガーディアンの剣を跳ね除けた。
体勢を崩したガーディアンに、オルフェンは蹴りを入れ、後ろに吹き飛ばした。
やったと思ったのも束の間、空気がひび割れ、次の瞬間ガーディアンは目の前にいた。
上から振り下ろされた剣を瞬時に受け、斬撃を流したがすぐに振り上げられた。
体勢を崩しそうになりながらも、オルフェンはその反動を利用して宙を飛んだ。
ガーディアンの乱撃を受けながら、その後ろを取ると、左手から闇の波動をガーディアンの体めがけて打ち込んだ。
白い巨体は波打つようにドクンと揺れ、そのまま力なく地面に崩れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森に静寂が落ち、オルフェンの荒い息づかいだけが響いていた。
しかし、ガーディアンはむくりと何事もなかったかのように起き上がった。
「はは、やっぱり魔族以上のばけものだな……」
オルフェンは苦笑いした。
森を包む風が、ふたりの間を切り裂くように吹き抜けた。




