ep.1 宿屋で休憩
アリスティアから出て、アシェルたちは大雨に見舞われた。
「最悪よ!」
「とりあえず、ここら辺で旅人の宿屋を探しましょう!確か、この近くにもあったはずです」
アシェルとネリーはイゼルの後について行った。
雨はかなりひどく、霧のように視界を邪魔し、目を開けることもままならなかった。
「あ!ありました」
イゼルの言葉に前を向くと、ぼんやりと光がともっている場所があった。
アシェルたちは一目散にその場所に向けて走り出した。
宿屋に入ると店主が新聞から顔を上げ、顔をしかめていた。
「おいおい、ちゃんと絞ってからうちに入ってくれよ」
店主はやれやれといったように文句言い、新聞に顔を戻した。
「いやぁ、すみません」
イゼルは店主に謝り、アシェルたちは雨水をできる限り絞り、受付を済ませた。
すると突然、扉が大きな音を立てて開いた。
「たのもー!おっちゃん、泊まらせてくれ」
雨水を垂らしながら入ってきたのは、金髪の髪をかき上げたアシェルと同い年ぐらいの少年であった。
「……お前さん、金は持ってんのか?」
店主はぶっきらぼうに尋ねた。
「ねぇよ?だけど助け合いってもんだろ?」
少年は一切の邪気のない笑みを浮かべて答えた。
「だって、宿屋ってのは困ってる旅人を助けるためにあるんだろ?」
少年は懇願するように店主に駆け寄った。
「おい、それ以上ここをびちゃびちゃにするな。金が払えねぇならうちには泊められねぇよ。こっちも商売なんだ。ふかふかの布団で眠りてーなら金を持ってこい」
「ひでぇな〜!そんなこと言うか?俺、結構ショック受けてるんだぜ!?」
少年は文句を垂れた。
「わかった!じゃあさ、せめて宿の外にある木の下で休ませてくれよ!それならタダだろ?雨さえ凌げれば十分だ!」
「……好きにしろ」
その一連のやりとりをアシェルたちは遠くから眺めていた。
「なんだかかわいそうだね」
アシェルがボソリと呟くとイゼルが答えた。
「そうですが、旅人はいろんな人がいますからね。静観も大切です」
イゼルはそう言うと、自身の部屋へ進んでいってしまった。
アシェルは少年を横目で見ながらイゼルの後をついて行った。
偶然にも少年と目が合ってしまった。
獣に睨まれたような緊張が一瞬走ったが、少年はにこりと笑い、軽く挨拶するかのように手を振ってきた。
アシェルも自然と返してしまったが、後ろから来ていたネリーに背中を押され、部屋へ押し込まれた。
明日の支度を済ませると、アシェルたちは寝床についた。
外では少年と店主のやり取りが続いていた。
「おーい、おっさん!火を貸してくれ!」
「貸してやるから少し黙っとけ!」
店主は文句を垂れながらも少年の世話をしているようだ。
「うるさいわね……」
ネリーが毛布を引き寄せながら、ボソリと呟いた
「寝床完成!」
外で少年が無事寝る場所を確保したようで、アシェルは安心して眠ることができた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜遅く、雨の音以外に何やら騒がしい音が聞こえ、アシェルは目を覚ました。
「何やら騒がしいですね。様子を見てきます」
イゼルは飛び起きると、杖を持ち、外へ出て行ってしまった。
アシェルたちも急いでイゼルの後をつけ、外へ出た。
外には魔物たちが集団で押し寄せ、宿にいた旅人たちを引きずり出し、襲っていた。
宿屋の店主が血を流して倒れているのを見つけたアシェルはすぐに駆け寄った。
ネリーが回復魔法を使うと、店主は呻きながら目を開けた。
「なんで……こんなことに、今まではこんなことなかったのに」
店主はそのまま意識を離してしまった。
「ネリー、そのまま店主をお願いします。私は魔物たちを一掃します」
イゼルの足元に、淡い紋章が浮かび上がった
「アシェル、よく見ていてください。今から使う魔法は人を守り、悪しきものだけを打ち砕く魔法……セイクリッド・アーク」
イゼルの言葉とともに、人を囲うように光のカーテンができた。
空には数え切れぬほどの光の矢が現れ、それは雨のように地に降り注いだ。
降り注ぐ光は雨を弾き、まるで夜空にもう一つの朝が訪れたようだった。
人間には一切の害を与えず、魔物のみに降り注ぎ、一瞬にして魔物の姿はその場からいなくなった。
「すごい……」
「すごいでしょう?これは私の弟が考えた魔法なんです」
イゼルは自慢げにアシェルを見た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あら〜あらあら。もう終わっちゃったのかしら?たくさん連れてきたつもりだったんだけど」
聞き覚えのある声が聞こえた。
草を踏む音とともに、闇の中から現れたのはヴァルクレアであった。
「こんばんは♡あなた達を見つけてついてきちゃったわ」
ヴァルクレアは妖艶な笑みを浮かべていた。
「こんなに早く会うとは思いませんでしたよ」
「うふふ、私、気に入ったものにはかなり執着するタイプなの。そうだわ、前にした約束覚えてるかしら?」
ヴァルクレアは手を合わせてニコニコしながら質問をした。
アシェルたちは首を傾げた。
「忘れているなんて悲しいわ……したでしょ?次会った時、私の糧となるか魔王様に忠誠を誓うか決めておいてって、思い出したかしら?」
「そんなの答えるまでもありませんよ。どちらもお断りします」
イゼルはキッパリと答えた。
「ふふふ、わかったわ。じゃあ、あなたたちは私の糧となるのね。だけど、そこのぼうやだけは魔王様に差し上げたいの。抵抗するなら半殺しよ」
ヴァルクレアはアシェルを指差し、そして黒い霧から槍を取り出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい!おまえか、俺の寝床を破壊したのは!」
突然、大きな声と共にヴァルクレアの足元に一閃が入った。
金属同士が強くぶつかり合う音がこだました。
「なに?」
ヴァルクレアは余裕そうに笑みを浮かべていた。
ヴァルクレアに攻撃したのは店主とやりとりをしていた少年であった。
「お前魔物だな。ここをこんなことにしやがって、ぜってぇ許さねぇ!」
少年は目に見えぬ速さでヴァルクレアに連撃した。
ヴァルクレアは余裕のある表情で少年の攻撃を受け流していたが、だんだんと押され始めた。
ヴァルクレアは隙を見て、少年の持っていた剣を吹き飛ばした。
しかし、少年は剣が吹き飛んだことも気にせず、流れのままに拳をヴァルクレアの顔に入れた。
ヴァルクレアはよろめきながら、距離を取るべく後ろに下がった。
「っ……!!ふふ、私に一撃入れるなんて、なんて面白い子なの。その若さで……!すごく欲しいわ」
「ふん、こいよ!店主の恨み含めて、お前にすべてぶつけてやる!」
少年の表情は先ほどまでの明るい雰囲気とかは考えられないほど恐ろしい鬼の形相であった。
「あの剣技……ロシュベルと似ていますね」
アシェルの隣にいたイゼルがボソリと呟いた。
「ロシュベル?」
「ああ、私の仲間の一人だった戦士の名前です。旅が終わってから離れ離れになってしまったのですが、もしかするとあの少年は……」
イゼルは考え込むように少年の後ろ姿をじっと見つめていた。




