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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第四章:戦士の弟子
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ep.2 レイヴ

 ヴァルクレアと少年の戦いは続いていた。

 少年の手には剣はないが、ヴァルクレアの斬撃を避け、拳でダメージを与えていた。


「ぐっ!!……なかなか強いじゃない。最近はうれしいことばかりね。私よりも強い相手がたくさんいるんだもの。だからこそ残念、長年気に入っていたこの体をそろそろ捨てなければいけないから……」


 ヴァルクレアは自身の姿を慈しむように両手で抱きしめた。 


「ねぇ、あなたの名前は?名前を教えてちょうだい」

「魔物に教える名前なんてもんはねぇ……」

「つれないわね。だけど、ここで私は死ぬわけにはいかないの。君の進化を味わい尽くせてないから……。次はもっといい器で君と出会おう。そう、”彼” ならそれに相応しいかもしれない」


 ヴァルクレアは夜空を見上げていた。


「何を言ってやがる」


 少年は地面を強く蹴るとヴァルクレアに向けて拳を振り下ろした。

 地面に大きなクレーターができた。


 しかし、そこにはヴァルクレアはいなかった。


「ちっ……!」


 見上げると空には、黒い翼を広げたヴァルクレアがいた。


「さよなら、少年。今日は残念だけど……また出会えた時、本気の戦いをしましょう」


 ヴァルクレアはそう言い残すと、飛び去ってしまった。

 気づけば雨は止み、大きな月が青白い光を放っていた。

 少年はヴァルクレアが去っていった方角を見つめていた。

 

「逃しちまったか……」


 その表情は見えないが、少年はかすかに肩を震わせていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 魔物から攻撃をされ、大怪我を負った者たちはネリーとイゼルの癒しの魔法によって一命を取り留めた。


 アシェルは癒しの魔法が苦手なため、軽い怪我を負った人たちの看病をしていた。

 一通り終わると、どっと疲れが押し寄せ、アシェルはその場にへたり込んだ。


「お疲れさん!」


 元気な声が聞こえ、声の主の方へ振り向くとそこにはヴァルクレアと戦っていた少年がいた。

 店主とやりとりをしていたときのような明るい雰囲気に戻っており、アシェルはほっと胸を撫で下ろした。


「隣、いいか?」


 少年の問いにアシェルが頷くと、少年は嬉しそうに腰を下ろした。


「……あんたさ、なんであんな強い魔物に知られてるんだ?普通あんなのと出会えねぇだろ?」

「前に偶然出会って……戦闘を交えたんです」

「はぁ、なるほどな。よく生きて帰れたな。あんた強いんだな!」


 少年は感心したような顔をしていた。

 少年の素直な態度はアシェルの緊張を解きほぐした。


「……君に言われるほど僕は強くないよ。師匠に助けてもらったから……」


 アシェルはイゼルを見た。

 イゼルは見られていることに気づいたようで、こちらに近づいてきた。


「あれが、あんたの師匠か?」

「はい」

「ふーん……なるほどな」


 少年はイゼルをじっと見つめていた。


「アシェル、この少年と友達になったのですか?」

「いや、ただ話していただけ……」

「そうですか」


 イゼルは少年の方へ顔を向け、胸に手を置き、にこりと微笑んだ。


「初めまして。私はこのアシェルの指南役のイゼルと申します」


 イゼルは少年に手を差し伸べた。

 イゼルという名前を聞いた少年は何やら考え込んでいるようであった。

 しばらく沈黙が続き、“しまった”と思ったのか、少年は慌てて立ち上がりイゼルの手を取った。


「あ、すんません、俺の名前はレイヴです」

「よろしくお願いします、レイヴさん。君の戦い、見させていただきました。とても強いのですね。ところで、突然で申し訳ない。君の剣技……誰から教わりましたか?」


 レイヴは不思議そうに首を横に傾けた。


「俺のこと呼び捨てでいいっすよ。俺の師匠はロシュベルっていうおっさんっす。なんか昔は勇者一行の旅に――」


 レイヴは急に停止した。


「……あ、あんた、イゼルってもしかして、師匠と旅していた賢者か!?」


 レイヴは驚いたようにイゼルを見た。


「やはりそうですか。彼は元気ですか?」


 レイヴは悩むように顎に手を持っていき、唸った。


「……いやー、それが俺も久しぶりに師匠に会いにいくところで……」

「旅をしていたのですか?」

「……いや、それが違うんだ!!俺、師匠に魔物の巣窟の谷に落とされて、そこで五年修行していたんだ!修行というか、五年間出口が見つからなかっただけなんだけど……でも、ひどくないか!?」


 レイヴは文句を言い続けていた。

 イゼルは考えるように沈黙し、しばらくするとアシェルを見た。


「アシェル……少し寄り道をしてもいいでしょうか?」


 アシェルは頷いた。


「行こう。大切な人なんでしょ?」


 アシェルがにこりと微笑むとイゼルはほっとしたように表情を緩めた。

 イゼルはネリーにも許可を取ろうとしたが、ネリーは察したように「……ま、旅の道草も悪くないかもね」と返答した。


 イゼルは二人に「ありがとう」と礼を言い、レイヴを見た。


「レイヴ、君について行ってもいいですか?ロシュベルに会いたいのですか……」

「俺の許可なんていらないよ。だって昔の仲間だったんだろ?俺が連れて行くよ」


 レイヴはにこりと笑った。


 アシェルたちはその夜、レイヴと部屋を共にし明日の出発に備えた。

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